18 規格外
ナミは、たくさんの買い物袋を下げて、王城に戻ってきた。
王城に着くと、メリーがナミの買い物袋を持って、部屋の前まで送ってくれた。
部屋の前で、ナミはメリーから買い物袋を受け取ると、お礼を言った。
「今日は一日、ありがとう、メリーちゃん。すっごく楽しかったよ。」
「それじゃ、また明日ね。ナミちゃん。」
メリーはうれしそうに笑うと、ナミと別れて、帰っていった。
ナミは廊下を曲がって、メリーの背が見えなくなるまで見送ると、部屋のドアを開けて、中に入った。
「遅かったな、ナミ。」
「どひゃー。」
ナミは奇妙な叫び声を上げて、レオンを振り返った。
「なんでここに、レオンがいるの?」
「それはどういう意味だ、ナミ。」
ナミは、キョトンとして、レオンを見た。
「えっ、だってここ、青の国でしょ。なら別に、危険なんか、ないんじゃない?」
レオンは大きな溜息をついた。
「ナミ、お前は、自分が吸血鬼なんだ、と言うことを忘れていないか?」
「いえ、別に忘れてはいないけど、普段は意識してないというか、なんていうか。」
ナミはごにょごにょと言い訳を呟いた。
「あのな、ナミ。人間が俺達に敵対してくる前までは、青の国と赤の国は、争っていたんだ。」
「えっ、そうなの?」
「力の強い国が隣同士になれば、どうしたって、争いが起こる。表だって、戦争をしていたわけではないが、それに近い状況だったんだ。たまたま、そんな時に、今回のようなことになって、一旦休戦状態になっただけだ。」
ナミはレオンの説明を聞いて、納得した。
たしかに、同じくらい力の強い国が隣り合えば、争いは起こるだろう。
でも、ナミが覚えている限り、青の国と赤の国で、表立って戦争をしているとは、聞いたことがない。いったいなんで、争っていたんだろうか。
「まあ、この話はもういいだろう。ナミも早く風呂に入れ。」
「うん、でも・・・。」
ナミはさっきから感じていた違和感に気がついた。
レオンがお風呂から上がったのに、上半身が裸とはいえ、ズボンを穿いているのだ。
「レオン。」
「なんだ、ナミ。」
レオンは、濡れた髪をタオルで拭きながら、ナミを振り返る。
「あの、なんで今日は、ズボンを穿いてるの?」
ナミは思いきって、聞いてみた。
レオンは溜息を付くと、
「ここは敵国だ。いつ攻撃を受けるかわからない時に、裸でいる馬鹿はいない。
それに応戦して外に出た時、いくらなんでも、裸で戦えば、寒いだろ。」
レオンから聞かされた理由は、どれも納得のいくものだった。
ナミはレオンの説明に頷くと、着替えを持って、浴室に行った。
でも、レオンが裸でないと、違和感を感じるなんて、私は変態か。
ナミは、お風呂につかりながら、大いに反省した。
ナミがゆっくり温まって、部屋に戻ってくると、レオンはまだ起きていた。
レオンと目が合うと、ナミはすぐに抱き上げられ、強制的にベッドに直行させられた。
「明日は早いから、もう寝るぞ。」
「あの、レオン。」
ナミはレオンの腕を外して、半身をベットから起こすと、メリーちゃんにさっき頼まれたことを、レオンに質問してみた。
「なんだ、ナミ?」
レオンが、ベットに寝たまま、下からナミを見上げて、気だるげに聞いてきた。
『うっ、男の人じゃない、吸血鬼なのに、なんでこんなに、色気がダダ漏れてるの。』
ナミは気をとりなおすと、ゴッホン。
「えっと、レオンと私は、念話が出来るでしょ。それをメリーちゃんとも、やりたいんだけど、どうすれば、念話が出来るようになるの?」
レオンは大きな溜息をつくと、
「ナミは念話を、何だと思っているんだ?」
「えっ、普通に口に出して話すのを、頭の中に置き換えただけでしょ?」
「そもそも、その認識自体が、間違っている。」
「えっ、じゃ念話って、何なの。」
ナミは疑問もあらわに、姿勢を正すと、レオンに問う。
「まず、最初に言っておこう。俺とナミがこんな風に、念話ができること自体、そもそも普通じゃないんだ。」
「えっ、そうなの。」
「そうだ。この間、ナミが倒れた時、俺が血を飲ませたことを覚えているか?」
「うん、もちろん覚えてるよ。生クリームみたいに甘くて、とってもおいしかった。」
レオンは、生クリーム発言に、嫌そうな顔をしながらも、話を続けた。
「その時、ナミは何か感じなかったか?」
「えっと、力が流れ込んで来たような感じはしたかな。」
「他には?」
「他には、別に何も感じなかったけど?」
レオンは意を決して、真実を話した。
「あの時、俺はナミを回復させると同時に、ナミの力を支配するつもりだったんだ。」
「なんで、そんなこと!」
レオンが、そんなことを考えて、自分に血を飲ませたとは、考えもしなかった。
ナミは信じていた分、レオンに裏切られたように感じて、ショックで悲しげに顔を歪めた。
レオンはナミのその反応に気がつきながらも、話を続ける。
「あの時のナミは、不安定で、今にも大暴走を起こしそうだった。だから俺は、一時的にナミの力を支配することで、その暴走をコントロールしようとしたんだ。だが、実際には俺の想像以上に、ナミの力が強かったことで、予想外のことが起こってしまった。」
「予想外のこと?」
「今の時点で、なんの契約も交わしていないのに、俺とナミの念話が出来ることだ。」
「えっ、普通出来ないの?」
「ああ、普通、主従契約を交わすか、同じ血脈もしくは一時的に、どちらかの血を、取り込まない限り、念話は出来ない。ちなみに、ただ単に、血を飲んだだけでは、せいぜい1日から2日程度で、効力は切れ、その後も念話が出来るなんて、聞いたことがない。」
「じゃ、私がレオンの血を飲んでから、だいぶたっているのに、念話が出来るのはなんで?」
「ナミは、全てが吸血鬼の規格外だから、俺には判断できん。」
「規格外って、そんな酷くないよ。」
「そう思っているのは、お前だけだ。」
レオンは冷たく言い放った。
「うっ、なにもそんな、人外生物扱いしなくても・・・。」
ナミはぶつぶつ独り言を言う。
でもそこでハッとした。
「えっ、じゃ、そのうち、レオンとも、ぷっつり念話が出来なくなるの?」
レオンは、ナミを見ながら断言した。
「俺の感覚では、この念話の力をコントロールしているのは、ナミ、お前の方だ。」
「えっ、私?」
ナミはレオンに、変なことを断言され、目を白黒させた。
「そうだ。俺を支配しているのは、ナミの方だから、そっちから力を切らないかぎり、念話を出来なくなることはない。」
「えっ、なにその支配って?」
「やはり、また無意識か。」
レオンは頭が痛いと言わんばかりに、呆れ顔でナミを見た。
「うっ、だって別に意識して、やったわけじゃないもん。」
「まったく。つまり、ナミが俺と話したくないと思わない限り、念話が出来なくなることはないということだ。」
「なんかよくわからないけど、わかった。じゃ、最初の質問に戻るけど、メリーちゃんと念話をすることは可能なの?」
レオンはしばらく考えてから、ナミの目を見ると、
「そうだな。メリーの力が正確に、どの位強いか不明だが、俺の力より強いとは、感じないから、念話は、ナミの血を飲ませれば可能だな。」
「本当!」
ナミは嬉しそうに、顔を輝かせる。
「喜ぶのは、まだ早い。念話は出来るが、力が俺より弱いんだ。下手に血を飲ますと、相手を隷属化させてしまうかもしれん。」
「隷属化って。」
「一方的に、ナミの意志のみが相手に伝わって、相手を思う通りに、動かせてしまうということだ。」
「そんな・・・。」
「まっ、そんなことをしたくなければ、やめておくことだな。」
「他に方法はないの、レオン?」
「力の強い俺の血を飲ませただけで、逆に飲ませた相手を支配してしまうんだ。へたに契約なんぞ、交わして見ろ、目も当てられん結果になるのは目に見えている。それでもやって見たければ、止めはせん。一応やり方は、憶えておいた方がいいだろうから、教えてやる。」
「うっ。」
ナミは、レオンのどうする目線に、固まった。
「一応、やり方は覚えておいた方が、いいと思うので、教えて下さい。でも実際にやるのは、止めておきます。」
レオンはホッと肩の力を抜いた。
「その方が、懸命だな。」
レオンは、半身を起していたナミを抱き寄せると、布団をかけた。
ナミはここ数日そうして寝ていたので、なんの疑問も抱かずに、レオンの胸で眠った。
『うっ、でも規格外だから、なんてメリーちゃんには説明出来ないよう。明日なんて言えば、いいだろう。』
変に悩むナミだった。




