24 時空間の閉鎖
催眠ガスが充満して、混血児村にいた人間たちが動かなくなった。
「どうなの?もう、たいぶ効いたのかしら。」
「通常の人間であれば、もう動けないはずです。」
「今、風下に立ったとして、ガスを吸うようなことはないの?」
「ガスを吸引する可能性は、97%以上ありえません。」
「なんで100%じゃないのよ?」
ナミはこの物言いに不服そうな声で、問い詰めた。
「不確定要素は常に存在します。なので3%は仕方がありません。」
「機械のくせに、ずいぶんと細かいのね。いや違うか機械だからか。」
ナミは溜息をついて、今の状況をそのままレオンに告げた。
『レオン。』
『状況はどうだ、ナミ。』
『スクリーンでは動くものは確認できない。それと今、風下で催眠ガスを吸う確率は3%だって。』
『わかった。上出来だ。こっちはこれから下に降りて、作戦を開始する。ナミはそこで、引き続きスクリーン越しに確認作業を頼む。』
『了解。』
念話が切れた途端に、スクリーンにレオンとグレイ、それに隊の人たちの姿が映った。
彼らはある一定の間隔で距離を開けると、両手を合わせる。
すると、彼らの手元が光り出した。
次に彼らは、その光を仲間同士でつなげると、だんだんと間の距離を、伸ばしていく。
最後に、先頭の人物が手短に転がっている人間を掴むと、光の帯にその人間を乗せる。
するとその光の帯に乗せられた人間は、スルッと光に沿って、すごい速さで移動していった。
『すごい。人間ベルトコンベアー見たい。ねえ、運ばれた人間の最終地点が見たいんだけど。』
ナミの要望にスクリーンの位置が変わった。
最終地点では、描かれている術式上に時空の穴が映し出される。
そこではレオンが、送られて来た人間を、穴にひょいひょいと、投げ入れているところだった。
そういえばレオンから、スクリーン越しに動くものがないかどうか確認するように言われていたんだっけ。
「ねえ、なにか動くものはある?」
ナミが言うと、スクリーンが次々に切り替わって、隊員を映し出した。
『どうやら、今の所、隊員以外には、動くものはないようだ。』
二時間後、すべての人間を時空の穴に入れることに成功した。
『ナミ、時空の穴を閉じさせろ。』
レオンの言葉に、ナミはすかさず穴を、閉じるように命じた。
「了解しました。時空間の穴を閉じます。」
声とともに、レオンの前に展開されていた、白い模様がみるみるうちになくなった。
「完了しました。」
『ナミ、一応、そいつに、もうこの近辺に、時空の穴が出来ない様に防御させろ。』
『了解。』
「時空の穴が出来ない様に、防御して頂戴。」
「了解しました。」
軽い機械音がした途端、あっちこっちで、上空に魔術の術式が展開された。
しばらくすると、術式が消える。
「防御完了しました。」
『終わったよ。レオン。』
『わかった。そっちに戻る。』
「さて、終わったし、食事にしたいけど、ここって、食堂があるの?」
「三階中央が食堂です。」
「了解、ご苦労様。えっと、まだ名前を聞いてなかったけど、なんていうの?」
「私は人ではありませんので、名前はありません。」
「そうか、じゃ不便だから、君は前世にあったコンピューターみたいだから、コンって、どうかしら。」
「了解しました。コンと登録します。」
「いや、それ命令じゃないんだけど、まっ、いいか。じゃ、コン。私食堂に行くから、レオンたちが帰ってきたら、食堂にいるって言ってくれる。」
「了解しました。」
ナミはそれだけ言うと、メインルームを抜けて、食堂に向かうため、通路にでた。
階段を登ろうとすると、すかさずコンに話しかけられる。
「食堂はそちらではありません。」
「えっ、でも食堂って、上の階でしょ。」
「そのまま、そこの通路でお待ちください。」
コンがそう言った途端、軽い音がしたと感じた瞬間に、通路の壁が開いた。
「どうぞ。」
開いた先の箱から声がかかる。
ナミは驚きながらも、その中に入る。
次に軽く上に引き上がられるような浮遊感がした。
その後、ドアが開くと、同じような通路に出た。
ナミが通路に出ると、背後で壁が閉じる。
見ると、その先には食堂があった。
さきほどナミが乗り込んだのは、前世で言う、エレベーターのようなものだったらしい。
ナミは、そのまま食堂に入ると、そこにはテーブルときれいに飾られた前世でいうシャンデリアに似たクリスタルの灯りと凝った椅子が置いてあった。
ナミはそこを抜けて、厨房にいくと、壁には樽が山積みされていた。
「これなんだろ?」
「それは、紫炎ザクロのワインです。」
「へぇー、そうなんだ。他には何があるの?」
「奥の棚に、乾燥チーズとお米、小麦粉、砂糖・・・・・。」
ナミの質問に長々と解説が続く。
どんだけあるんだと思ったが、その中のある一点がナミの耳に残った。
「お米があるの?」
「お米は、右から3番目の戸棚の中です。」
ナミが見ると、扉に数字が打ってあった。
右から3番目の戸棚を開けると、そこには玄米があった。
「これじゃ、白米食べるには、脱穀しなけりゃだめか。」
ナミが溜息をつくと、コンがそれに答えた。
「調理棚の上に脱穀して、精米し、炊飯まで出来る道具が調理棚の右端にあります。」
「えっ、脱穀、精米し、炊飯まで出来る道具があるの?」
「はい、食べたい分量を中のカップで測って、右端の調理器具の中に入れて下さい。」
ナミは半信半疑になりながら、コンが言うように、機械の蓋を開けると、玄米を中のカップで測って、3回分入れた。
見ると、機械上部に、数字を打つテンキーがあった。
ナミは3と打つと、蓋を閉める。
四隅にあるクリスタルがくるくる回って、光出すと、脱穀を始めた。
見ていると、下段からヌカがでてくる。
ナミは勿体ないので、そのヌカをお皿に溜めた。
しばらくすると、水音がして、白い水が出たかと思うと、ご飯を炊き出した。
ご飯を水につけないのかと突っ込みたくなったが、白米が食べられるなら、何も言うまいと思った。
次にここで炊き上がるまで待っているより、他に何かおかずはなるものを捜そうと、戸棚を開けた。
中になんと干した何かの肉と”のり”らしきものもあった。
さすがに、梅干しは見つからなかったが、これで塩おにぎりが作れる。
ナミは、炊き上がった音に、機械の蓋をとった。
前世も真っ青な短時間でふっくらした、ご飯が炊きあがっていた。
思わず水で手を洗うと、そのままご飯を掴んで口に入れた。
『うっ、うっ・・・・・うまい!!!!』
「ビバ、古代遺跡。きみは、なんてすばらしいの。」
ナミは思わず叫んでいた。
感動しながら、手に塩をつけると、熱々ご飯を握って、”のり”を巻いて、おにぎりを握った。
干し肉は、鍋を見つけて、そのまま入れると、乾燥した野菜があったので、それと一緒に煮込む。
そのうちガヤガヤとした音とともに、レオンたちが食堂に入って来た。
「ナミ、何をしてる?」
レオンが厨房でごそごそしているナミを見かけて、声をかけた。
「おにぎり作ってるだけ。紫炎ザクロのワインは、その樽の中みたい。」
「おい、飲めるのか?」
「大丈夫です。熟成されています。」
コンがすかさず、解説を加えてきた。
「熟成ね。」
レオンは棚にあったグラスをとると、樽からワインを注いだ。
光越しに見ると、濁りはないようだ。
匂いを嗅ぐ。
別段、気になるよう匂いもないばかりか、逆に香しい匂いが漂っている。
レオンは、少し舐めてみた。
ほのかな香しい匂いと、極上のうまみがあった。
「なんだ、これは。」
「えっ、まずいのそれ?」
「いや、めちゃくちゃうまい。グレイ飲んでみろ。」
レオンはそのまま飲みかけのグラスをグレイに渡す。
グレイも匂いを嗅いで、少し舐めてから、驚きの顔で、また一口飲んだ。
「なんですか、レオン様。この極上の味は。」
「おい、これはなんだ?」
「最初に、私が造られた時に、採れた極上の紫炎ザクロを、長い年月をかけて熟成させたものです。」
「「ビバ、古代遺跡。」」
「他にもあるのか?」
レオンの声にコンが答えた。
「そこにある樽以外には、その奥の倉庫に置いてあるだけです。」
「その倉庫には、あとなん樽あるんだ?」
「今と同じ年で熟成されたものは100樽しかありません。後はもっと年代の新しいものです。」
レオンとグレイは顔を見合わせた。
『『100樽もあるのか。』』
「新しものと古いものの見分け方は?」
「樽に年代が打ってあります。数字の大きなものが、年代の新しいものです。」
二人が手分けしてみると、年代が新しいものが確かにあった。
二人は、年代の新しいものを試飲してみる。
「これも普通の紫炎ザクロのワインより、かなり美味しいですね。」
「ああ、確かにうまい。」
二人は顔を見合わせて、頷いた。
「おい、シーバス。」
グレイの声に、シーバスが厨房にやって来た。
「なんでしょうか?」
「ここにある樽を食堂のテーブルに運んでくれ。」
「わかりました。」
シーバスが大きな樽に手を掛けると、それを厨房から、食堂のテーブルに運ぶ。
それを見て他の隊員もやって来た。
グレイの指示で、他の隊員もグラスを運んで、テーブルに置かれた樽から、それぞれがワインを注いだ。
グレイとレオンは、デキャンタを見つけると、最初に試飲した樽から、そのデキャンタにワインを注ぐと、それをテーブルに持って行った。
全員がグラスを持って、テーブルに並んだ頃に、ナミも料理を作り終わって、レオンの隣で、おにぎりとさっき作ったスープを持って、席に着いた。
紫炎ザクロのワインは、おにぎりには合わないので、コンに教えてもらった緑茶に似たものを水で戻して、テーブルに持って来た。
レオンがグラスを掲げた。
全員がそれに倣う。
「今日の勝利に!!!」
グラスを上げて、一斉に最初の一杯目を飲み干した。
すぐに全員が樽に群がって、紫炎ザクロのワインを飲みだす。
「「「「「うまい。なんだこの紫炎ザクロのワインは!!!」」」」」
レオンとグレイはデキャンタから先程のワインを注ぐと、じっくり味わいながら飲む。
『『うーん、うまい。あいつらには、新しいワインで十分だな。』』
レオンとグレイは、目線でそう言いながら、ワインを飲んだ。
その二人の隣では、ナミが白米のおにぎりを堪能していた。
『うーん、うまい。塩おにぎり最高!!!!』
全員の笑い声が食堂に響いた。




