50魔国の後片付け(1)
街中の混乱が、思った以上に、酷いようだ。
それが、兵の士気にも影響しているのか、彼らの行動がバラバラで、王宮は、さらに大混乱に陥っていた。
クロウは、主人であるレオンとその直属の部下グレイ、それに巨大な魔力の持ち主であるナミが消えた部屋を眺めて、溜息をついた。
これ以上、この状態を放置すれば、魔国もさすがに、消滅してしまうだろう。
クロウは、窓から見える、赤い炎に包まれて燃え上がる街に、目を向けた。
その時、ノックの音がして、ブルが部屋の中に入って来た。
「クロウ?」
クロウは、愛しい妻の声に、扉を振り返って、腕を広げた。
嬉しそうに微笑んだブルが、扉を閉めると、躊躇なく、クロウの腕に、飛び込んできた。
「ブリジット!」
きつく妻を抱き締めながら、クロウは視線をまた、街に向けた。
今だに街は炎に包まれ、王宮も大混乱のまま・・・。
やはり、このまま、放置は出来ない。
本心は、このままずっと、愛する妻と、ほんわかした、ノホホーンな生活を続けたかったが、現状を見る限り、そうはいかないようだ。
クロウは、諦めたように、大きな溜息をつくと、腕に嵌っている白い腕輪を見つめた。
それに気がついたブルが、逆に、ぎゅっとクロウを、抱き締めてくれた。
「ごめん、ブル。」
ブルは、クロウの腕の中で首を振ると、彼の腕輪に、彼女も、そっと手を添えた。
二人は一緒に、彼の腕に嵌っていた腕輪を外した。
途端、クロウの体から、大きな魔力が吹き上がった。
そして、魔力は白い炎を吹上げ、クロウとブルの体を渦のように、包み込むと、今度は、ゆっくりと薄れて、消えて行った。
白い炎が消えた場所には、白い髪に真っ白な肌をした精悍な男と、その隣には、黒い長髪と小麦色の肌に、愛らしい顔をした美女がそこにいた。
「何者だ!」
あまりの魔力の大きさに、王宮にいた一部の近衛兵が、バタンと扉を勢いよく開けると、部屋に雪崩込んできた。
クロウは飛び込んで来た近衛兵の一人に、一喝した。
「状況はどうなっている、すぐに報告しろ!」
近衛兵は、クロウを見た後、唖然として、呟いた。
「クロウ・スコフィールドなのか?」
同じような白い髪に、美麗な顔を涙で歪めながら、そこに飛び込んで来た近衛兵は、クロウに抱き付いた。
「ああ、生きてたようだな、シンク。」
クロウは、一度だけ優しく背を叩くと、ベリッと男を自分から引き剥がした。
「それより、いい加減に離せ。俺は男に、抱き付かれる趣味はない。」
「そうだったな。」
シンクは、泣き笑い顔で、彼の隣を見た。
「ブリジット、生きてたのか!」
シンクは、クロウの隣にいたブリジットにも同じように、今度は喜々として、その胸に、飛び込んだ。
ベリッ
シンクは、ブリジットの胸に飛び込んだ途端、クロウに引き剥がされた。
「お前、命はいらないみたいだなぁ。」
クロウの顔が冷笑を浮かべた。
「いやだなぁー、冗談なのに。」
シンクがそう言った途端、彼の頬を扇が直撃した。
バッシーン
「痛ぅ。」
「まあ、手が滑ってしまいました。申し訳ありません、シンク様。」
優雅な動きで、赤いドレスに身を包んだ、ボン キュッ ボンの美女が、扉から現れた。
「お久しぶりですわね、クロウ様。」
「「カンナ!」」
「まあ、挨拶はこれくらいで、さっさと現状を、どうにかなさいませ、シンク。」
カンナは、魔法で扇を、手元に呼び寄せると、優雅にそれを開いて、微笑んだ。
「おい、人に扇をぶつけておいて、謝りもしないのか?」
「まあ、イヤですわ。近衛隊の隊長ともあろうものが、婦女子の扇くらい、サッと避ければ、よろしいでしょう。」
「なんだと。」
シンクがカンナに、喰ってかかろうとしているのを、クロウは止めた。
「二人とも、仲がいいのは結構だが、取り合えず、この状況が収まってから、やってくれ。」
クロウの言葉に、シンクが不服そうに応じた。
「別に仲がいいわけじゃないが、確かに、この状況を収拾する方が先だな。」
すぐにカンナも現実に返ると、クロウに提案した。
「大丈夫ですわ。ブリジットのことなら、私が責任を持ちますので、ご存分に。」
「助かるよ、カンナ。」
「いえ、これは貸しですから、そこはお忘れなく。」
クロウは苦笑いしながら、ブリジットをカンナに預けると、この状況収拾のために、部屋を飛び出して行った。




