30ミッション1-ヘルの中央広場
しばらくして、ナミたちが待つ宿屋前に、レオンが二階から降りてきた。
「いかがでしたか、レオン様。」
クロウが苦虫を噛み潰したような表情のレオンに声をかけた。
「後15分しても、降りて来なかったら、出発する。」
レオンはブスッとそれだけ言うと、出発準備を終えて、待っているグレイの所に行く。
寒風が吹きすさぶ中、キーラが黄金で縁取れされた、胸元が大きく開いた、薄いドレス姿で、下に現れた。
レオンを見つけ、震えながら、近づいていく。
「なんで、そんな格好をしているんだ。」
キーラは嬉しそうにレオンに抱き付くと、レオンの耳元に、ガチガチと震えながら囁いた。
「レオン様に置いて行かれたくなかったので、着替え途中でしたが、降りてきました。キーラにとってレオン様の命令は絶対ですので、早く出発しましょう。大丈夫です。レオン様が抱いて温めて下されば、寒くありませんわ。」
キーラはレオンの胸に縋りついた。
レオンは額に手をあてて、呻くと、キーラの侍女に怒鳴った。
「何をやっているんだ。お前たちは。早く主人にもっと厚手の洋服を着せてやれ。キーラ。なんでもいいから、もっと寒くない格好に着替えて来い。」
レオンは一喝した。
「ですが、そうしますと、もう少し時間がかかって、しまいますわ。」
レオンは苦虫を噛み潰した顔を浮かべながら、キーラを見た。
「いいから、着替えてくるんだ。」
キーラは嬉しそうに頷くと、二階に戻って行った。
レオンはグレイに怒鳴った。
「キーラが戻って来るまで一時、休憩だ。交代で宿屋でお茶でも飲んでろ!」
レオンは隊を2班に分けると、20分ずつの休憩を言い渡した。
グレイがそれを聞いて、先に休憩の為に宿屋に、向かおうとして、レオンに捕まる。
「レオン様?」
「ストレス発散をしたい。構えろ、グレイ。」
「ここでやるんですか?」
「お前が説得に行かなかったせいなんだから、責任をとれ。」
「それって、八つ当たり・・。」
グレイはおもわず、本音を呟きそうになった。
「何か言ったか?」
「いいえ、なにも。」
グレイは大きく溜息を付くと、剣を構えた。
ナミとブル、クロウは二人をそのままに、休憩するために、宿屋に向かった。
中に入っても、レオンたちの剣戟の音が響いて来る。
かなり、頭に来ているようで、いつも以上に激しい打ち合いになっている。
ナミとブルは、温かいココアを頼んで、ゆっくり飲む。
湯気が上がって、その匂いと甘い香りが寒くなった体を温めてくれる。
クロウは、温めた紫炎ザクロのワインを味わっていた。
『温めたワインなんて、おいしいの?』
ナミは思わず凝視してしまった。
それから、一時間後。
やっとまともな格好をして、姿を見せたキーラたちを加え、レオンたち一行は、ヘブンの宿を後にした。
キーラは、二階からやっと降りてきたかと思うと、すぐにレオンにしな垂れかかりながら、何ごとか呟き、今は彼に抱きかかえられるようにして、飛んでいる。
何でか、ことあるごとに、後ろにいるナミをチラッ見しては、彼に抱き付く。
その度に、ナミの胸には、ムカムカとした黒い感情が沸き上がってくる。
いっそ、前に向け、何かの魔力をぶっぱなしたら、すっきりするんじゃないかと、らちもないことを、妄想してしまう。
さらに、空気が冷たすぎるせいか、考えの合間に、息さえも胸につかえて、心がズキンと痛くなる。
青の国で買ったセーターの上に、この間ブルさんと行った洋装店で買ってもらったコートを羽織り、首にマフラーまで巻いているのに、どうしたのだろうか。
ナミは、自分の葛藤に向き合うのが怖くて、なるべく前を見ない様にして、飛び続けた。
それからしばらくして、飛んでいる周囲の空気が、刺すような冷たさに変わった頃、前方に、魔国の首都ヘルが見えてきた。
途端、ドキンと心臓が高鳴った。
なんだか前から、とてつもないエネルギーを感じる。
一体どこから感じるのだろうか。
ナミは辺りを見渡すが、別段、何かあるわけでもない。
隊にいるみんなを見るが、誰も何も感じていないようだ。
なんで、みんな平気なの。
ナミはもう一度、前方に意識を集中した。
魔国の首都ヘルの真ん中辺りから、エネルギーを感じる。
一隊は今も飛びながら、ヘルの中央広場にぐんぐん迫っていた。
目視できる位置にきたのでもう一度、中央広場を見ると、水が出ない噴水があり、寒さのせいで、周囲は薄い雪をかぶっていた。
でもナミには、その噴水からとてつもないエネルギーが噴出しているように感じられたのだ。
「どうした、ナミ?」
先程から様子のおかしいナミを心配したレオンが声をかけた。
レオンの隣には、ムッとした表情のキーラがいた。
「レオン様。」
キーラは、ナミに駆け寄ろうとしている、レオンの腕を捉えた。
「さあ、早く行きましょう?」
レオンはキーラをじろりと見ると、グレイに目線をやる。
「グレイ。お前はナミと後から来い。」
グレイは無言で頷いた。
レオンはそれだけ言うと、仕方なしにキーラに引っ付かれたまま、山の上に建つ、白の王宮を目指した。
レオンたちが行ってしまった後、グレイはナミを振り向いた。
ナミは一心に、なぜか噴水を凝視していた。
そして、前触れもなく噴水の周りを歩き出す。
『なんで、こんなにエネルギーを感じるのに、ここには何もないの。』
グレイは黙って、ナミの奇行を見ていた。
ナミは噴水を一周した後、その縁に腰を下ろすと、腕を振って、キーボードを出す。
そして、すぐに、そこに知りたいことを打ち込んだ。
”古代遺跡への入り方。”
ナミが打ち込んだ途端、ナミの脳内にイメージが浮かんだ。
それは水のない噴水に、飛び込む自分に姿だった。
ナミは思わず噴水を凝視した。
『いくら水がないとはいえ、ここに飛び込めってこと。大けがしなくても、擦り傷ができそう。』
ナミは、噴水にそっと手を入れた。
手は当たり前のように、水のない噴水の底を、撫でただけだ。
『うっ、女は度胸よ、ナミ。』
ナミはそう自分に言い聞かすと、周囲になんの気配も感じないのを、確認する。
その後、噴水から少し離れた所まで、ゆっくり歩くと、勢いをつけて、噴水に足から飛び込んだ。
絶対に、全身がすり傷だらけだと思っていたナミの体は、噴水の底を通り抜け、中の閉鎖空間に入った。
『うそー。本当に入れた。夢みたい。』
ナミは真っ暗な中、狭い閉鎖空間で感動していた。
次に、自分の今の状況に気がついて、真っ青になる。
『しまった。入れたけど、出方確認するの忘れた。どうしよう。』
ナミはおろおろと部屋の壁を手探りした。
触っているうちに、壁の突起に手がひっかかり、そのまま擦り傷を作ってしまう。
『痛ぅ、なにこれ。』
ナミは血が滴った指を舐めた。
『何で、引っ掻いたんだろ。』
ナミがそう思った途端、壁が光だし、混血児村の古代遺跡と同じような現象が起こった。
音ともに、部屋が広がり、そこが光り輝く。
『すっごぉー。』
ナミは感動して見ていたが、そこでハッとした。
『やばい。起動するつもりがなかったのに、動かしちゃった。うっ、レオンに怒られそう。』
ナミがそう思っていると、スクリーンからプロフェッサーサトウの声とコンの声が聞こえた。
<よくやった、娘。>
<すごいです。御主人様。>
「えっと、ありがとう。で、次は、どうすればいいの?」
<その目の前にあるスクリーンボードの赤いENTERキーを押せば、この建屋は使えなくなる。>
「わかった。」
ナミはすぐに、その赤いENTERキーを押した。
<躊躇せんのぉー、娘。>
「えっ、だって、これで、使えなくなるんでしょ?」
<ああ、明日の朝には、ただの廃墟になる。>
「よかった。ところで、外に出たいんだけど、どうすればいいの?」
<指輪を使って、ここから、瞬間移動すればよい。>
「どうやって、使えばいいの?」
<指輪を同じ指に嵌めて、外の景色を創造する。そして、行きたいと念じれば、その場所に行ける。>
「ありがとう、やって見る。」
ナミはさきほどレオンと別れた噴水をイメージした。
その頃、今さっきまで、一緒にいたナミに消えられたグレイは、非常に焦っていた。
ナミの気配を探れど、全く見つからず。
しかし、先程、噴水に飛び込む姿を確かに見たのだ。
『どうしたものか?同じように行動した方がいいのか。万一の為に、ここで待機した方がいいのか。』
グレイは噴水前で、途方にくれていた。




