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第六話 カルロの中心街

 カルロ領に入って約三日。

 シルクたちはカルロ領内をひたすら進み、ようやくカルロ領で一番大きな町であるカルロフォレストに到達していた。

 カルロフォレストは森の中の自然を利用して造られた町であり、うっそうと生い茂る木の上にツリーハウスを造り、それを木で造られた吊り橋で連結するという形で町が形作られている。


 シルクもミルもそのような光景を見るのは初めてだったのでもの珍しそうに町を見て歩く。


「これはまたすごいな……」

「そうですね。これほどの大きさの町をすべて木の上で造るなんて……」

「あぁ。ある意味、妖精やエルフといった森を大切にする種族に近い住み方かもしれないな」


 町の中心部にはゆるやかなスロープがあり、馬車に乗ったままツリーハウスにあがれる仕組みになっていた。

 シルクは馬車を上手にスロープの方へと誘導して、目の前にある宿屋に向かう。


 さすがにカルロ一の大きさを誇る町というだけあって、宿屋の規模は大きく、多くの旅人や商人であふれていた。

 シルクたちは、予定よりも早く到達し夜まで少々の時間があったため、宿屋に荷物を預けて町を散策することにした。


「これは、すごいですね……」

「えぇ。これは、また……」


 シルクはミルと二人してツリーハウスに目を奪われていたのだが、ふとそのうちの一軒の陰にあるモノが見えた。


「シルク様?」

「……ミル。すまない。ちょっと、待っててくれるか。夜には宿に戻ってくる」

「えっ? シルク様! どこへ?」


 シルクはミルの言葉に耳を傾けることなく、先ほど見えたあるモノの方へと走っていく。


「シルク様! 夜までにってもうほとんど夜ですよー!」


 ミルは走り去っていくシルクの背中に声をかけたが、それが届くことはなかった。




 *




「待って!」


 シルクはツリーハウスの陰から逃げようとしていた人物に声をかける。

 しかし、その人物はそのまま後ろを振り返ることなく走り抜けていく。


「待てって言ってんでしょうが!」


 その背中を追うようにして、シルクはドンドンと走っていく。

 そうするのと同時に周辺で魔法が使えないようになる結界を展開する。


「ほら! 待ちなさいって!」


 相手は思ったほど体力がないのか、すぐに息切れを起こして立ち止まる。

 シルクは逃がさないといわんばかりにその人物の肩をつかんだ。


「何をするのですよーここまでする必要は皆無なのですよー」


 シルクが見つけた人物。それは、オリーブ・シャララッテその人だった。

 オリーブは小さくため息を吐いた後、シルクの手を振り払う。


「まったく……なんで見つけちゃうのですよーせっかくわからないように隠れたのにーですよー」

「隠れたのにーじゃないよ。なにしてるんだ? マミ・シャルロッテに文章を届けに行く途中じゃなかったのか?」

「えっ? えーとそーなのですよーうん。あの後、すぐに届けて帰る途中なのですよー」


 彼女はそう言いながらあさっての方向に目をそらす。


「届けて帰る途中? にしても早いだろ。なんで、一緒のペースでここにいるんだ?」

「そっそれはーそのーですねー」


 どう言い訳しようかと思考を巡らせるのか、オリーブは視線をあちらこちらに泳がせながら言葉をはぐらかす。


「……もういいわ。話しなさい」


 ちょうどその時、シルクの背後から女性の声が聞こえてきた。


 シルクが振り返ると、そこにはやや背の高めの女性が立っていた。

 何よりも目を引いたのは少し変わったその服装よりも腕に付けた黄金の片翼の翼が描かれた腕輪だ。


 おそらく、彼女もまた、十六翼評議会の人間なのだろう。


 その女性はそそくさと歩いてきてオリーブの横に立つ。


「こちらがあなた方を尾行していたかのような誤解により不快な思いをさせたのであれば謝ります。しかし、こちらのオリーブ・シャララッテが申していることは本当ですのでそれを理解していただけますでしょうか?」

「申していることはって……そもそも、あなた誰?」

「おっと、申し遅れました。私、シャルロ領にて領主をしております。マミ・シャルロッテです。以後、お見知りおきを……」


 マミ・シャルロッテと名乗った女性はスカートを端をつかみ深く頭を下げる。


「シャルロ領主だって! これは、いったい……」


 あまりにも唐突すぎる事態にシルクは困惑を隠せない。

 マミ・シャルロッテはあくまでシャルロ領領主である。なぜ、彼女がこのようなところにいるのだろうか? そんな疑問がシルクの頭の中を支配する。


 しかし、何かが起きているということだけは何とか理解することができた。

 困惑するシルクをよそにマミは前に歩み寄ってくる。


「人に名乗らせておいて自己紹介はなしですか?」

「あっいえ、失礼しました。私はシルクと申します」

「……まったく、カシミヤがちゃんとした人材をというからどんなものかと思えば……まぁいいでしょう。こちらとしても急なお願いでしたし」


 何やらぶつぶつとつぶやきながらマミは空を仰ぐ。

 そして、ハッと思い出したようにシルクの顔を見る。


「そうだ。今日、ここでオリーブ・シャララッテや私、マミ・シャルロッテと会ったという事実は何とか内密に……そうされないといろいろとしなくてはならなくなりますので」


 マミはそう言いながらいかにも人の悪そうな笑みを浮かべる。

 それは明らかに年相応の少女のモノではなく、世界の裏側を知っているとでも言いたげなそんな笑みだった。


「もっとも、それだけ言っても納得できないでしょうから、少し場所を変えて話をしましょうか……オリーブ」

「はっはいなのです!」

「場所のセッティングを……できたらここに戻ってきてください」

「かしこまりましたです!」


 オリーブは大きくうなづいてからその場から走り去っていく。


「申し訳ございませんが、少々お待ちを……まぁそれまでの間に少しさわりの部分だけでもお話いたしましょうか……」


 そういうと、マミは直ぐ横のツリーハウスの壁にもたれかかり胸の前で腕を組む。


「そもそも始まりは三年前……私が統一国首都にて鍛冶屋をやっていたころにはじまります。そのころ、あるモノの修理に夢中になり、私はほとんど工房にいなかったのですが、それが原因なのか泥棒に入られることが少々ありまして……そこでいつもよりも早く工房に帰ったんです。その時、工房にいたのがあなたがミルと呼んでいるあの子です」

「えっ?」


 あまりに唐突な話の内容にシルクは驚きを隠せない。

 しかし、それを見越していたようにマミはクスクスと笑い声をあげる。


「大丈夫ですよ。その子は偶然工房にいただけで泥棒じゃない……と言えば、ウソになるような状況だったかな? まぁいいや。ともかく、問題はそこじゃない。あの子が私の家に侵入した理由は単純に食料を求めたものだったから。やり方は別として」

「結局、泥棒じゃないか」

「いえ、頻繁に入ってきた泥棒とは違うっていう意味です。まぁその後、私はあの子と一緒に住むことになるのですが……と」


 マミは突然、言葉を切って先ほどオリーブが走り去っていった方向に視線を向ける。


「どうやら準備ができたみたいです。ついてきてください」


 そういうと、マミはシルクの返答を聞くこともなくスタスタと歩き出し、シルクは急いでその背中を追って行った。

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