SS.階段の快男子の怪談
うちの学校には『階段の快男子』という駄洒落のような怪談が伝わっている。
曰く、ある女子生徒が屋上に続く階段の最上段で足を踏み外してしまった。その時、階段の中程にいた男子生徒が、落ちてくる彼女を受け止め、一緒に階段を転がり落ちるも自らの体をクッションがわりにして彼女を守りきった。しかし、彼自身は頭をひどく打ち、それが原因で亡くなったという。
この話そのものは事実であり、彼はその英雄的挺身故に校庭にも銅像が建てられている。
で、怪談はこの後。顔中血まみれの学ラン姿の男子生徒の幽霊が校内に出没するらしいというのがここ数十年語り継がれてきたこの学校オリジナルの怪談だ。
そして、怪談があれば、その怪談の謎を解きたがる奴が出てくるのも必然。
現在、新聞部員である俺の彼女がそれに情熱を傾けており、軽音部の俺は彼女のアシスタント的なことをやらされている。
「今までもね、歴代新聞部員たちはこの謎に挑戦してきたの。でもね、みんなある時を境に急に調査をやめちゃうの。ある日突然ぱたっと」
「へーへー。さようですか」
メモ帳を片手に例の階段を上る彼女と俺。どうでもいいけど、余所見しながら階段を上るのは危ないからやめて欲しい。
「……っ!? きゃあぁぁ!!」
言わんこっちゃない。彼女が足を滑らせて俺の方に倒れこんでくる。
俺はとっさに彼女を受け止めたが、意外と勢いがあって俺もまたバランスを崩す。
くそっ、これじゃあの怪談と一緒じゃねえか!
せめて彼女だけは守ろうと彼女をしっかりと抱きしめて仰向けに落ちてゆく。
……が、誰かが俺たちを受け止めてくれた。
「……誰か知らないけど助かったよ。……っ!?」
振り向くと、そこには顔中血まみれの学ラン姿の男子。
言葉を失う俺たちに、彼は爽やかな笑顔でサムズアップ。そのまますぅっと見えなくなった。
しばらく呆けてから、俺は彼女に言った。
「もう調査やめようぜ?」
彼女は黙ってうなずいた。
Fin.