53始祖に仕える執事
「くそっ、あいつら。憶えていろよ。今すぐ、殺してやるからな。」
執事が戻ると、長兄のデイヴィが、部屋にあった椅子を手あたり次第に蹴り倒し、悪態をついていた。
まったく、一欠けらも始祖の血を、受け継いでいない輩だな。
執事は、通路でそう呟いた。
やはり戦う力も、魔力もあまりないからと、この国を出て行かれる時の、ケヴィン様に、着いて行くべきだったか。
執事は遠い目で、昔に思いを馳せた。
「ごめんよ、ハリス。僕が待っている力は、本当に僕を愛してくれる人に、使いたいんだ。だから、ハリスがついて来てくれて、それで君の身に何かあったら、と思うと、イヤだから・・・。君は、ここに残って、母を看取ってほしい。」
ケヴィン様に、そう言われて、ここに残ったのだ。
風の便りに、数十年前に、ケヴィン様は、最愛の人と会い、その人が死にそうになった時に、かの力を使って、自分の永遠の寿命を、人間の女性に分け与えた、と聞いた。
その後、残りの人生をどう生きたのか、全く聞いては、いなかった。
今、思えば、使い魔の一匹でも、ケヴィン様につけていれば、あんなことには、ならなかったのだろうか。
執事が過去に思いを馳せ、後悔していると、いきなり長兄のデイヴィが、物騒なことを言い出した。
「今、直ぐに、軍を招集させろ。レオンを討つ。」
執事は、呆れ顔で、今、現在の主を見た。
「自殺する気で、ございましょうか?」
「なんだと。なんで、そうなる?」
怒りの表情で、執事を睨み付けた。
「レオン様の軍は、大方を魔国と赤の国に派遣しているとはいえ、残存勢力だけでも、ここの軍より実力が上、さらに、レオン様の居城は、難攻不落で有名でございます。出陣すれば、全滅は免れません。」
「なら、魔国に使者を送って、同盟を結べ。」
「かの国なら、数時間前に、レオン様の元配下の方が、眞魔国として国を統率しています。」
執事の声に、長兄のデイヴィは唖然とした。
「もう、統一したというのか? そして、そいつは、レオンの元配下だと。間違いないのか?」
「間違いございません。」
「くっそぉ、もういい、下がれ。」
「失礼いたします。」
執事はその場で、礼をすると、部屋を後にした。
彼は、自分の執務室に戻ると、背後に控えていた影の長に、すぐに命令した。
王都の各有力な貴族方に連絡をとって、戦争をひき起こそうとしている、長兄のデイヴィに、味方しない様に、伝令を走らせた。
優秀な影たちのことだから、数時間で、結果を出してくれるだろう。
ハリスは、影に後を任せて、荷物をまとめると、明け方を待った。
数時間後、影たちが交渉から戻ってきた。
「全ての方に、了承を取り付けてきました。」
代表の影の長が状況を知らせてくれた。
「そうか、よくやった。私は、執事を首になった後、レオン様の城に向かう。お前たちは、その後は好きにしろ。ただし、長兄のデイヴィに仕えていた場合、もしかしたら、私が敵となるやも知れん。」
「ハリス様!」
影の長が、ハリスに目線で、理由を問う。
「まだ未確定だが、ケヴィン様の忘れ形見が生きているかも知れない。」
影の長が、一瞬息を飲んで、その後、真剣にハリスの目を見た。
「わかっている。もしそうなら、隠さず、皆に知らせるつもりだ。」
二人の会話は、その後通路を怒気を発散させながら、近づいてくる人物によって、中断された。
バッターン
いきなり、扉がすごい勢いで、開かれる。
「ハリス、どうなっているんだ。集まるはずの軍が、集合していないぞ。何をやっている、老いぼれ。お前はもう首だ。この王宮から、出て行け!」
ハリスは、元主に深々と礼をすると、まとめてあった荷物をもって、王宮を後にした。
背後では、自分の言葉通りに出て行く、老執事を、唖然として見送る、長兄のデイヴィがそこいた。




