22 古代遺跡
ナミは、レオンを昔、村のみんなと遊んだ遺跡に案内した。
結構曲がりくねった道だったが、誰一人、音を立てることもなく、ついて来た。
さすが、レオンが率いる精鋭部隊だ。
ナミは感心しながら、みんなを遺跡前の森まで案内する。
「レオン、ここだよ。」
ナミは、崖の裂け目に空いている、子供一人がやっと通れそうな、小さな穴を指した。
レオンはナミの示した、穴の中に手を入れる。
風が中から吹き上げてくる。
だが流石に、レオンでは入れない。
一番小さいナミでも、さすがに、もう無理だろう。
『ナミ、俺をこの遺跡の中に、瞬間移動しろ!』
「ええー」
思わず声を上げてしまって、レオンに口を塞がれた。
ナミは目をレオンに向け、今度は念話で問いただす。
『でも、レオン。』
『お前の話では、中はかなり広いんだろ。』
ナミは頷いた。
『なら、問題ない。手にも風の動きを感じるから、中で酸欠を起こすことは、ないだろう。』
レオンは、ナミを見た。
『本当にやるの?』
『ああ、俺を遺跡の中に、瞬間移動しろ。』
ナミは、レオンの目を見て、頷いた。
「シーバス。」
レオンは脇にいたシーバスを呼び寄せた。
吸血鬼の中でも若手の茶髪の彼は、俊敏な身のこなしで音もなく、レオンの脇に来る。
「俺は少しこの場を離れる。お前は隊をここから少し離れた森に移せ。もし、人間がこの近くに来たなら、グレイに知らせて、あいつの指示に従え。」
シーバスは無言で頷くと、隊に戻り、すぐに移動を開始した。
レオンはそれを確認した後、グレイに念話をする。
『グレイ。俺はこれからナミと、この遺跡の中を確認する。一旦隊を離れるので、指揮権をお前に任す。後を頼む。』
『畏まりました。』
レオンはナミを見た。
ナミは頷くと、今の二人の姿をイメージする。
次に、瞬間移動する地下遺跡をイメージした。
二人は、レオンが上に着ていた洋服を全て、その場に残して、消えた。
二人はすぐに、生温かな空気が流れる、真っ暗な空間に移動した。
かなりの間、誰も入ったことがないようで、空気が淀んでいる。
しばらくすると、灯りがともって、広い空間が照らし出された。
「これは、すごいな。」
音が反響するくらい、広い空間が広がっていた。
だが何かあるかと言われると、何もない。
レオンは上半身裸のまま、近くの壁まで歩いて行くと、その場から時計周りに、壁を触っていく。
ナミは、黙って、それを見ていた。
瞬間移動前まで、洋服を着ていたレオンをイメージしていたのだが、移動の瞬間、ここ二・三日で見慣れた上半身裸のレオンが思い浮かんでしまったのだ。
『まっ、まっ裸じゃないんだから問題ない。うん、問題なし、だいじょーぶ。』
ナミは自分に、言い聞かせていた。
ナミがそんなことを考えていたせいか、レオンに呼びかけられているのに、気がつかなった。
「ナミ・・、ナミ!聞いているのか?」
「は・・はい。」
ナミは慌てて、レオンの傍に駆けよった。
レオンはナミの手を取ると、自分の持っていた剣を少し抜くと、ナミの指をキズつけた。
ナミの目が点になる。
「ちょっ・・なにす・・・。」
レオンは、血がにじみ出たナミの指を、壁の窪みに押し当てる。
変な機械音がしたかと思うと、壁自体が突然、輝き出した。
「な・・・な・・・なにが起こってるの?」
ナミが目を白黒させて、その光景を見ていると、なんの前触れもなく、音が鳴りやんだ。
一瞬にして、地下にあった空洞は、様変わりしていた。
「なにこれ?」
壁は先程の何もなかった岩肌から、巨大なスクリーンに代わっていた。
頭上には眩い光を放つ、巨大なクリスタルが輝いている。
「はぁー、どうなってるの、これ???」
思わずナミの口から声が漏れていた。
「お名前をどうぞ、御主人様。」
部屋のどこからか、声が聞こえてきた。
レオンはナミに念話した。
『ナミ、名前を言え。』
「えっ、名前?」
「そうだ、名前だ。」
「誰の名前?」
レオンはあきれて、頭を抱えたくなった。
「お前の名前だ。」
ナミはハッとすると、自分の名前を答えた。
「平田ナミ。」
「登録しました、御主人様。」
「へっ、登録?何を登録したの?」
ナミは慌てて、四方の壁に目を走らせながら、問いただした。
『へんなものの御主人様に、されたらかなわない。』
「私の御主人様の名前を登録しました。」
機械的な声で答えが返ってきた。
「えぇーー、何それ。」
「ナミ、スクリーンで村の中を映してくれ。」
レオンはナミに今、壁に映っている景色を変えろといってきた。
「変えろって、どうやって?」
「ナミが命令すれば、たぶん、このスクリーンの画像が変わるはずだ。」
「えっ、そうなの。なら村の中を映しなさい。」
ナミがそう言った途端、スクリーンが村の中を映し出した。
「ウソー、なんでなの。でもすごい鮮明な画像ね。」
ナミは感心して画面を見ている。
「でも、なんでレオンの命令は聞かないの?」
「私の御主人様はナミです。レオンではありません。」
機会的な声でたんたんと答えが返ってきた。
「じゃ、どうすれば、レオンの命令に従えるの?」
「ナミが従えと命令されるなら、従います。」
ナミは頷くと、命令した。
「じゃ、命令します。レオンの命令に従いなさい。」
「了解しました。レオンの命令に従います。」
レオンはナミと古代遺跡のやり取りをおもしろそうに聞いていた。
「ほう、それは助かる。じゃ、命令だ。ここで今、画面に映っている人の声を拾うことが可能なら、音を拾ってくれ。」
「畏まりました。音を拾います。」
答えが返るとともに、村の中で話、敵の兵士の声が鮮明に聞こえてきた。
〈知っているか、上はここで古代遺跡を捜しているらしいぞ。なんでも、大量虐殺が可能な遺跡だそうだ。〉
〈そりゃ、助かる。こんな兵器でちまちま殺すより、手っ取り早く虐殺出来るなら、手間がかからなくて、何よりだ。なんたって奴らは、家畜のくせに、御主人様に逆らった下等動物なんだからな。〉
〈そりゃ、違いねぇ。〉
二人の兵士は、そう笑いながら、歩いていく。
ナミは二人の兵士の会話に、血の気が引いて行くような感じを受けた。
『なに今の会話?レオンたちが家畜ですって。自分たちが偉いって、だから父さんや母さんをあんなふうに・・・。』
ナミの血が、心臓に向かって、集まっていく。
レオンが隣で、エネルギーの波動が変わったナミを見て、慌てて、ナミに声をかけた。
「ナミ。」
反応がない。
「おい、ナミ。聞こえているのか?」
レオンがナミの肩を揺さぶった。
ナミが気だるい顔でレオンを見る。
『くそっ、不味い。トランス状態一歩手前だ。』
「ナミ!!!」
ナミの意識が、どんどん遠くなっていく。
レオンは慌てた。
このままでは、この間の混血児村と同じ状態になってしまう。
レオンはナミの顎を指で強引に上向かせると、自分の舌を少し切って、ナミの口に魔力を纏わせた血を送り込んだ。
『ナミ、答えろ。ナミ。』
遠くでレオンの声が聞こえた。
だんだんと冷たくなって言ったはずの心から、意識が口の中に流れ込んできた甘ーいものに向いた。
途端に、うるさいくらいに喚く、レオンの声が聞こえた。
『レオン?』
ナミはレオンを認識すると、同時に口の中に流れてくる、甘いシロップを飲みこんだ。
『おいしい。』
その甘いものを飲み込もうと舌を絡めると、レオンに押し退けられる。
『もう充分、飲んだだろ、ナミ。』
ナミの口から、レオンは力づくで、自分の舌を退避した。
『まったく、うぶなくせに、何を考えているんだ、こいつは。危うく、こっちが本気になりそうだった。』
レオンは口元からこぼれた血を拭きとろうと、手を口元に持って行く前に、ナミに口元をなめとられる。
ペロッ
『もったいないよ、甘いのに。』
半覚醒状態のナミは、羞恥心が皆無だった。
逆にレオンの方が、真っ赤になる。
『いい加減に、目を覚ませ、このマセガキ!!!』
レオンの一喝に、ナミもまともに、目が覚めたようだ。
「あれ、なんで、真っ赤になってるの、レオン。」
レオンはナミを恨みがましい目で見た。
「もういいから、お前はそこにいろ。」
ナミはキョトンとして、頷いた。




