7 料理の極意
レオンに連れられ、再びあのデッカイ城に戻る。
レオンが城の広場に着くと、中から執事のクロウと、綺麗なメイドさんたちが、わらわらと出てきた。
「お帰りなさいませ、御主人様。」
『すっごい、前世のメイド喫茶にいるようだ。ここ喫茶店じゃなく、城だけど。』
ナミは、思わず感想を言って、だれも聞いてないので、自分で落ちも入れた。
すると、ナミの腹を抱えていたレオンが、彼女の顔をマジマジと見る。
「お前には、この間から散々言っているが、考えていることが、相変わらず、ダダ漏れているぞ。」
『えっ、そうなの。』
という、ナミの思考に、レオンは頷いた。
『なんでぇー』
ナミが心の中で叫んでいると、モノクルを掛けた執事のクロウが、使用人たちの一歩前に進み出た。
「御主人様、なぜそのような物が、そこにあるのでしょうか?」
レオンに抱きかかえられているナミを、イヤそうに一瞥する。
『ちょっと、物ってなによ。ものって。』
レオンは自分の腕の中で、憤慨しているナミを、まるっと無視すると、
「当分、俺の部屋で飼うので、そのつもりで、寝室の用意をしろ。」
とほざいた。
ナミは思わず、レオンを睨むと、
『ちょっと、飼うってなによ。飼うって。ジョーダンじゃない。私は犬や猫じゃない。』
と、心の中で悪態をついた。
声に出さなかったのは、モノクルを掛けた、執事のクロウの体から、増悪が噴出していたからだ。
非常に怖い。
それはまさに、今にも、ナミを絞め殺したい、という態度だった。
『なんでぇー、私が睨まれなければ、ならないのぉー、理不尽だ!!!』
ナミが考えにふけっているうちに、レオンは彼女を抱えたまま、自分の寝室に向かった。
そして、部屋に着くと、ソファーにナミを、放り投げる。
「げっ。」
思わず、投げられた先にあるソファーに、へばりついた。
レオンに文句を言おうとして、顔を上げると、本人は非常に疲れた顔で、
棚のワインをとると、グラスに注ぎ、一気に飲み干す。
「ふぅー。」
なんとも気だるげに、きれいな銀髪を搔き上げると、またワインを注ぎ一息に飲む。
まるでなにか、前世の映画のワンシーンを、生で見ているようで、ごくりと生唾を飲んでいた。
そのとたん、レオンはナミを振り向くと、グラスを持ったまま、彼女の傍に来た。
そして、くいっと、ナミの顎を持ち上げる。
なにするんだと、ナミが疑問に思っているうち、レオンの口が近づいた。
「ん・・んん・んぐぅ・・。」
気がついたら、口移しで、不味いワインを飲まされていた。
「げっ、鉄さびの味がぁーー、まっずーい。」
ナミのあわあわとした態度が、非常にお気に召したようで、レオンはまた同じことをしようと、すぐ傍に近づいた。
ナミは素早く、ソファーから飛び降りると、レオンから離れる。
前世でやっていた、RPGみたいに、思わず母の形見のフライパンと父の形見の剣を構えていた。
レオンは目を丸くして、そんなナミの行動を見ると、
「そんなに不味いか、これは?」
ワインの入った、グラスを振る。
「絶対に不味い。まだ、レオンの血の方が、美味しい。」
ナミは、両手にある形見を強く握りながら、力説した。
二度とあんな不味いものを、飲まされたら、かなわない。
「そうか。」
レオンはなぜか、さっきとは違って、うれしそうにワインを飲んだ。
『なんで、うれしそうなんだ?』
そのうち、ナミのお腹がぐぅーーーーと鳴った。
そう言えば、まだ夕食を食べていない。
レオンは、飲んでいたグラスを、テーブルにトンと置くと、スックと立ち上がった。
ナミがキョトンとしているうちに、ソファーから彼女を、小脇に抱えると、歩き出した。
「ちょ、ちゃんと自分で歩けるよ、レオン。」
ナミは憤慨して、文句を垂れた。
レオンはフライパンと剣を抱えたナミを見ると、
「お前に歩かせると、俺の倍はかかる。」
すげなく、却下された。
『そりゃ、足の長さが違うから、しかたないけど、だけど・・・。』
ナミがブツブツ文句を言っているうちに、ブルがいる食堂についた。
「ナミちゃん。よかったぁ。待ってたんだよ。」
食堂に入ったとたん、メリーが、真っ赤に泣きはらした目を向けながら、ナミに話しかけた。
メリーの目前には、ブルが作った料理が、湯気を立てていた。
「おいしそう。」
ナミは思わず、呟く。
ナミが呟くと、同時に、ブルは美味しそうなラーメンを出してくれた。
早速、手に持っていた剣とフライパンを膝に置こうとしたが、何故かブルに
フライパンを取り上げられてしまった。
「ちょっと、なにす・・。」
ブルはナミの言葉を手を上げて、途中で遮ると、そのフライパンの角度を、何度も変えてそれを眺める。
「これをどこで、手に入れたのですか?」
突然、真剣な顔で、問いただされた。
「これは、かあさんの形見だよ。」
ナミは項垂れて、ブルに答えた。
「形見ですって、それじゃ、これを持っていた人は、亡くなったんですか?」
ブルは、フライパンを持つ手を、プルプル震わせながら、もう一度ナミに聞く。
ナミは、何も言えず、頭を縦に振って、頷いた。
「なんてことなの。こんなことになるなら、何がなんでも、行方がわからなくなった時に、探すんだった。」
ブルはそういって、フライパンを持ったまま、頭を抱えた。
ブルの口からは、何度も後悔の言葉が呟かれた。
『いったい、どういうこと。』
ナミの頭の中は、疑問符でいっぱいになった。
固まっているナミを見かねて、メリーが代わりに、ブルに尋ねた。
「あのー、ブルさんは、ナミちゃんのおかあさんを、知っているんですか?」
「ナミさんのおかあさん?」
ブルは、再度、問いなおした。
ナミはまた、頭を縦に振った。
「そのフライパンは、死んだかあさんのものです。」
「なんですって!!!」
ブルはビックリして、ナミを、しげしげと眺めた。
「なるほど、言われてみれば、確かに似て・・い・・る。」
「えっと、ブルさんとナミちゃんのおかあさんは、いったい、どういう知り合いだったんですか?」
『さすが、メリーちゃん。とても、聞きにくいことをズバッと、思いっきり言ってくれる。でっ』
ナミはブルの顔を凝視した。
ブルはナミの目線にまったく気づかず、遠くを見る目で、昔話を始めた。
「私は昔から赤の国で、吸血鬼専用の料理人をしていたんですが、ある時、全く料理を作れなくなりました。
悩んだ末に、もっと根底から自分を見直そうと、諸国を放浪して、”本当の味”を探し始めたんです。
何年も放浪しましたが、なかなか納得出来る味に、巡り合えませんでした。
そんな時、人間の国で、今までの旅の疲れからか、行き倒れてしまい。
その時に、ナミさんのおかあさん、いえナオミに、助けていただいたんです。
そして、私はナオミから料理の極意を教わりました。」
「「料理の極意」」
ナミとメリーは、同時に叫ぶと、ブルの”次の言葉”を静かに待った。
「はい、料理の極意です。
ナオミは、回復した私に、本当に天国にも、登れるのではないか、というほどの、美味しい料理を、病み上がりに食べさせて、くれました。
私はその時、自分はこの料理に出会う為に、今までいろいろな苦労をして、旅を続けていたんだと、分かりました。
もちろん直ぐに、その場でナオミに、弟子にしてくれと、頼み込みました。
でもナオミは、笑って言ったんです。
”私は大したことないよ”とね。
当然、私は反論しました。
すると、”じゃ、明日、今日の料理を、もう一度作るので、食べてみてほしい”と言われました。
私は喜んで、了承しました。
でも、次の日に食べた料理は、昨日と全く同じものだ、とナオミが断言するのに、私には同じものとは、思えませんでした。
私は納得出来ずに、何度もナオミを口説いたんです。
昨日と同じものを、作ってほしいとね。
すると、ナオミは溜息を付きながら、傍にあった厨房に、私を連れていってくれました。
そして、私の目の前で、計量器まで使って、昨日と同じ味の料理を作ってくれたんです。
でも、この時の私は、まだ自分がなんて愚かなことを、言っているのか、全くわかっていませんでした。
次の日、ナオミは体力も戻って、元気いっぱいになった私に、昨日と同じように、計量器で測って、調味料をいれた、まったく同じ料理を、作ってくれました。
この時は、さすがに、自分の目から見ても、全く同じようにして、作ってくれた料理だと分かりました。
私は昨日の”天国に登る味”を求めて、その料理を食べたんです。
でも、食べても、食べても、昨日と同じ味がしない。
すると、ナオミは次に、昨日より明らかに、入れる調味料の分量を変えて、作り始めました。
同じ材料で、しかし入れる調味料の分量が、全く違うものを作ったんです。
私は半信半疑で、ナオミが作った料理を、口にいれました。
入れる調味料の分量が、全く違うものなのに、その味は、ここ数日、私が”天国の味”と呼んでいるものでした。
すると突然、ナオミは食べている私の表情が、変わったのを見て、”天気の話”を始めました。
”今日は、寒いね”と。
私にはナオミの意味することが、わからなかったのですが、同意しました。
確かに、冬に近づいていくせいか、その頃、肌寒くなってきたと、思っていたので。
次にナオミは、私に質問したんです。
”寒い日には何が食べたいか?”
当然、私は”寒い日には、温かいものが食べたい”と答えました。
”なぜ、寒い日には温かいものが食べたいのか?”と聞かれました。
私は、”寒い日に温かいものを食べれば、体が温まるからだ”と答えました。
ナオミの料理の極意は、”食べたいと思う人に、食べたいものを出す。”
ただそれだけだ、そうです。」
ブルはそこまで一気に話すと、手を胸に当てて、フリルいっぱいのエプロンを、ヒラヒラさせながら、まさに夢見る乙女そのものの目で、遠くを見て、昔を懐かしんでいる。
『なんて感動的な話かもしれないけど、ブルの顔が、なぜか、それをコメディに変えている。いや、ここで、それを言ってはいけない、ナミ。』
ブルはしばらくすると、夢の世界から現実に帰って来て、また話を始めた。
「私は、それから、ナオミが働いている食堂で、ナオミの助手をしながら、料理を教わりました。
ナオミは簡単に、相手の体調や味覚を、どうやら直感でキャッチするようですが、私には、なかなかそれが出来ず。
3年もかかって、なんとか、自分でもマシに料理を作れるようになった頃、ナオミは、私に何も言わず、店を辞めて、姿をくらましたんです。
私も最初は捜していたんですが、店主曰く、”突然、思い立って、何年も行方をくらます人間だから、ほっておけ。”といわれ、
なんとなく、ナオミらしい気がして、私もしばらくして、ナオミと働いていた食堂を辞め、故郷の赤の国に戻り、再度店を出しました。
けっこう繁盛し始めた頃、クロウ様の目に留まり、今こうして、この城で料理人をしています。」
『かあさんが師匠なんて、信じられないけど、世の中、そんな偶然もあるもんなんだね。だからブルの料理食べた時、かあさんの味がしたのかぁー。
うーん、でも、そのエプロン姿はなんで、なのかなぁ、聞いて見たい。』
ナミが唸りながら、悩んでいると、隣からメリーがブルに、まさにナミが今疑問に思っていたことを質問した。
「それじゃ、もしかして、そのブルさんのヒラヒラのエプロンは、ナミちゃんのおかあさんからのプレゼントですか?」
『えっ、メリーちゃん、すごい。いきなり、核心をついた質問いきますかぁーー。ワオーーー、で。』
ナミはブルの満面の満足顔でも、なぜかコメディ顔をみた。
「わかりますか。私が納得出来た料理が作れたと、喜んでいる時に、満足料理記念日のプレゼントだと言って、くれたんです。
今でも思い出すと、あの時の感動が、私の胸に沸々と湧き上がってきます。」
ここで、ブルは胸に手をあてて、乙女モードに突入した。
『かあさん、あなたはなんてものをプレゼントしたんですか?
普通ヒラヒラじゃないものを、買うでしょ。
もうちょっとなんとかならなかったのか、かあさん!!!
なんだかミスマッチし過ぎて、笑いがわら・・・、笑っちゃだめよ、ナミ。
これは、超感動の場面なんだから、が・ま・ん。』
ナミは崩れそうになる顔を引き締めながら、ブルが現実に戻って来るのを待った。
戻ってきたブルは、フライパンを握りしめて、厨房に戻ろうとしている。
このままだと、あの形見のフライパンが、なぜか戻ってこない気がする。
ナミはフライパンを持ったまま、厨房に戻ろうとしている、ブルに声をかけた。
「お話が終わったところで、フライパン返して下さい。」
さすがに、ここはナミも冷たく言い放った。
ブルは小さく舌打ちすると、
「まあ、ごめんなさい。忘れていたわ。」
と言って、ナミの手にフライパンを戻した。
ブルはフライパンを私に返すと、
「そう言えばまだ、正式に名乗っていませんでしたね。
私は、ブリジット・スコフィールドと言いまして、ここで料理人をしています。」
ナミも姿勢を正すと、
「ナミです。」
メリーもあわてて、立ち上がると
「メリーです。」
「「いつもおいしい料理をごちそうさまです。」」
声を揃えて、あいさつした。
ブルは、ニッコリ笑うと、ナミとメリーの”おいしい料理”に気を良くして、厨房に戻ると、
トントントンと軽快な包丁の音を立てて、あっという間に、もう一品足してくれた。
ナミとメリーは、喜んでそのおいしい一品と今まで出いていた料理をすべて完食した。
「「ごちそうさまでした。おいそかったです。」」




