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第七話 一切のかかわりを禁ず

 場所はカルロフォレストの少し外れの家。

 空家と思われるそこは、人の営みの香りを残しつつもマミやオリーブ、シルクをのぞけば人の気配を感じることができない。

 入口から見て奥にマミが座り、手前にオリーブが立っている。シルクは二人に挟まれるような恰好でマミと対峙していた。


「それで? わざわざ私たちを追っていた理由の続きを聞いてもいいか?」

「えぇ。確か、私とミルが出会ったあたりまで話しましたよね。私とミルが暮らすようになってから一年と少しが過ぎたとき、私たちの関係に転機が訪れました。旧妖精国の編入に向けた動きとそれに伴う亜人追放令です」

「はっ? それじゃまるで旧妖精国編入と亜人追放令が関連しているみたいじゃないか!」

「はい。詳しくは言えませんがそういう理解で結構です。旧妖精国を編入するためには亜人追放令を出す必要がありました」


 理由は言えないとしつつもシルクの中ではぼんやりと理解ができた。

 おそらく、人間側が妖精が人間社会に入ってくるのを恐れたか、排他的種族である妖精が自身のエリアに人間が侵入するのを恐れたかのいずれかだろう。

 この亜人追放令の発令こそが旧妖精国が統一国に恭順するための条件だった可能性がある。


 しかし、それを公にすれば人間が妖精に屈したことになるので避けなければならないということなのだろう。


 急に考え込みだしたからだろう。マミが心配そうにこちらをのぞきこんでいる。


「シルクさん?」

「おっと、悪いな。話ならちゃんと聞いているよ」

「なら、いいのですが……とにかく、私とミルが最後にあったのはその時期です。人間でありながら魔族に育てられた彼女は亜人もろとも追放されるのを恐れた。だからこそ、身を隠したのです。それも亜人追放令の効果が余り波及しないだろうと予想されていた旧妖精国内にです。そこで彼女はシャルロシティにある教会に身を寄せ、その後エルフ商会のカシミヤに拾われました。そこからはあなたの方がよくご存じでしょう」


 マミの言葉にシルクは小さくうなづいた。

 まさか、カシミヤが自らミルを拾ってきたとは思っていなかったが、人間である彼女はエルフ商会の中では目立ったのでいやでも彼女の動向は耳に入ってくるのだ。

 おそらく、彼女がメロ州へ向かっていることもすでに皆が知っていることであろう。


 そういったことを踏まえて考えてみると、ここでマミが出てきたことを含め誰かに仕組まれたことではないのかと勘ぐりたくなる。


「もっとも、私たちとしても彼女からあまり目を離すわけにはいかないのである程度は監視していたのですけどね。あなたたちの商会のところのお得意さん。何人かはうちのスパイなんですよ?」

「おいおい。いくらなんでも魔族と関わっていたからってやりすぎなんじゃないのか?」


 シルクが眉をひそませるが、マミは真剣な表情を浮かべたまま静かに首を振る。


「違いますよ。彼女が魔族と関わっていたとかいないとかにかかわらず、彼女自身が危険なんです」

「どういうこと?」

「……彼女はもともと魔族の下で魔法の研究をしていたようでして、問題はそこなんですよ」

「そうなのか?」

「えぇ。彼女の研究テーマは不明なんですけれど、とにかくその過程で事故が起こったようでして、その影響で彼女、不老不死になってしまったようでして、その要は……彼女の存在自体が人類の生き方に反逆しているというかなんというか……」


 マミは時々天井を仰いだり、窓の外を見たりと視線をしきりに移動させながら慎重に言葉を選びながらつむいでいく。

 その様子を見るだけで何かを隠しているということは見え見えだ。おそらく、彼女は嘘を付けない類の人間なのだろう。


 だからと言って、深く突っ込む理由もないのでおとなしく彼女が言う通りの事情だと納得する。


 もっとも、不老不死という点については後で何かしらの形で調べる必要があるだろうが……


「まぁそういうことだから監視しているのよ。あの子が不老不死だってことで妙な騒ぎが起きないように……」

「それは本心か?」

「へっ?」

「それは本心かって聞いている。どうにもそういう心情だっていう顔じゃないからな」


 シルクの指摘にマミはすっかりと黙り込んでしまった。恐らく、図星なのだろう。


 彼女はため息をつきながら左手で頭をかく。


「まったく、エルフっていうのはもっと打算的で自分の利益にならないと思うようなことはしないんじゃなかったっけ?」

「いやー大半はそうなんだけどね……私はちょっと特別でね。感情なんてものを挟んでしまう出来の悪いエルフさ」

「はぁ……カシミヤが何であなたを選んだかだんだんとわかってきたよ。あぁそうだ。言い忘れたけれど、私とあなたのところのリーダーとの関係は内密に……ばれるといろいろやばいから」


 思い出したようにそういうマミを見て、シルクは内心呆れてしまう。

 確かに亜人追放令が浸透しつつある現在において、裏で活動している亜人組織のトップとそこを治める領主が知り合いとなればいろいろとまずいのだろう。

 それと同時に彼女は痛いところを突かれたときに話をそらすためにこの話題を用意していたのではないかとも思えてしまうのはなぜだろうか?


 そこまで考えて、シルクはハッとなる。


「危ない。流されるところだった……」

「はぁまったく……手ごわい相手……私の本心なんてどうでもいいでしょうに……このまま適当に会談を済ませて私に恩を売っておく方がのちの利益につながるとかそういう考えに至らないの?」

「残念ながら私は普通のエルフとは違うからな。他の奴らと違ってそういう結論には至らないんだよね」


 マミはお手上げだといわんばかりに両手を広げて首を振る。

 彼女は大きくため息をついたのちに再び頭をかいて姿勢を戻した。


「分かりましたよ……これはシャルロ領領主たるマミ・シャルロッテではなくトモナガマミという一個人の意見として聞いてもらってもいいかしら?」

「トモナガマミ?」

「そこはどうでもいいわよ。それで大丈夫なの?」

「あっあぁ……」


 シルクが返事をすると、マミはオリーブに目配せして彼女を退室させる。


「……これからいうことは……」

「他言無用か? わかりきっているよ」

「私は心配なんだよ。あの子、亜人追放令が出るらしいっていう噂を聞いてすぐに出て行っちゃったけれど、不老不死なんて特性を持つあの子が社会になじめるかどうか……自分の居場所を見つけられるかどうか……だから、少しでも長い時を生きる亜人と一緒に過ごさせた方がいいんじゃないかって思ったの。それがあの子の幸せになるのなら……私は影で見守るだけだけど、それで構わないって思っている……これで十分かしら?」

「いや、だったら何で!」


 彼女がそばにいてはいけないのかと理由を尋ねようとするシルクの唇にマミが人差し指をあてた。


「……これより先は一切のかかわりを禁ず。あなたと私は領主とエルフで私たちは知り合いじゃない。一切合財、かかわったことなどない。そうでしょう?」


 彼女はそういうと、満足げに笑みを浮かべてシルクの肩に手を置いた。


「今日のことはきれいさっぱり忘れなさい。それと、監視をしていてあなたを不快にさせた点については重ねてお詫びするわ」


 マミはシルクの肩から手を離し、空き家から出ていく。


 誰もいなくなった空家でシルクはただ一人、呆然と彼女が立ち去る足を音を聞いていた。

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