29ミッション1-ヘブンの宿屋
ナミたち一行は、一端ヘブンで宿をとった。
キーラは、下に降りた途端に、その場にくずおれそうになって、レオンに抱きかかえられる。
「キーラ様、大丈夫ですか?」
キーラ専用の侍女たちが、レオンに抱きかかえられている彼女の傍に、集まってきた。
侍女の一人がキーラの様子を見て、慌てて宿の中に駆け込むと、部屋を用意してもらう。
レオンはその侍女に案内させて、彼女を部屋に運んだ。
ナミとグレイ、ブルとクロウは、そのまま宿の食堂に、まっすぐ向かった。
他の兵士たちは、宿の外で、そのまま警護につく。
食堂では、グレイとクロウが紫炎ザクロのワインを、ナミとブルが肉中心の夕食を頼んだ。
四人が注文を終わったすぐ後に、レオンが食堂に入ってきた。
「どうでしたか、キーラ様の様子は?」
グレイがもう一つ紫炎ザクロのワインを、店主に追加注文しながら話かけた。
「あの調子なら、一晩寝れば大丈夫だろう。」
レオンが答えた所に、タイミングよく、三人分の紫炎ザクロのワインが運ばれてくる。
先に飲み始めた三人が、人心地つくころに、やっとナミとブルの食事が運ばれてきた。
二人は運ばれてくると、すぐさま食べ始めた。
ブルが作ってくれる料理には及ばないが、お腹が空いていた二人は、黙々と食べた。
「「ふう、ご馳走様。」」
二人はすぐに完食した。
隣を見ると、先に食事が終わっていたグレイは、外で警備をしている兵と交代するために、すでにテーブルからいなくなっていた。
「部屋に行くぞ、ナミ。」
レオンの声に、ナミは慌てて、立ち上がる。
その時、キーラが連れてきた金髪碧眼の美人侍女たちが、ぞろぞろと食堂に降りて来た。
そして、階段の前で、レオンの前に立ちふさがると、文句をいう。
「レオン様、なぜ、その小娘を連れていくのですか?キーラ様が同じ宿に居られるのに、無神経です。」
レオンの眉がピクリと上がった。
「お前たちには、関係ない。」
レオンがすげなく、跳ね除ける。
「関係あります。レオン様は、キーラ様の婚約者です。」
「俺は一度も、認めていないがな。」
レオンの睨みに、侍女たちが押し黙る。
『へっ、そうなの。』
思わずナミは、隣にいるレオンをまじまじと見上げた。
「で・・で・・ですが、赤の国で一番魔力があるのは、キーラ様です。」
侍女の一人が果敢にも、レオンにキーラの魔力の強さを強調する。
「今まではな。この話は”白の舞踏会”が終わるまでに、ハッキリさせる。」
レオンは、そう言うと、侍女たちを押しのけて、ナミを促すと、自分たちが寝る宿の部屋に向かった。
ナミは部屋に入るまで、聞きたいことが、ありまくったが、我慢した。
部屋に入るとすぐに、防音の魔法をレオンがかけた。
ナミは疑問に思っていることを、聞こうと口を開くが、レオンにそれを遮られる。
「ナミが聞きたいことはわかるが、その前に、俺の質問に答えろ。今ここにいて、遺跡のエネルギーを感じるか?」
ナミはレオンに言われて、神経を研ぎ澄ますが、別段、何も感じなかったので、首を振った。
「そうか、やはり近づかないと難しいか。」
「レオン。」
「ああ、そうだな。説明がまだだったな。前に俺の異母兄弟の事を説明したことがあっただろ。憶えているか?」
ナミは頷いた。
「異母兄はすでに、純血の吸血族と結婚しているが、その時、年の近い俺が、まだ未婚だったんで、周りがうるさかったんだ。でっ、面倒になって、純血ではないものの中で、一番魔力が強いものを選ぶと宣言した。」
「へっ、じゃあ。」
「ああ、当時たまたま一番魔力が強かったのが、キーラだったので、周りが勝手にそう思っただけだ。キーラの血族にも、一度も婚約については、打診されなかったので、そのまま放置していたんだが、ここに来て、俄かに人間の国との戦争だなんだと、周りがキナ臭くなってきて、キーラ側も焦って、急に俺にアプローチをしてきたようだ。さすがに今回は、放置できないので、古代遺跡の件もあるし、両方いっぺんに、片付けるつもりだよ。」
「片付けるって、どうやって?」
レオンは腹黒い笑みを浮かべると、それ以上は、何も教えてくれなかった。
「話は変わるが、ナミ。明日の昼頃には、魔国の首都ヘルに着く。着けばたぶん、地図から見ても古代遺跡の場所を感じ取れるだろう。取り敢えず、グレイと一緒に、場所の確認に行け。古代遺跡の中に侵入するのは、その後だ。下手に入って、何かがあって、魔国の奴らに気づかれるのも、まずいからな。」
ナミはレオンの話に頷いた。
「話は以上だ。ナミ、先にシャワーを浴びろ。俺は後でいい。」
ナミはわかったと頷くと、持って来た収納袋から着替えを出すと、先にシャワーを済ませた。
交代でレオンが浴びている間に、ナミは古代遺跡から、レオンが気に入っていたワインを瞬間移動させた。
グラスは宿に設置されているものを、そのまま備え付けの戸棚から出した。
用意が終わると、少し寒かったので、ベッドから毛布を持ってくると、そのままソファーで、毛布に包まる。
しばらくすると、きれいに光る銀髪をタオルで拭きながら、引き締まった筋肉を晒した状態で、上半身裸のレオンが浴室から出てきた。
すぐにテーブルに置かれたワインに気がつく。
そのまま髪を拭いていたタオルを、がっしりした肩にかけると、ワインの線を開け、グラスに注いで一口飲んだ。
口の中でまろやかに蕩ける味に、レオンは思わずうなる。
「ナミ、これは!!!」
「それじゃない方が、よかった?」
毛布に包まったままのナミが、トロンとした目で、上半身裸のレオンに問いかけた。
「いや、今は、これの方が、俺にはちょうどいい。」
レオンが、額に落ちた髪に手を掛けて戻すと、ナミに優しく微笑んだ。
ナミはそのだだ漏れ色気に一瞬で、その場にくずおれそうになった。
『さ・さ・さすが吸血鬼。危なかった。立ってたら、その場に倒れていたところだよ。』
ナミはたまたまだが、ソファーに座っていた自分を褒めた。
一瞬で目が覚めたものの、いつもよりだいぶゆっくりだった飛行に、疲れていたせか、ワインをじっくり味わっているレオンを、しばらく見ているうちに、なんだがウトウトしてきてしまった。
気がつくと、レオンの肩にコテンと頭をもたげ、いつの間にか、眠ってしまう。
レオンは今日も、自分の肩に頭をもたせ掛けて、幸せそうに眠るナミをやさしく見つめる。
『まったく、なんでこいつは、危機感なく眠れるんだか。』
そう思いながら、肩にナミを寄りかからせたまま、ナミが瞬間移動してくれたワインを堪能した。
レオンはそれを十分に味わった後、宿のベッドに眠っているナミを抱きあげて運ぶ。
途中で起きるかと思ったが、レオンが抱き上げて運んでも、ナミが起きる気配は、全くなかった。
毎度のこととはいえ、そのうち何か言わなければと、思いながら、毛布に包まるナミを自分胸元に抱き込むと、レオンもそのまま横になって、眠りについた。
ーー次の日の朝、ナミはレオンの声に起こされる。
「起きろ、ナミ。出発するぞ。」
「へっ、もう朝なの?」
ナミはキョトンとして、半身をベットからお起すと、周りを見た。
『あれ、ここ。そうだ。ここは昨日泊まった、宿屋の部屋だ。』
「目が覚めたか?」
ナミは慌てて、ベッドを出ると、収納袋から着替えを出して、浴室に向かった。
レオンは、ソファーに座って、昨日飲んだワインの残りを味わいながら、ナミが出てくるのを待った。
ナミは浴室で大慌てで、洗顔と着替えを済ますと、部屋に戻る。
見るとレオンがソファーで、昨日ナミが瞬間移動したワインの残りを飲んでいた。
「レオン、もう一本、瞬間移動しようか?」
レオンは嬉しそうに、グラスを置くと、ナミを見る。
「ああ、頼む。」
ナミは、レオンの微笑に、かなり赤くなりながらも、また瞬間移動で、古代遺跡からワインを取寄せた。
レオンはさっそく栓を開けると、グラスに注ぐ。
芳醇な香りがレオンの鼻をくすぐる。
「ナミ、お前もここで食ベた方がいいぞ。下に行って、頼んでいる時間はないからな。」
ナミは頷くと、ここに来る前に、ブルが用意してくれた食事を、収納袋から取り出した。
ブルさん曰く、これは魔法の袋なので、取り出さなければ、ずっと新鮮なままで、時間が止まっているらしい。
ナミは出来立て、ほやほやのブル特性、豪華料理をテーブルに出すと、食べ始めた。
香ばしい匂いと湯気が立っていて、ほんとーに食欲をそそる。
あっという間に完食すると、すでにワインを飲み終わっていたレオンと、下に降りる。
下では、用意を終えてかっちり服を着込んだグレイと同じくブル、クロウ、その他の兵たちが待っていた。
「キーラたちは、どうした?」
出発準備を万端にして立っていたグレイに、レオンが聞く。
「まだ、いらっしゃっていません。」
レオンは額に手をやると、一瞬、二階を見上げた。
「グレイ、お前・・。」
「私は出発の準備がありますので、無理です。」
グレイはすげなく言い放つと、スタスタと外に、出て行ってしまった。
レオンがモノクルを掛けて、執事用黒服と黒いコートを着込んでいるクロウを見た。
「私では、相手にされていませんので、行くだけ無駄だと思いますが。」
クロウがレオンの目を見ながら、彼の返事を待った。
レオンは、命令しかけて止めると、大きな溜息をついた。
「クロウ、ブル。ナミを頼む。俺が言って、様子を見てくる。」
クロウは腕を胸元にして、きれいに礼をする。
「畏まりました。」
隣で分厚いコートを羽織って、マフラーを巻き、完全防寒のブルも頷いた。
レオンは二人が頷いたのを見てから、本当にイヤそうに、二階にある特別室に向かった。
部屋の前に立つと、ドアを強くノックする。
「起きているか、キーラ?」
「レオン様。」
中からキーラの声が聞こえる。
それと同時に、侍女の一人が部屋のドアを開けてくれた。
「なんで降りてこない。」
レオンはかなりきつめの声で、キーラに問いただした。
キーラは一瞬、目を瞠りながらも、薄い夜着姿で妖艶に微笑むと、大きな胸を強調しながら、レオンをベットから見上げた。
「なぜ、昨日は私ではなく、あんな小娘を、御傍に召したのでしょうか?」
レオンは黙ったまま、何も答えない。
「あんな対して魔力もない小娘より、よほど私の方が魔力があります、レオン様。」
キーラは、素足でベットから降りると、そのままレオンの胸にしな垂れかかった。
「キーラ、一度しか言わないから、よく聞け。あと15分でこの宿を出発する。用意できなければ、お前をこの宿に置いていく。」
「レオン様。私は・・・。」
キーラはレオンの首に腕を回すと、レオンに抱き付く。
レオンはキスをしようと、顔を近づけてきたキーラを、力づくで引き剥がす。
「早くしろ。」
レオンは、周りの侍女たちを睨んだ。
「キーラ様がお可哀想です。」
侍女の一人がレオンに文句を言う。
「俺に二度言わすな!」
レオンはそれだけ言うと、部屋を出て行ってしまった。
「キーラ様、どうしますか?」
キーラは部屋のドアを忌々しげに睨むと来ていた夜着を脱ぎ捨てた。
「いいわ。取り敢えず、着替えを手伝って、頂戴。」
「畏まりました。」
レオン一行が宿を出発したのは、それから一時間以上後だった。




