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婿取り最前線  作者: 華子
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「…と、言うことで、私結婚することになったから。相手は決まって無いけれど」




父様達とのやりとりを酒のつまみにして私は幼馴染兼護衛のルークに話した。

ルークとは本当に小さい頃からの付き合いで、互いのおねしょの回数から失恋回数まで知ってる仲だ。そのルークさえ今回の事には驚いている様で、王妃様すげぇなとか呟いている。



「ってか、アリア様今まで付き合いらしい付き合いして来て無いのに、恋愛出来んの?」




「巨乳に弱い、年中発情期な人間からすれば大丈夫じゃ無さげに見えるのだろうけれど、あくまで私は縁談を持ち込まれた側だし、相手の男の子から何かしらアクションがあれば多少なりと違うんじゃない?」




なんとも他人事な言い方だなぁと、自身で言いながらルークにそう言えば、ルークは失礼なと呟く。




「女性の胸は男の浪漫なの。あの柔らかさはマジに癖になるの、正義なの。それをそんな俗物みたいな…。第一、アリア様自分に王女以外の魅力ってあると思ってんの?その絶壁で?王族じゃ無ければ魅力無いよ?大丈…ぶっ!!」




あまりにも失礼極まりないルークに正義の鉄槌を食らわせて私は口を開く。




「何言ってるの、確かに胸は無いかもしれないが、顔は可愛いでしょ」



「や、俺の好みじゃ無いし」



「ルーク、私のこの顔で、身体つきがあそこのウエィターだったらどう?」



「そりゃあ、勿論美味しくいただきます…っテ!」



下品な言葉を口走るルークを再び引っ叩きながら私は溜息を零した。



「言ったのは私だからしょうがないけれど、あまり気持ち悪いこと言わないで。城内の酒場立ち入り禁止になったらどうするの?」



「どこに自国の王女立ち入り禁止にする酒場があるんだよ?それに酒の席で多少の猥談はつきものだろ」



「私はそう言うの好きじゃないの!」



「よく言うよ、男同士の恋愛について真っ昼間から濃厚に語る人間が」



それは前世からの癖だから治らないって。




「でも、本当アリア様恋愛出来んの?」



頬杖をついて目を細めながらルークは真面目に話しかけてくる。



「……分からない。生身の人間にときめいたのなんてもう大分昔のことだし」




むしろ前世だけど。なんて思って前世の記憶を辿る。背の高いあの男。なんでかあの男が前世の私は大好きだった。前世のことで覚えてるのは全部男と関わりのあることばかり。それ以外は自分の名前すら覚えてないのに、男の事は名前以外は鮮明に覚えてる。嬉しかった事も、幸せだった事も。でも、酷く傷付けられた事も。それ以来、男性と言う生き物に恋愛感情なんて持てなくなった事も。




「……アリア、」



「ん?」



名前を呼ばれて顔を上げれば熱っぽいルークの視線。忘れてた、この男は酔うと片っ端から女に見境い無くなるんだった。初めて二人で飲んだ時に無理矢理唇を塞がれ、奴の股間を思いっきり蹴り上げたのは今では笑い話しの一つだ。




「まだ忘れらんない?俺じゃ代わりにならない?」



そう言って私の手を握るとルークは私の掌に口付けてくる。思わず走る悪寒に口より先に私の手が動いた。

鈍い音がルークの頭に響く。ごめん、ルーク。割れた酒瓶を見て内心で謝った後、カウンター越しに見て見ぬフリをしていたマスターに私は声をかけた。



「マスター、悪いけどこの万年発情期男を宿舎に届けてあげて?私はもう帰るわ。」



はいよ、と頷くマスターに気絶したルークを託し、私は城内の酒場を出た。




酒場を出ると石作りの城内はひんやりとした空気が漂っていて、早春とは言えまだまだ城内は寒い。自室までの長い距離を足早に歩きながらふと窓の外を見れば青白い月が静かに佇んでいる。遠くから聞こえる衛兵や官吏達の喧騒がどこか霞がかかっていて私一人がポツリとこの場所に遺された様な錯覚が生まれる。



昔、あの男と共にこんな月夜を手を繋いで歩いた。私の歩くスピードに歩調を合わせて、私は彼と手を繋げてる事が嬉しくて、浮き足立って歩いてて、幸せだった。……もう、戻ることは無いけれど。



「……っと」



「わ、」



ぼんやりとしていたせいか、回廊の角を曲がった瞬間黒い影にぶつかりよろめけば、ぶつかった影に支えられ、私は慌てて顔を上げた。

深い闇色の髪と目を持った男が視界に飛び込んでくる。魔族だ。



「すみません、ぼんやりしてて。支えて下さりありがとうございます」



建国の祝賀会に招待された魔族の使者だろうか?などと思いながら男から離れ、頭を下げて礼を述べれば男は冷笑とも言える笑みを浮かべる。



「いや、それよりこの国に花街はあるか?人間の食事だけでは不十分らしくてな。お嬢さんが相手してくれるなら花街まで行かなくて済むんだが、どうする?」



答えは決まっているだろう?とでも言いたげな自信に満ちた言葉にカチンとくる。確かに魔族は魔力を補充する為にそう言ったことをする事があると聞いた事がある。その為に魔族は美形しかいないとも。そして、目の前にいるこの男は確かに整った顔立ちをしている美丈夫だ。それでも、まるでその誘いに私が応じるかの様な物言いが気に入らない。美丈夫だと思う。思うが、それだけだ。ましてや前世に囚われている自分にとって今しがた出会ったこの男に何の魅力を感じられるのか。ましてや、その辺の女と一緒にされて私の王女としての矜持がこの男を許すことは出来なくて、私は男へ笑みを向けた。



「…魔族の御使者の方でしょうか?お名前をお聞きしても?」




「……レイスだ。」



そう言ってレイスと名乗った男は無礼にも私の髪を一房つまみ上げ、髪へと口付けを落としてくる。



「……レイス様、花街は城を出て西の外れにあります。私はお相手出来ませんのでそちらでお食事をなさって下さい。それと、この国にいらっしゃるのならもう少しお勉強なさってからいらっしゃって下さいまし。」




王女の顔くらい把握しとけや、と言う気持ちを込めてそう言えばレイスは一瞬面食らった顔をするがにやりとした笑みを浮かべると私の腰へと手を回してくる。




「…なっ!無れ…っっ!」




「……知ってるさ、アリア・ローザンヌ・シュプール」




無礼だと、非難めいた声をあげようとすれば、低く艶めいた声色で名前を呼ばれ、唇を塞がれる。何が何だか分からず思考が鈍るが、それが口付けだと思考の奥で警報が鳴り私はルークに以前したように股間を蹴り上げようとすれば、ヒラリと交わされる。




「流石に若い娘みたいな反応は無しか。流石、"行き遅れ王女様"だ。」




笑いを含みながらそう言うレイスに私は唇を噛み締めた。



「王女様こそもう少し諸国の勉強をするといい。可愛さで誤魔化せる年齢はもう過ぎたんじゃ無いか?」



そう言うとレイスはくるりと踵を返す。



「…お待ちなさい!」



矜持を持って声を振り絞りそう声を掛ければ、レイスはヒラリと片手を上げるのみで、振り返ること無く夜の闇へと消えて行った。





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