19 誤解
翌朝、ドアをノックする音に、目が覚めた。
眠い目をこすって起き上がると、ドア外からメリーの声が聞こえる。
「おっはよう、ナミちゃーん。一緒に食事に行こう。」
ナミは、メリーの声にレオンの腕を外すと、起き上がって、ドアを開けた。
「おはよう、メリーちゃん、朝早いね。」
メリーが何の気なしに部屋に入ってきて、ベッドにいるレオンに気が付いて、硬直した。
ギッギギギギィー
顔をナミに向けると、
「ナミちゃんゴメン。朝から邪魔しちゃって。とりあえず食堂で待っているから。」
メリーは真っ赤な顔で、それだけ言うと、部屋を出て行ってしまう。
どうしたのかな急に、ナミが首を傾げていると、レオンが目を覚ました。
レオンはベッドから起き上がると、シャワーに向かった。
ナミは慌て、ワインを捜す。
でもここは、青の国ではないので、当然ない。
ナミは仕方なしに、瞬間移動でワインとグラスを取り寄せ、テーブルに置いた。
その時、ふとテーブルの横に、昨日買った買い物袋の山があるのに、気がついた。
そのままにしておくと、邪魔なので、それをレオンに借りている、青の国のドレッサーに、瞬間移動する。
荷物は一瞬にしてなくなった。
『ふぅ、これで帰るとき、持って行かなくて済む。』
ナミは、レオンがシャワーを浴びている間に、顔を洗うと着替えて、レオンが出てくるのを待った。
程なくして、レオンはシャワーを浴びて出てくると、テーブルに載っているワインを飲み始めた。
しばらく飲んでから、レオンがナミを見た。
「ナミの力は、本当に便利だな。」
レオンが嬉しそうに笑う。
『うっ、美形の笑顔って、威力がすごい。』
ナミが朝からレオンの笑顔に見とれていると、ナミのお腹が抗議した。
グルルルルー グウー
「そろそろ、食事にするか。」
レオンが立ち上がった。
ナミは、慌ててレオンから離れる。
赤の国で、食堂まで小脇に抱えられて運ばれたら、恥ずかしさで死ねる。
ここは死んでも、そうならないように、逃げなきゃ。
「何をしているナミ、行くぞ。」
レオンはドアの前にいた。
「なんだ、抱き上げて、ほしいのか?」
レオンがとんでも発言をする。
ナミは顔をぶんぶん振った。
『そんな気は、まったくもって、微塵もありません。』
「ここは敵地だから、手が塞がるのは危険だ。青の国に、帰ったらしてやる。今は我慢しろ。」
『どこのお子様だ。それは?』
「いや、だから、我慢なんかしてませんって。」
ナミは慌てて、声に出していった。
そんなことは、本当に考えていないのだから。
レオンは聞いているのか、いないのか、ドアを開けると歩き出した。
ナミは慌てて、レオンの後をついて行った。
食堂はとてもきれいな広い庭を、ぐるりと回り込んだ先にあった。
庭には、冬なのに色とりどりのバラが咲き乱れている。
レオンは後ろを振り向かず、どんどん先に進んでいく。
ナミもレオンに遅れないように、後について歩く。
食堂近くまで行くと、メリーちゃんがドアのところで迎えてくれた。
一緒の席で食べようと、手を引かれる。
ナミはメリーと一緒に奥の席についた。
すぐに、かわいい犬耳で、しっぽのふさふさしたメイドさんが、朝からボリュームたっぷりのステーキを持ってきてくれた。
おいしい肉の匂いが立ち上る。
「さあ、召し上がれ。」
メリーがニコニコ顔で食事を勧める。
ナミはナイフで大きな肉を小さく切り分けると、一口食べた。
『口の中でとろける上手さが絶妙だ。』
ナミはもう一口、フォークに刺して食べた。
『本当においしい牛肉だ。』
ナミはその後、無言で肉を食べ始めた。
これを箸ならぬ、フォークが止まらないおいしさというのだろうか。
ナミが無言で食べ進めているのを、メリーは、横でにこにこ顔で見ている。
ナミがきれいに平らげると、すかざずかわいい犬耳で、しっぽのふさふさしたメイドさんが、今度はデザートを出してくれた。
昨日に引き続きイチゴのケーキだ。
「メリーちゃん。これ食べていいの?」
「もちろん、私もナミちゃんと食べようと、朝はまだデザートを食べてないんだ。」
メリーの前には、イチゴパフェが置かれていた。
二人は昔見たいに、お互いのデザートを交換しながら、食べる。
「うん、ナミちゃんのイチゴケーキは、フワフワ感が絶品だね。」
「メリ-ちゃんのイチゴパフェは生クリームとイチゴのマッチング感が良いよ。」
二人が楽しそうに、デザートを交換し合って食べていると、ナミたちが入ってきたドアのちょうど反対側からジミーと数人の兵士が食堂に入って来た。
ジミーはメリーを見つけると、慌てて朝のあいさつの為に、テーブルにやってきた。
「おはよう、メリー。」
ジミーがメリーを呼び捨てで、呼んでいる。
メリーも気にすることなく、ジミーにあいさつを返していた。
「おはよう、ジミー。今日は早いのね。」
「うん、今日は朝番だったから、今から食事なんだ。」
「そうだったんだ。なんだったら、ナミちゃんもいるし、ここで食べたら?」
「えっ、良いのか?邪魔じゃない?」
ジミーは期待感満載でメリーに聞いている。
『突っ込みたくないけど、メリーちゃんきっと、何も考えずに、今のセリフを言ってると思うよ。期待すると、痛い目見るよ、ジミー。』
ナミは心の中で、ジミーに助言した。
もちろんジミーには、聞こえない。
「おいしそうだな。」
ジミーがメリーのイチゴパフェを見て、ぼそりと呟いた。
なにを思ったのか、メリーはスプーンで生クリームとイチゴをすくうと、ジミーにそのまま食べさせた。
「おいしいでしょ、ジミー。今日はナミちゃんの為に、朝早くイチゴ農園まで行って、わざわざ摘んだばかりのイチゴを持って来たんだよ。」
「あっ、ああ。すごくおいしいよ。」
ジミーは自分の幸運に、メリーの説明を全く、聞いていなかった。
ジミーの頭の中は、メリーが使ったスプーンで、彼女がイチゴを食べさせてくれたということで、いっぱいになっている。
なので、同僚からの嫉妬と、吸血鬼であるグレイからの殺気にまったく気がついていなかった。
ナミは、もちろんジミーが、イチゴをメリーから食べさせてもらった直後の、嫉妬攻撃に気がついた。
特に、グレイから放たれた、殺気には、一瞬背筋がぞわりとした。
思わず前に座っているジミーを見たが、本人は幸せいっぱいで、まったく気がついていなかった。
ある意味、とても幸せな状況に、溜息が出そうになる。
そのうち、ジミーが毎朝頼んでいる、ランチセットが、かわいい犬耳で、しっぽのふさふさしたメイドさんによって運ばれてくる。
ジミーは、その幸せ気分のまま、メリーの顔を見ながらゆっくり食事を始めた。
メリーは、食事を始めたジミーに興味をなくすと、ナミに話しかけた。
「ナミちゃんの今日の予定は?」
「私の今日の予定?」
思わず念話でレオンに聞いていた。
『レオン、今日の予定は?』
『これから親善試合で、午後は、今後行う赤の国との合同作戦会議だ。ナミは別に出る必要はないから、午後は自由にしていていいぞ。ただし明日は、青の国に戻るので、あまり遅くまで遊ぶんじゃないぞ。』
レオンはそう言うと、再び赤の国産、紫炎ザクロのワインを飲み始めた。
「ナミちゃん?」
「ああ、ごめん。えっと、この後、行われる親善試合を見た後は、特に予定はないよ。」
「本当、じゃ、二人でまた町をぶらぶらしようよ。」
「そうだね。案内よろしくね、メリーちゃん。」
「もちろんだよ、ナミちゃん。」
ナミとメリーがそう話していると、ジミーと一緒に来た同僚が先に食べ終わったらしく、ジミーが食べている席の後ろで、声をかけた。
「ジミー、俺達は先に試合会場に、行っているぞ。お前も今日は試合に出るんだから、早く会場に行けよ。」
同僚の言葉にジミーは、慌てて残りを食べ始めた。
「へえー、ジミーも参加するんだ。私も応援するね。ナミちゃんも応援する?」
ジミーがメリーの応援発言に舞い上がっている。
グレイは逆に、メリーの発言に、拳を握りしめた。
レオンはグレイが苛立っているのを、珍しいものをみる目で、見ていた。
「ごめん、メリーちゃん、それは流石に出来ないよ。一応、私は吸血鬼だから。」
「そうか、忘れてた。じゃ、私も応援止めるね。だから一緒に観戦しよう。」
メリーの応援を止める発言は、すでにジミーの耳にも、グレイの耳にも、届いていなかった。
ジミーは、メリーの応援発言後、食事を食べ終わると、すぐに試合会場に向かった。
グレイもおもむろに席を立つと、試合会場にむかったようだ。
メリーとナミも、レオンと一緒に試合会場に向かう。
メリーが思い出したように、ナミに聞いてきた。
「そうだ、ナミちゃん。昨日の念話の件はどうだった?」
ナミは焦って、冷や汗が流れた。
『しまった。なんて答えようか、考えていなかった。どうしよう。自分が規格外だからなんて、さすがに言われたくない。』
「えっと、そのメリーちゃんは、吸血鬼じゃないから、その・・・。」
ナミは口ごもってしまった。
「そうか、やっぱり、獣人と吸血鬼の間では難しいだね。わかった。じゃ、やっぱり当初の目的通り、ナミちゃんがちょくちょく、こっちに来るってことで、いいよね。」
「うん、了解。」
ナミはメリーに笑顔で返事をした。
その時、レオンから念話が入った。
『本当のことを言わないで、いいのか?』
『レオン。お願い、黙ってて。』
『別にかまわないが、タラタラ歩いていると、試合が始まってしまうから急ぐぞ。』
レオンはそう言うと、歩く速度を速めた。
ナミは慌てて、メリーと後を追った。




