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Unlock  作者: 蝶ノ助
第一章 天地開闢《てんちかいびゃく》
5/15

第四話 ライオンとクマってどっちのが強いんですかね?

 


「おい!離せ!気安く抱きかかえるんじゃない!」


「ちょ、ジタバタすんな!逃げてんだから今!大人しくしろよ!」


 胸にぬいぐるみを抱きかかえ、とりあえず全速力。全力で走って逃げている。

 なんだよ!なんだよ!なんなんだよこの状況!なんだよあのミントグリーン野郎!なんにも分からないけど、アイツがなんかヤバいのは分かる!なんか分かる!

 俺は状況も理解しないまま、ただあの男から逃げていた。正直今どこに向かっているのかとかまったく考えていないが、それを気にする余裕は少しもないので、とりあえず道なりに走っている。

 ええい!もうどうでもいいから遠くにだ!

 腕にペチペチとした感触が伝わる。さっきはボクを逃がせと要求していたくせに、なんでかぬいぐるみはバタバタと暴れていた。ぬいぐるみ的には本気で抵抗しているのだろうが、お肌のプニプニ感のせいで攻撃力が低い。全く痛くない。


「だから離せ!!」


「おぶっ!?」


 あまり威力がないものだから油断していると、思いっきり頭突きを喰らった。顎にクリティカルヒット。……今のは痛い。

 顎への衝撃で腕の力が緩み、その隙にぬいぐるみは俺の拘束からスルリと逃れる。すると、そのまま俺の顔の真横までふわりと移動した。


「あ?何お前飛べるの!?」


「なんだ、そうじゃなかったらどう見えるんだ?キミの目は節穴か?」


「……いちいちムカつくなお前は」


「ふん、言ってろ」


 鼻で笑うぬいぐるみ。

 くっそーまじこいつムカつくわ!

 相変わらずの上から目線にまたも不満が口から飛び出しかけたが、このまま言い返しても埒があかない。さっきのあいつが追いかけてくるかもしれないし。だから不満は(仕方がなく)飲み込み、そのまま走り出した。

 そんな俺の心の内などつゆ知らず、あいつは俺の顔の横をすいーっと飛んでいる。羽ないのに。なんか余裕そうなその感じに、ちょっとまたイラッときた。

 ……いや、なんか軽く受け止めてたけど、なんだこの状況。

 少し冷静になって真横を見た。視線の先には、先程喋って動いたぬいぐるみがいる。そして平然と空を飛んでいる。すいーっと。何の躊躇いもなく。

 ――ぬいぐるみが飛んでるなんておかしいだろ、おい!羽ないとか正直そこじゃなかったろ俺!

 ちょっとこの展開に流され気味ではあったが、一回我に返るとツッコミ所満載だ。何ちょっと受け入れかけてんだよ俺。常日頃バカと呼ばれてはいるけど、ここまでバカじゃなかったはずだ。小学生の時はテスト満点取れてたしね俺!

 というかそれだけじゃなくて、なんでぬいぐるみが追われているんだ?しかもあんな、雰囲気からしてヤバイ奴に。

 さっき殴った男を思い出す。赤い目にミントグリーンの髪に真っ黒い軍服。明らかに危ない要素しかない。

 なんかアレか?悪の組織的な?

 悪の秘密結社的なのが、何かしらの情報を持っているこいつを狙って追っている的なあれなら……なんかこう、それっぽく思えなくもない……ような?いや、でもサングラスが似合うような厳ついおっさん達がプニプニボデイのぬいぐるみを追い回すシュールさを考えると……なんか、こう……微妙に納得いかない。

 はっ!もしかしてこいつは実験動物的な!?さっき体温あったし!

 一回ぬいぐるみを持ち上げた時に感じた温もりを思い出す。あの時は見て見ぬフリをしたが、重さは子犬を抱きかかえたような、内臓ありそうな重さだった。

 つまりこのぬいぐるみは生き物で、人工的に造られた的なアレで、研究所から逃げてるみたいな……いやいやいやいや。流石にあり得ないだろう。そんな非現実的な……。いや、それ言ったらぬいぐるみが喋って動いて、おまけに飛んでる事が現実味ねーな?

 なんというか、今更現実うんぬんを求めるのは間違っている気がする。現状のぶっ飛び加減がヤバイし。どちらかと言うとあまり深く考えないで流してしまった方がいいのではなかろうか。バカは余計な事考えない方がいいしな、うん。

 あ、あれ……でもさっきミントグリーン野郎殴っちゃったよな……?もしかしてこれは巻き込まれてしまっているというか踏み込んでしまったという事なのでは……!?


「おい、キミはさっきアイツに何をしたんだ?追ってくる気配はないが……」


 俺がぬいぐるみについてあれやこれや考えていると、ぬいぐるみが怪訝そうな表情を浮かべながら聞いてきた。おい、なんだその目は。怪しい者を見るような目をするんじゃない。止めなさい。つーかお前の方が怪しいからな。


「別に大したことはしてねーよ。ただ顎に一発入れただけで。今んとこ脳が揺れてて動けないだけだろ」


「そうか……キミ、随分躊躇いなくやっていたが……慣れているのか?」


「あ!?な、な訳ねーだろ一般常識だ!!」


 不意を突かれたような質問に、素っ頓狂な声が出た。つい慌てて言ってしまったが、別に怪しまれなかったようだ。ぬいぐるみは、なんだそうか……と返すだけで、それ以上話を広げる気はなさそうだった。

 た、助かった……。現世は物騒なのかという呟きが聞こえた気がしたが、無視する。知らない。


「それなら、お前はなんなんだよ。つーかこの状況がなんなんだ。あいつは……?お前はなんで追われてんだよ!」


 このままこの話題について聞かれても困るので、俺は話を変えた。というか……本題?

 ぶっちゃけいろいろ考えたし、気にしない方がいいのかと思ったが、気になる。気にするなと思うほど余計に。いやこれ気にしない方が無理じゃん?ぬいぐるみが動いて喋って飛ぶんだぜ?なら聞こっかなみたいな。


「ボクは……」


 ぬいぐるみは言い淀む。パーツが簡単なくせに、それでも難しそうな顔をした。

 え?なにこれ思ってる以上にヤバイ感じ?

 なんとなく嫌な予感がしたが、聞いてしまったからにはもう後に引けない。

 少しの間が開く。ぬいぐるみは一度ため息をつくと、意を決したように口を開いた。


「ボクはアクアン。水の化身だ。天界の住人で、神に仕えている」


 は?

 え、ちょ、ま……は?

 思いもよらない言葉に思考が真っ白になる。

 化身?天界?神様?え?何?何言ってるのこいつ?


「……はぁ?」


「この世界は、人間が住むここ……現世と、天使・化身、そして神が住む天界。それに悪魔が住んでいる魔界の3つから成り立っているんだ」


 天使?悪魔?魔界?ちょ、待て!なんだこれ!もう一回言うけど、何言ってんだこいつ!いや、何言ってんのこいつ!?

 現実世界では馴染みのない(ゲームとか漫画では馴染みありまくりだけど)単語に全く付いて行けない。

 いやだって。なんだよ、いきなり天界だの魔界だの。これならさっき俺が考えた研究所うんぬんの方がまだ現実的じゃねーか!


「現世にいる全ての者は、体の中に6つの檻を持っている」


「お、檻?」


 天使やら悪魔やらでもうすでにお腹いっぱいなのに、さらに続けられる説明。

 急に来たぞ檻。なんだ檻って。体の中にあるって言われてもイメージできねーよ。

 あれか?精神世界的な?心の中に存在します的なあれなのか?


「その檻にはそれぞれ、炎・水・木・雷・光・闇の能力……その力が閉じ込められているんだ」


 能力ぅ?なんだ、またぶっ飛んだ話きたぞ!?


「普段その力は堅く閉ざされていて表に出ることはない。ただこの鍵……天界の鍵を使うことで、その能力を解放することができる」


「鍵って……あ、それ!」


 そう言うと、アクアンはネックレスにかかっている鍵を手に取り、軽く持ち上げてみせた。

 さっき夕日に反射して、黄金に輝いて見えた鍵……あれか!


「たが、檻に閉ざされているその力は強大だ。開放すれば、たちまち呑み込まれてしまうだろう。心力が弱い人間は特に、ね」


 アクアンの表情が冷たいものになる。単純なパーツをしている顔のくせに、そこにあるのは明らかな蔑みの色だ。強調するように言われた言葉に、ゾクリとした悪寒が背中を走った。


「もし、呑み込まれたら……?」


 なんだか悪い予感がして、言葉が揺れる。なら聞かなきゃいいのにって話なのだが、なんでか聞かなければいけない気がした。


「簡単だよ、理性がなくなるんだ。そして、破壊の限りを尽くす。己の身が裂かれ、砕けても。体の奥底から溢れ出す力、その本能、破壊欲に従って。命尽きるまでな」


「っ……!なんだよそれ!その鍵やべーじゃん!」


「あぁ、ヤバイな。だから逃げているんだ。この鍵を狙う魔界の連中からな」


「狙われて……!え、さっきの悪魔!?」


 さっきのぶん殴った、あの見るからにやばそうな奴悪魔なの!?角とか羽とかなかったけど!?

 脳裏に先程のミントグリーン野郎が浮かぶ。そういや髪は鮮やかで目は真っ赤だったから、確かに悪魔と言われれば……うん。

 それに、あのなんとも言えない雰囲気。ただただ、危険だと感じた空気。警告を鳴らし続けていた心臓。

 あの時感じた、体の奥底からの危険信号……今まで感じたことのないような、なんというか本能?みたいなもの。あのざわめきは、もしかして悪魔に会ったから……?


「それ以外に何があると?それくらい考えろよバカ。天界に住んでるボクが追われているんだ。相手は決まって魔界の者だろう」


「いや、なんだよその決まり」


 人が賢明に納得しようとしてたのに、アクアンは完全に俺を馬鹿にした態度をとる。

 あんだよ!バカバカ言いやがって!つーかなんだそのRPG御用達のような決まりは!

 そう思って口にしたのだが、アクアンは俺のツッコミをするっと無視した。


「この鍵は、先程も言ったがとても危険な物だ。故に天界で厳重に保管・管理がされていた。だが、そこにあいつらが……悪魔が攻めてきた」


 俺を馬鹿にするような声から一転、真剣な声色。

 なんだか切り替え早くねーかな?なんだこいつ。


「悪魔は魔界から出られないように、神が強力な結界を張っていたはずだ。なのに奴らはそれを破ってまで天界に押し入り、この鍵を狙った。神はこの鍵が悪魔の手に渡ることを恐れ、ボクら力の化身6人にそれぞれの鍵を託し、天界から現世へと逃がしてくださったんだ」


「えっと……だから追われてる……?」


「あぁ、奴らはどうしてもこの鍵が欲しいらしくてな、現世に逃げても執拗に追いかけて来るんだ」


「なんで悪魔はそんなに鍵を欲しがってんだよ?」


「悪魔達の目的は、天界の鍵を使用し6つある“現世の檻”を全て開くこと。そして現世を、滅亡させることだ」


「現世の滅亡……滅亡!?」


 いきなりのワードに声がひっくり返ってしまった。

 滅亡って……いや悪魔らしいっちゃらしいけど、そういう問題じゃねーだろ!


「あぁ。そしてこの世界を……天界、現世、魔界の全てを手に入れる。それが奴らの最終的な目標であり、野望だ」


「え、待てよ、それって俺達人間は……」


「死ぬぞ。確実にな。奴らが欲しているのは、あくまで入れ物である現世だ。中身の人間らなどタダの邪魔者でしかないだろうな」


「そんなストレートな」


 アクアンがしれっと言ってのける。おい、そんな重大なことしれっと言うなよ。

 滅亡ってやばいだろ!?そんな、急に明日がなくなるとか、世界が消えるとか、なんていうか、その、やばい。他に言い方全く浮かばないけど、とりあえずやばい!


「人間だけじゃない。ボクら天界の者もタダじゃおかないだろう。実際、先の侵攻で天界は壊滅的な被害を受けている」


 アクアンは表情を変えずに告げた。攻め入られた事のやばさを感じさせない、淡々とした口調。そのせいで、あまり背景を想像できない。

 でも……襲撃されたんなら、もっと、こう……。

 けれどアクアンは落ち込んだ様子を見せなかった。それどころか、真っ直ぐに前を見据えている。


「だからボクは、探さなくてはいけないんだ」


 そして強い意志を感じる声で、はっきりと言った。


「探す?逃げてるんじゃなくて?」


 アクアンは俺の問に短く、あぁと答える。


「このまま逃げ続けてもいずれは捕まってしまう。本気で世界を護ろうと思うなら、立ち向かわなければいけない」


「立ち向かう……それって戦うって事か!?お前が!?」


 真っ直ぐに前を見つめる瞳には、強い光が宿っているように思えた。

 けど、立ち向かうって。

 未だ横をスイーッと飛んでいるアクアンが戦闘に挑む姿を想像してみる。何十人もの敵に囲まれるぬいぐるみ……違和感やべぇ。

 つーか、どう見てもこのプニプニボディのぬいぐるみが戦えるとは思えねーんだけど。手足短いし……。

 これパンチとか届かないだろ。足短いから少し立ち回るだけで転けそうじゃん。ぽてんってなるやつじゃん絶対。


「いや、それはできない。襲撃された時、ボクら化身は悪魔達に封印をかけられ、弱体化してしまっている。この状態じゃアイツらには適わない」


 な、成る程……。

 弱体化とか封印とかあれだ、ファンタジーとかバトル物で聞くやつだ。とりあえず、ぬいぐるみが戦いを繰り広げるというシュールな図はないみたいだな。


「じゃあ誰が戦うんだよ?」


「天界の鍵で檻を開いて、戦う事のできる人間だ」


 俺の質問に、アクアンはすごく真面目な顔で答える。

 答えるけど……いやなんだよ!?いきなりさっきとは真逆の事言い出したぞ!


「はぁ!?さっき、檻開けたらその……なんかめっちゃ暴れまくるって言ったろうがお前!!」


「あぁ、心力の弱い者はな」


「心力ぅ?」


 なんだかまた聞き覚えのない単語が飛び出してきた。あーでも待てよ、そういえばさっきも言っていたような気がしなくも……ない。

 つーか魔力とか霊力とかならまだイメージ沸くけど、心力とかあんましこう、あぁ!それな!ってなんねーな!俺だけかな!?


「天界・現世・魔界を問わず、全ての生き物は心力というエネルギーを持っているんだ。その心力は、檻の中に閉じ込められている力を扱うのに必要なエネルギーなんだよ」


「ちょ、待って。檻の中にあるのが力の全てとか、そういう訳じゃねーの?」


「檻に閉じ込められているのはあくまで力の元、力の根源のような物だ。それに個体差は存在しない。力を自在に操り自分の物にできるかは、心力の量に関わってくる」


「お、おう……?」


 あ、やばい、あかん。混乱してきた。

 アクアンの説明に全く頭が追いつかない。難しい言葉使いすぎじゃねーかな?というか力ばっかでややこしいな!


「心力の量が多ければ多いほど、檻の中の力を自由自在に操り、自分の力として扱う事ができる。逆に心力の量が少なければ、檻の中の強大な力に飲み込まれてしまう……という訳だ」


「な、なる、ほど……?」


 あ、あーどうしよ。ぜんっぜん分かんねー!なんか普通に訳分からん!


「キミ、理解してないだろう」


 図星を突かれて、う゛となる。なんか悔しいし馬鹿にされんのはご免だから、なんとか誤魔化そうとした。


「い、いや分かってる!ちゃんと理解してるからな!あれだろ、心力がなんか、なんか……あれなんだろ!?」


 したけど……どうにもならなかった。(むしろ馬鹿が隠しきれなかった)

 ちくしょう!頑張れよ俺の語彙力!

 案の定アクアンは俺を馬鹿にするようにふんっと鼻で笑いやがる。


「やはり分かってないじゃないか」


「ぐ……!」


 うるせーな、分かってねーよ!だからその顔やめろ!バカを見る目で見るんじゃねー!!


「しょうがないな、バカにでも分かるようきちんと説明してやろう」


 アクアンは更に俺を下に見るような顔をする。やれやれ、これだからバカは……とでも言い出しそうな表情だ。

 あーだから!その顔ムカつくんだわ!言い方もムカつくんだわほんと!

 でもいくらムカついたからって、分からん物は分からない。しょうがないので大人しく説明を聞くことにした。俺けっこう大人だと思う。


「そうだな……檻の中にある力を猛獣に、心力を猛獣使いにでも例えてみようか」


「猛獣……?」


「あぁ、強いだろう、猛獣。なんだったか……ライオンとかクマとかいうんだろう?好きなのを想像しろ」


 好きなのって言われたって……と思ったが、ここは大人しくライオンを思い浮かべることにした。ガオーって頭の中で雄叫びが聞こえる。


「いいか、猛獣は一匹でも強いな」


「おう、強い」


「でも猛獣一匹だけでは、芸はできないだろう。それを行うには、猛獣使いが必要だ」


 頭で浮かべているライオンの横に、鞭を持った猛獣使いが登場する。

 まぁ確かに、サーカスでライオンが芸をするなら猛獣使いは必要不可欠だよな?


「猛獣使いの技量が高ければ高いほど、猛獣は立派な芸ができる。逆に猛獣使いが下手なら、猛獣は従わず暴れだしてしまう」


「……ふむ」


「心力とはそういうものだ。力を制御し、うまく扱うのに必要なのさ」


 アクアンはこれで説明は終わりだというように、軽く両手を広げてみせた。どうだ?と言いたげな顔がやっぱりムッとくる。

 そんで説明されて分かったような気がするけど、それでも……なんだ……まどろっこしいなこれ!


「あーもう面倒くせー!とりあえずアレなんだろ!?心力が強い奴の方が強いってことだろ!?」


 考えるのが面倒になってきた!もうよくないかこれで!?

 俺の投げやり状態な発想に、アクアンはわざとらしく溜め息をついた。


「……まぁ、いろいろ抜けているが、間違ってはないな」


 けど返ってきたのは肯定の言葉だ。

 じゃあもう細かい事は知らね!その認識でいいわ!

 アクアンの目線がこれでもかというほど呆れているが、知ったこっちゃない。難しく考えるよりシンプルさが大事だ。(と思う)


「だから、ボクは心力があり、檻の中の力を扱う事ができる人間を探している。悪魔と戦うために」


 アクアンは一度目を伏せると、また真剣な顔をした。

 あーそういや、そういう話だったよな。

 俺は先程の話の流れを思い出す。探してるってそういう事か。

 つまり、強い奴探して悪魔と戦うって事なんだな!


「心力の強さって見た目で分かるのか?」


 あれじゃん?漫画とかじゃさ、なんかオーラが的な事言うじゃん?そういうのあんのかなってちょと気になるじゃん?

 アクアンは、この問いに渋い顔をする。


「いや、それに関してはやってみるしかないな」


「はぁ!?ぶっつけ本番なの!?」


 それ下手に心力弱い奴の檻開けちゃったら暴れだすんじゃねーの!?やばくね!?


「それに檻の中の力を扱うには、相当量の心力が必要だ。そんな人間、なかなか見つけられないと思っている」


「いや、完全にやばいやつじゃねーか!」


 これやばいパターンだー!!ただでさえ強いやつ少ないのに、手当たり次第とか未来見えねー!!


「五月蝿い、分かってるさそんなこと。ただそうでもしなくてはいけない程、切迫しているということだ」


 アクアンは、俺の焦りを強い言い方で制した。その異論は許さんとでも言わん声に、本当に時間がないのだと察する。

 世界の命運かかってるんだぜと思うと、確かに反論できない。


「そうかよ……ん?」


 と、ここである可能性に到達した。

 手当たり次第戦法という事は、つまりは誰でもいいってことじゃん。手っ取り早くやるんだったら目の前にいるやつ試せばよくね?ってなるべ。ということは――


「これ、まさか俺に話がくるパターンか!?」


 ガッツリ関わって、一緒に逃げてるじゃん!?悪魔殴っちゃったし!?しかもこんなに説明されたって事はそういうこと!?

 え、えーーっ。俺ちょ、いきなり悪魔と戦えとか言われても……えぇーー?そんな、心の準備的な?そういうのがまだちょっとアレと言いますか……ねぇ?そんな世界の命運かかってる感じの戦いにいきなり放り出されてもー……。


「バカかキミは」


 俺の様子を、アクアンは死ぬほど呆れた目で見てきた。声がすごい冷たい。止めてその反応。


「キミみたいな普通の子供を、世界の滅亡がかかった戦いに参加させる訳ないだろう」


「な、なるほど」


 確かにすごい真っ当な意見だ。俺まだ高二だもんね。そんな世界背負うほどの修行とかしてないし。普通の一般的な男子高校生だもん。

 ただその、ほんとキミはバカだなと言いたげな顔やめろ!ムカつくから!ちょっと哀れみの感じ出すな!なんか恥ずかしくなってきた!


「っくそ……じゃあ俺は、お前を安全な場所まで運べばいいんだな?」


 まぁとりあえずは、だ!俺は別にこれから戦いに身を投じなくてはならないとかそんなことはないわけだ!明日からも平和な日々が送れるんだ!


「そういうこ、と……!!おい、急げ!」


 アクアンは俺の言葉に頷きかけたが、急に慌てだし大きな声を上げた。


「は!?何急に!?」


「アイツが来てる!」


 アクアンの急変具合に驚いたら、アクアンは有無を言わさせないような声でピシャリと言い放った。

 あいつ……?あいつってまさか、さっきのミントグリーン野郎!?


「は?さっき全然そんな感じしてなかったじゃん!?」


「猛スピードで追いかけてきているんだ!いいから早く!!」


 そんな馬鹿な!?さっき完全に伸びてたのにそんないきなり!?

 と思ったが、アクアンの様子を見る限り冗談ではないらしい。なんなの?もしかして悪魔って瞬間移動できちゃったりすんの?


「つーか、なんで追いかけて来てるって分か――」


「追いついたよー」


 ドクン。

 心臓が高鳴った。


何が言いたいかというと、なんか心力強いとめっちゃ強いってことです

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