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第十三話 シャラブール

 シャラ領中心街シャラブール。

 川の中州に存在するこの町は入り口が少なく、その数少ない入口に旅人や行商人が集中している。そんな入り口の一つとなっている石造りの橋をシルクとミルは馬車に乗ってわたっていた。

 さすがに人が多いのであまり速度は出せないし、時々馬車を止めなければならないのだが、少しずつであれば進めないことはないぐらいの込み具合である。


 まぁもっとも、なんで馬車から降りないんだという冷たい目戦は常に浴び続けることにはなるのだが……


「あっあの、止まってください」


 馬車がなかなか前に進めないぐらい人がごった返す中、そのか細い声はやけにはっきりと聞こえた。

 シルクが馬車を止めて声のした方を見てみれば、フードを目深にかぶった一人の女の子がこちらへと駆け寄ってきているのが視界に写る。


「お嬢ちゃん。どうしたんだい?」


 そんな女の子にシルクが話しかけると、彼女は一枚の紙これをシルクに渡す。


「商会の建物がつい先日移転しました。この場所に来てください」


 それだけ言うと、女の子はすぐに人ごみの中に紛れ込んで消えてしまう。

 まぁ詳しく聞かなくとも、商会というのはエルフ商会で間違いないだろう。他の商会であれば、こんなところで渡す必要はないし、名前もきっちりと出すはずだ。

 それにあの彼女の態度を見る限り、かなり周りを警戒しているように見えた。そのあたりを総合すれば、彼女はエルフ商会の人間であるという結論に達することができる。


 シルクは町の中に入ってから地図を開けばよいと考えてそれを懐にしまい町に入る。


 結局、シルクたちは馬車を降りることなく端を通り抜けた。




 *




 シャラブール中心付近の市場。

 シャラ領の中心街であると同時に港町シャラハーフェンにほど近いこの町は活気にあふれている。


 これまで内陸ではみることのなかった海産物が並び、海を渡ってきたと思われる珍品が並ぶ。


 この旧妖精国内を歩いていると、つくづく感じるがたったの一年と少しであまりにも町が発展しすぎてはいないだろうか?

 確かに旧妖精国内の海上交通の要であるシャラハーフェンをすぐ近くに抱えているが、だからと言って今自分たちがいる場所はシャラシティをはるかにしのぐ大きな町だ。


 シャラの宿場町でこちらから来た旅人が“城塞都市”だと呼んでいた。その時はたったの一年しかたっていないからと本気で聞いていなかったのだが、今現在、目の前に広がる町はまさにその通りの風景である。

 シャラブールは町の周りを川が流れ、その川沿いに石で造られた巨大な城壁が町を囲むような形で造られている。

 戦争などないこのご時世にこれほどの城壁を築く目的は、戦争等の際の防衛ではなく、川の中州という立地ゆえの水害対策の面が大きいように見える。


 まぁそこを追求しだしたら、なぜ川の中州に造ったのかという疑問にいたり堂々巡りが始まるのだが……


 まさか、統一国が全世界を支配下に置いているこのご時世に戦争を想定しているのなど通常の思考ではありえないわけだから、領主の趣味だったりするのだろうか?

 確かこのシャラ領の領主はシャラブールの中央にある城に住んでいると聞く。


 同じくシャラシティ内に屋敷を構えるも、少し外れでほどほどの大きさであるシャルロッテ家とはある意味正反対だ。

 まぁ今見えている城は建設中であり、今見えている城は張りぼてだというし、シャルロッテ家の方も現状は仮住まいであり、現在郊外に大きな屋敷を建設中だというのだから、結果的には似たり寄ったりのような気もしないではない。


 そんな町の中でシルクは手元の地図を頼りにエルフ商会シャラブール支部を目指していた。


「シルク様、どこにあるのでしょうか?」

「……エルフ商会の支部なら簡単には見つからないわよ。表立って探し回るわけにもいかないし……」


 結局、いろいろ心配した割にはあっさりとシャラブールまでついてしまったシルクたちはある意味はじめてともいえる壁にぶつかっていた。

 要はどこぞに隠れるように立っているエルフ商会の支部が見つからないのだ。


 今、シルクの手元にある地図にはシャラブールの全景が書かれており、その左下あたりから矢印が伸びて、その先に“この辺”という文字が描いてあるだけという全面的にケンカを売っているとしか思えない仕上がりとなっている。

 実をいうと、この地図は町の入り口でエルフ商会の関係者を名乗る者から渡されたのあの地図なのだが、その時にすぐに地図を確認しなかったのが失敗だった。


 もともと地図は持っていたのだが、その地図に書かれている場所から移転したとかで渡された新しい地図がこれだったのだ。

 念のためにともともと地図に書いてあった場所に行ってみれば、そこはただの空き地であり確かに移転した後だったので、移転自体は嘘ではないはずだ。


 シルクは大通りの真ん中で大きく息を吐く。


 おそらく、エルフ商会の特殊性からして大通り沿いに堂々と店を構えていることはありえない。

 十中八九どこかの路地裏でひっそりと存在しているはずなのである。


 それを大きな町の中で探すという行為は砂漠の中で落とした一粒の砂を探すのに近しいものがある。


 計画的に整備されて造られた町というだけあって、町の構造が割と整然としているのが唯一の救いだろうが、それでもほぼノーヒントで探すのなど不可能に等しい。


 いっそのこと、支部によらずにメロへ向けて発とうかとも思ったのだが、さすがに物資の補給をしないで向かうのは少々無理があるように思えた。

 だからと言って、地道にエルフ商会の建物を探すのも時間の無駄に思えてしまう。


 どちらにするべきかと本気で考え始めたとき、ミルが地図を覗き込んで口を開く。


「ねぇエルフ商会ってどこにあるかばれたらまずいから地図に何か仕掛けたりはしないの?」


 そのさりげない一言でシルクはあっという間にある可能性にたどり着いてしまった。


 要するにエルフの十八番である魔法による地図の偽造。

 人間が裏から火を当てないと読めないあぶり出しの文章を作るようにエルフもまた、機密文章を暗号化する際に魔法を使ったりすることがある。

 これまでシルクはそう言ったたぐいの文章をあまり見たことないのだが、今回の状況から考えてそれはありえないとは言い切れない。


 路地裏に入り馬車を止め、地図を広げる。


 穴が開くほどに熱心になって見つめてみると、確かに魔法を使ったという証拠が見つかった。


 地図の左下。“この辺”という文字に隠れるようにして、五つの花びらをかたどった小さな魔方陣が存在していたのだ。

 シルクはそこに人差し指を当てて軽く魔力を流す。すると、先ほどまでただの紙切れであった地図は淡い光を放ち、それが消えるころには先ほどの挑発的な地図とは打って変わって特定の大通りからエルフ商会支部までの詳細な地図が浮かび上がっていた。


「お手柄だぞミル。よし、さっそく向かうか」


 シルクはそう言って、馬車を再び走らせ大通りに出る。

 あの左下あたりという案内も間違ってはいなかったので行き先はあまり遠くない。


 シルクは上機嫌で馬車をエルフ商会の支部がある路地裏へと向かわせた。

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