20 親善試合
三人が試合会場に着くと、前日にレオンたちを案内した、隊長さんが一番眺めが良い席で、待っていてくれた。
レオンが隊長に気がついて、そこに座る。
ナミとメリーもそのすぐ傍に座った。
「おはようございます。」
隊長がレオンに挨拶する。
「ああ、おはよう。相変わらず青の国は、朝が早いな。」
「これは習性みたいなものですから。」
隊長がメリーとナミに気がつく。
「これは、伯爵令嬢。お久しぶりです。」
隊長の挨拶に、ナミが度肝を抜かれていた。
「伯爵令嬢!!」
思わずメリーを振り返ってみた。
「あれ、ナミちゃんに言ってなかったっけ?」
メリーは全く気にしていなかった。
「聞いてません。」
ナミは少し拗ねた。
「私も普段全く意識してないし、自分でもたまに忘れるくらいだから、気にしないで。」
『そういうものなの?』
ナミにはよくわからなかった。
「始まりますよ。」
隊長がレオンの傍に座った二人に、声をかけたと同時に、赤の国と青の国の兵士が、闘技場に一人ずつ、剣を持って現れた。
両脇には、審判役の兵士が、それぞれの国から一人ずつ、赤と青の旗を持って立っていた。
試合開始の合図があり、剣を持った二人が中央で、戦い始める。
青の国の兵士は力強く重い剣を、赤の国の兵士に打ち付ける。
一方、それを青の国の兵士が、魔法障壁の盾と素早い剣の打ち込みで迎え撃つ。
数十分にも及ぶ攻防の末、青の国の兵士が、赤の国の兵士の魔法障壁を粉砕して、重い剣を相手に打ち付け、一戦目は青の国が勝利した。
二戦目、三戦目も同じような戦いの末、勝率は半々で五戦目を迎えた。
最終試合、ようやくグレイとジミーの出番となった。
ジミーは他の青の国の兵士と同じく、重い剣を携えて現れた。
一方、グレイは、今までの赤の国のどの兵士よりも、薄くて軽い剣を持って、試合会場に立っている。
その姿を見て、レオンが思わず目を瞠る。
ナミがレオンの顔色を見て、念話をした。
『どうかしたの、レオン。』
『いや、あんな本気のグレイを見るのは久しぶりなんで、ちょっと驚いているだけだ。』
『あれが?』
ナミにはグレイの何が本気なのか、まったくわからなかった。
何回か練習相手になって貰っているが、それとどこが違うのだろうか。
レオンは不敵に笑うと、
『よく見ておけ。良いものが見れるぞ。』
「どうかしたの、ナミ。」
ナミが急に黙り込んだので、メリーが心配して、声をかけてきた。
「今、レオンが念話で、今から始まる試合をよく見ておけって。」
「今から始まる試合?」
メリーはジミーとグレイを見た。
ナミもレオンの言葉に従って、試合会場に神経を集中する。
二人の前にいた隊長も、この会話を聞いて、これから始まる試合に、目をこらす。
審判の合図と同時に、ジミーが渾身の力で、剣をグレイに叩きつける。
グレイは、ジミーの剣を軽くかわすと、薄くて軽い剣をジミーが持っている剣の切っ先に向けると、その途端、信じられないことが起きた。
グレイの剣が、固くて重いジミーの剣を、剣先から手元まできれいに両断し、なおかつジミーの手元から肩まで、薄皮一枚分、きれいに切り裂いたのだ。
グレイは振り抜きざま、また元の鞘に剣を戻す。
周囲は、一瞬の出来事に、シーンと静まり返る。
「グレイ様、すごい。」
ナミがメリーを見ると、彼女の目がハートになっていた。
『そういえば、メリーちゃん。昔から剣が強い人が、大好きだったっけ。』
だいぶ遅れて、赤い旗が二本上がった。
今回は三勝二敗で赤の国に、軍配が上がった。
「相変わらず、信じられん、剣技だな。」
レオンが独り言をつぶやく。
「あんなことが、出来るんですか?」
隊長が信じられないものを見て、唖然としていた。
「相手が確実に自分に向かって来ると、わかっているなら可能だな。ただし、俺がやると薄皮一枚じゃなく、そのままきれいに真っ二つにしてしまって、あんなふうな芸当は、絶対にできない。」
レオンは肩をすくめると、そう答えた。
「それにしても、すごい。」
隊長はしきりに感心している。
「さて、隊長。食事後に、合同作戦会議だ。」
「いつもだったら、この後、午後にも、もう何試合かやるんですがね。」
「諦めろ。隊長クラスが本気でやると、午後が全部潰れて、会議の時間が無くなるぞ。」
「はぁー、そうなんですが、全力でやりあえる機会なんてそうないんで、やりたかったんですがね。」
隊長は盛大に溜息をついて、レオンと食堂に戻っていった。
ナミとメリーは、外で食事をするために、レオンと別れ、王城の正面に向かった。
ゆっくり、メリーと歩きながら話していると、後ろから誰かが走ってきた。
「待って、メリー。」
メリーが呼びかけられたので、後を振り返った。
後ろからジミーが、満身創痍で二人を追いかけてきた。
「ジミー、大丈夫なの?」
ジミーは、情けなさそうな顔で、メリーを見た。
「ごめん。せっかく応援してくれたのに、結局負けちゃって。」
メリーが、きまり悪そうに、ジミーの視線を避けた。
『そういえば、メリーちゃん。最後の試合は、グレイばかり見ていて、ジミーの応援はしていなかったような。』
「あのね、今日は私とナミちゃん二人で行くから大丈夫だよ。」
メリーが後ろめたさから、ジミーに休憩するように言うが、ジミーは、聞きいれない。
「心配してくれてありがとう、メリー。でも向こうの隊長さんに、かなり手加減しもらったから、大丈夫だよ。ほら、傷口も、もう塞がっているし。」
ジミーがさっきグレイにつけられた、傷をメリーに見せる。
二人が傷口を見ると、確かに今はピンク色になって、大分傷が治っているようだ。
さすが人狼だ。
治りが早い。
ジミーはメリーに傷口を見せると、二人の後に続いて、歩き始めた。
最初何度か、ジミーは戻ったほうがいいのではないかと、メリーは説得したのだが、結局諦めなかったので、最終的に二人はジミーと一緒に食事することにした。
メリーはジミーを気にしながらも、さっきの試合について、ナミに話しかけた。
「ナミちゃんは、さっきの試合見てて、どう思った?」
メリーに急に話を振られて、ナミは困惑しながらも、正直に感想をいった。
「私的には、どの試合もいろいろ勉強になって、よかったけど、最後の試合が一番参考になったかな。いつもレオンが練習相手出来ない時、グレイに見てもらうんだけど、あんな繊細な剣裁きをするとは、思わなかったよ。」
メリーがうらやましそうな顔で相槌をうつ。
「いいな、ナミちゃん。グレイ様に剣の相手をしてもらえるなんて。私もグレイ様に指南されたい。」
ナミがメリーを見ると、メリーの目がハートになっている。
後ろからジミーが会話に入って来た。
「確かに、ナミがうらやましいよ。俺も出来るなら、あんな繊細な剣を使う人にたまには、指南されてみたい。」
メリーがジミーを振り返った。
「ジミー、わかってるじゃない。見直したわ。」
メリーがジミーを褒める。
ジミーが喜んでメリーに同意して、さらにグレイの剣技を語った。
『ジミー、あんたやたらグレイを褒めてるけど、なんでメリーちゃんのハートマークの目が見えないの。どう見たって、メリーちゃん。グレイの剣技に魅了されてるよ。このままだと、グレイに横から、かっさらわれるかも知れないのに、どうして浮かれていられるんだ?』
ナミはグレイに魅了されているハートマークの目をしたメリーの話とメリーに喜ばれて有頂天でグレイを褒めるジミーの話を、レストランに着くまで、延々と聞かされ続けた。
レストラに着いた時には、違う意味で、ナミのお腹はいっぱいになっていた。




