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第三話 宿屋の食堂での一悶着

 シャルロシティから数えて二番目にある町の宿屋。

 街の規模同様にこじんまりとした宿には遠方からの旅人や商人などが所狭しと泊まっていた。


 特に宿屋に泊っている宿泊客のほとんどが集まる食堂の混雑は恐ろしいもので相席は当たり前、食事が終わればすぐにどかなければならないなどと言った状態になっていた。


 奇跡的に二人席に座ることのできたシルクとミルはその中に混じって食事をとっていた。


「うむ。なかなかおいしいな」

「はい。そうですね……中でもこの山菜料理なんかはおいしいとおもいます」

「山菜ね。私はこのパンの方が好きかな」


 それぞれ感想を述べながら、目の前に並べられた食事を食べる。


 こう考えると、シャルロシティを発った直後に比べて仲良くなれたのではないかと思えてくる。

 勝手にそう思っているだけかもしれないけれど、少なくともシルクはそう考えていた。


「シルク様?」

「なんだい?」

「先ほどから何をニヤニヤしているのですか?」

「いや、なんでも」


 そんな会話を交わしながら食事をしていると、にわかに食堂が騒がしくなってきた。


 シルクが声のする方に視線を向けてみると、入り口付近に人だかりができているように見えた。

 人だかりの中心で何かが起きているのだろうが、周りの人たちが騒がしいうえに人が多すぎてその様子をうかがうことはできない。


「なんでしょうか?」

「さぁな。まぁ気にする必要もないだろう」

「まぁそれもそうですね……」


 お互いに干渉しないことを決めて、食事を続けるがそれとは裏腹に騒ぎはドンドンと大きくなっていく。

 大方、こういったところであるのはケンカと相場が決まっている。


 食事中に何かしらの理由でトラブルが発生し、もめているといったところだろう。


 それだったら、わざわざ食事を中断して野次馬に加わる必要など皆無だ。


 そんな風に考えながら、食事をとっていると店主と思われる男性が近づいてきて声をかけた。


「お客さま」

「んっ? なんだい?」

「少し、よろしいでしょうか?」


 シルクが食事の手を止めて男性を見ると、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべながら頭を下げる。


「お食事中申し訳ございません。私、この宿屋のオーナーをしている者です。その……申し上げにくいのですが……あちらの騒乱を静めるのを手伝っていただいてもよろしいでしょうか?」

「はぁ? なんで私たちが?」

「それが……その、双方がこれまでの経過を見ていない者に仲裁を頼みたいといっていまして……それで、あなた方が騒ぎの中、食事を続けていたのでそれで……」


 オーナーの男性はおどおどとしながら時々、手に持っているハンカチで汗を拭く。


 少しの間、思考を巡らせたシルクであったが、大きくため息をついて席を立った。


「わかったよ。やりゃいいんだろ? やれば?」

「はい。そうしていただけると助かります」

「そうかい。ミルは食事を続けてくれていいから、しばらく待ってろ」


 ミルにそう言って、シルクは人だかりの方に歩いていく。


「それで? 何があったんだい?」

「えぇ。詳しくは分かりませんが、報酬の分配でもめているようです」

「報酬の分配?」

「はい。どうやら、シャラ領から来た旅団と思われるのですが、悪く言えば寄せ集めのような集団のようでして、報酬の分配でもめているようです」

「ほう」


 シルクはオーナーの説明を聞きながら人だかりに近づき、人だかりを押しのけてその中心にいく。


「ですからーわーたーしがー最初にー決めた通りの報酬をー要求しているだけなのですよー」

「うるさい! 黙れ! 貴様が何の活躍をした! こちらの取り分が多くても問題なかろうが!」

「おやおや、最初に決めた報酬に不満など言われても困るのですよーなのです。最初に決めた通りにしてほしいのですよー」


 人だかりの中心で話をしているのは片や興奮した様子の男性でもう一方は落ち着いた様子で話す女性だ。

 男の方はがっしりとした体形で荒くれ者という印象を受ける、その相手をする女性は旅人というにはあまりにも身なりが整っていて、どこぞのご令嬢のように見える。


 何よりも彼女の目を引いたのは……


(黄金の片翼の翼……十六翼議会か……)


 女性の服の袖口部分に刻まれた黄金の片翼の翼。

 道中、ミルから聞いた十六翼議会の人間の特徴だ。


 これはただ事ではないというのはこの状況を見るだけで簡単に理解することができた。


「えっと、お二方……一応、頼まれていた仲裁人を連れてきたのですが……」

「あぁやっと来たのですかーなのですよ」

「そりゃそうだろ。これだけ人が集まってんだ。仕方ねーだろ」

「それもそうなのですよーまぁよろしく頼むのですよー」


 シルクはため息をつきながら頭をかいて、二人の主張を聞き始める。


 その内容を要約すると、何でも最初は別々の目的を持って旅立とうとしていたそうなのだが、偶然にも行く方向が同じということになり、双方の身辺および荷物を協力して守るという約束を交わした上で旅団を組んで出発。

 それぞれが旅をした結果得られる報酬は全員で等しく分配……のはずが、戦いや活躍の具合に大きく差が生じ、報酬をそれぞれの働きに応じて分けるようにと男が提案。女の方が、最初の約束の通りに分けるようにと要求した結果、このような争いになってしまったのだという。


「それでお前さんはどうなんだい?」

「ふむ……報酬があるということは何かしらの届け物をしているということか?」

「あぁこの女は知らないが、俺たちは頼まれた荷物をこの町へと運んできたんだ」

「私は書状ですよーただし、中身についての言及は控えますよー」


 つまり、互いに何かしらの報酬があるという仕事なのだろう。

 少なくとも男の方は確実にそうだ。女の方も普通に考えればそう言った理解でいいのだろうが、彼女が十六翼議会とやらの人間だという可能性を考えると、一筋縄ではいかない。


 ただし、ここは何も知らない一般人として対処するべきだろう。


「……まぁ道中何があったか知らない私がこういうことを言うのもどうかと思うが、そもそも最初に平等にと決めた以上はそうするべきなんじゃないのか? 大体、このあたり……旧妖精国内は比較的安全だっていう話だから、活躍の差っていうほど何かがあったわけじゃないんだろう?」

「そうなのですよー盗賊に襲われたわけでもないのですよー」


 シルクと女性の言葉に男がうっと言葉を詰まらせる。


 大方、適当なことを言って彼女の分の報酬まで手に入れようとしていたのかもしれない。


 居心地が悪くなったのか、男は袋からいくらかの金銭を出すと机の上において立ち去って行った。


「どうも助かったのですよー」

「いや、礼には及ばないよ。まぁあぁ言うやつらに引っかからないように気を付けることだな」

「はいーあぁそうだ。私はオリーブ・シャララッテというのですよー」

「んっ? オリーブ・シャララッテって言ったら確かシャラ領領主の妹か?」


 シルクが尋ねると、オリーブは笑顔を浮かべ小首を傾げながら答えた。


「はい。そうなのですよー間違いなく、兄様はシャラ領領主なのですよーあぁ。私たちの会話は結界で音が通らないようにしているので聞こえていませんよー」

「はぁまさか、シャラ領領主の妹様が自ら手紙を届けるとは……」

「はい。マミ・シャルロッテ様への書状なのですよ。少々面倒なことになったので助かりましたなのですよー」

「まぁそれぐらい構わないよ」


 いろいろとおかしいとは思っていたが、シャラ領領主の妹だったなどということはあまりにも予想外だ。

 それも彼女は十六翼議会の一員となれば、めんどくさい要素が満載だ。


「まぁこれからも気を付けることだな。あんなのはいくらでもいる」

「はいなのですよー改めて感謝しているのですよー」


 シルクはオリーブの言葉を聞きながら立ち上がる。


 すると、オリーブは先ほどとは違う少し低い声でシルクに声をかけた。


「まぁ感謝ついでに今日の夜中。宿屋の裏口に来てほしいのですよー」


 シルクはそれに返答を返すことなく、ミルが待っている机の方へと向かっていった。

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