16 イチゴづくし
ナミとメリー、それにジミーが話ていると、休憩所に一人の若い騎士が入ってきた。
騎士は、レオンとグレイが座っているテーブルに近づくと、素早く敬礼する。
「隊長、ただいま魔族の方々が、城に着いたとの連絡が入りました。
一時間後に、”青の間”にて、会談を開始したいとのことです。」
若い騎士の報告に、隊長と呼ばれた騎士は、レオンの顔を見た。
レオンは、軽くうなずく。
「時間になったら、俺が赤の国の方たちを案内すると伝えてくれ。」
伝令にきた騎士は敬礼すると、
「了解しました。」
休憩所を抜けて、戻っていった。
レオンはナミを見た。
『ナミ、お前はどうする?』
『メリーちゃんが、青の国を案内してくれるっていうから、ちょっといってくる。』
『かまわないが、無茶はするなよ。』
『無茶するような、場所はないよ、さすがに。』
『まあ、戦場じゃないし、大丈夫か。何かあれば念話しろ、ナミ。』
『うん、わかった。』
ナミは休憩所でレオンと別れると、護衛役のジミーとメリーに案内されて、城の外に出た。
外は赤の国とは違い、かなり寒い。
吐いた息が白くなって、立ち上る。
「大丈夫、ナミちゃん。青の国は、赤の国と違って、だいぶ寒いでしょ。」
メリーがナミを気遣い、声をかけた。
「大丈夫だよ。確かに寒いけど、メリーちゃんに、会えたんだもの、そんなこと気にならないよ。」
「そうだね。じゃ、ナミちゃんに、とっておきを早く見せたいんで、ついて来て。」
「とっておき?」
メリーはナミの手を引くと、城下の街のはずれに向かって、歩き出した。
ナミは首を傾げながらも、メリーについていく。
ジミーも後ろから、歩いて来る。
三人は、城の坂を下り、街中を抜け、郊外の寂れた道に出た。
「メリーちゃん?」
「任しといて、ナミちゃん。」
メリーは寂れた道の先にある、何か大きな建物に向かって歩いていく。
近づくにつれ、ガラスで囲まれた、大きな建物だとわかった。
よく見ると、周りには、たくさんのクリスタルが輝いていた。
「すっごい、なんだかとってもきれい。」
「うふふふ、これだけじゃないよ。ナミちゃん。」
メリーちゃんが手を引いて、建物の中に、案内してくれた。
建物の中は、光にあふれ、そして、なぜか外と違って、暖かかった。
ジミーは、建物に入ると、休憩所があるところで待っていると言うと、途中で別れた。
二人は、そのまま奥に進む。
奥に進むにつれ、建物内の温度が、どんどん上昇していく。
「えっ、なんでこんなに暖かいの?」
「さっき、外で光ってたクリスタルで、熱を集めて、建物の中を温めてるんだ。」
メリーはそう言いながら、建物の一番奥のドアを開けた。
「ウソー。」
ナミは建物最奥の風景に思わず、感嘆の叫び声を上げた。
「これって、メリーちゃん・・・。」
メリーは得意満面で頷いた。
「そっ、これぜーんぶイチゴだよ、ナミちゃん。それと、前もって、農園の人に許可貰ったから、ここにあるイチゴぜーんぶ、なんと食べ放題です。」
「う・・う・・うれしい。メリーちゃん、最高!!!」
ナミは隣にいた、メリーちゃんに抱き付いた。
メリーちゃんは、ドア傍に置いてあった、小皿をナミに渡す。
「メリーちゃん、これは?」
「甘ーい、青の国特産シロップでーす。」
ナミは、小皿のシロップを舐めて見た。
『うん、確かに甘くて、おいしい。』
「さっ、ナミちゃん、さっそく、イチゴ狩りしよう。」
「うん。」
二人は、手前から順に、イチゴを食べながら、奥に進んだ。
「「うーん、おいしーい。」」
かなり満腹になったところで、部屋を出て、隣に併設されている休憩所で、ジミーと落ち合う。
二人は、ジミーが待っている横で、またもや、イチゴジュースを飲みながら、話始めた。
「ねえ、メリーちゃん。青の国では、どうしてるの。」
「うん、お父さんのお母さん、つまり私から見ると、おばあ様の家で修行してる。」
「修行って、いったい、なんの修行をしているの?」
「私も、実際、青の国に来るまで、知らなかったんだけど。お父さんどうやら、お母さんと結婚したくて、混血児村に駆け落ちしちゃったみたいなの。」
「えー、そうなの?」
「うん、それで、お父さんが亡くなったことを知ったおばあ様が、どうやらひどく後悔して、成り行きで、おばあ様の所で、一緒に住むことになったんだ。」
「へえー、そんなことがあったんだ。」
「それで、お父さんの実家って、騎士の家系らしくて、今、剣の特訓中です。
一応、お母さんには、習っていたんだけど、いざ本格的にやると、まだまだ見たいで、けっこう大変かな。
でも、ナミちゃんと一緒に、混血児村再建の夢もあるし、私かんばるね、ナミちゃん。
でっ、ナミちゃんの方はどう?」
「私の方は、魔法と剣の修行、それにメリーちゃんも知ってる、ブルさんに、何故か料理も教わることになっちゃって、目が回るくらいの忙しさで、今にも過労で死にそうです。」
ナミは両手を上げた。
メリーは、あまりのナミの状況に大笑いする。
ナミもつられて笑い転げた。
こんなに笑ったのって、両親が死んでから本当に久しぶりだ。
やっぱり、昔っからの友達っていいなぁ。
ナミがそう思っていると、レオンから念話が入った。
『ナミ、どこにいる?』
『まだ、メリーちゃんとイチゴ農園にいるよ。』
『こっちは、会談が終わったところだ。親善試合もあるし、あと二日は、こっちに滞在する。ナミはどうする?』
『なら、もうちょっと、メリーちゃんと話してから、そっちに戻るよ。』
『わかった。ゆっくり、楽しんで来い。』
『ありがとう、レオン。』
「ナミちゃん、急にどうしたの、黙りこくって。」
メリーが心配して、ナミに話しかけていたようだ。
「ごめん、今レオンと念話してたから。」
「念話?」
「うん、頭の中で、相手に伝えたいって、考えるだけで、会話出来るの。」
メリーは顔を輝かせた。
「すっごい、そんな事出来るの。じゃ、私とも出来る、ナミちゃん。」
「うーん、どうだろ、わかんない。今度、レオンに聞いて見るね。」
「そうして。そしたら、ナミちゃんが、こっちに来れなくても、話が出来るでしょ。」
「確かにそうだね。メリーちゃんとそんなことが出来るかどうか、わからないけど、出来ればすごいよね。さっそく、戻った時、聞いてみるよ。」
ナミは、その後、護衛のジミーを従えたメリーとイチゴ農園を出て、街に戻った。
メリーは、ナミを街の洋服や出店が建ち並ぶ通りに案内した。
「ナミちゃん、こっち。私がここ最近、お気に入りの小物店があるんだ。」
ナミはメリーに連れられ、可愛い小物がたくさん並ぶ、お店に入った。
「すっごい。かわいいものばっかり。」
ナミは、思わずキョロキョロと見て回る。
「ナミちゃん、これ一緒に買わない?」
メリーちゃんが、おそろいのペンダントを指差した。
隣にいるジミーが、そのペンダントの意味に気がついて、嫉妬心いっぱいの目で、ナミを睨んでいる。
「これって、こうすると、一つのペンダントになるんだ。」
確かに対になっているが、どう見てもこれは、恋人同士が着けるものに見える。
なんたって、一つになる時の形が、ハート形だ。
「えっと、メリーちゃん、これどう見ても、ハート形で、恋人同士用に見えるんだけど。」
ジミーもメリーの後ろで、頷いている。
たまに思うけど、メリーちゃんは時々、愛だの恋だの関係が、本当に疎い。
ナミはジミーの視線を気にしながらも、メリーちゃんの機嫌を損ねないような、友達でも出来るものを捜す。
よく見ると、そのすぐ隣に、星型が二重になったペンダントがあった。
「これなんか、どう?」
「えっ、これ?」
メリーちゃんが、それを手に取ると、店のマスターらしき人が来て、隣で説明してくれる。
「おや、お目が高いね、お嬢さん。それは最近、魔国で流行り出した。ダブルペアー用ペンダントですよ。」
「「ダブルペアー用ペンダント?」」
聞いたことのない、言葉にナミとメリーは、同時に質問していた。
「簡単に言うと、とても親しい親子とか、兄弟、姉妹の夫婦もしくは恋人同士が、四人おそろいでつけるペンダントです。」
意味合いは、四人がおそろいでつけるので、それだけ仲がいいことを示すものらしく、最近、流行し出したそうだ。
なるほど、これなら、さっきのペンダントより、抵抗なくつけられそうだ。
「メリーちゃん、これにしようよ。」
ジミーは、メリーの後ろで頷いている。
でも、ナミの言葉に、メリーは難色を示した。
「えっ、でもハート形の方が、かわいいし。」
「でも、こっちなら、メリーちゃんに恋人が出来た時にも、そのままつけられるよ。その方がずっと仲良くしてるって、感じでいいじゃない。」
メリーがナミの”ずっと仲良く”の言葉に、目を輝かせる。
ジミーは、”メリーちゃんに恋人”の言葉に目を輝かせた。
「うん、俺もそれが良いと思う。」
すかさず、ジミーはそれをメリーに渡される場面を思い浮かべて、我欲交じりに熱心に勧める。
「そうかな。」
メリーちゃんは少し考えていると、突然ひらめいたように、顔を上げた。
「えっ、ということは。ナミちゃんに恋人が出来た時は、ナミちゃんの恋人と私の恋人の四人が、一緒に同じペンダントを着けるってことで・・・。うん。それはなんだか、二人だけより、素敵かも。」
『ごめん、メリーちゃん。メリーちゃんは、とってもきれいだから、すぐに恋人が出来るかもしれないけど、私はきっと、ダメかも。でも、同性同士でハート型のペンダントを身に着けるよりいいし、えーい、ままよ。』
「「これください。」」
二人は同時に、店主にそれを差し出していた。
店主はにっこりすると、それを代金と引き換えに渡してくれた。
メリーちゃんの勧めもあり、二人はペンダントを包まずに、すぐに身に着けると、店を後にした。
ジミーはもの言いたげな目線で、メリーのペンダントを見ている。
『ジミー、いまだにメリーちゃんに、告白してないんだ。』
ナミは、考え深げに、ジミーを見た。
「さて、次は、どうする?」
ナミは、メリーちゃんにこっそり、下着と洋服が売っているお店を聞いた。
「なんで、下着なの、ナミちゃん?」
ジミーがいるので、小声で話をしたのに、メリーちゃんは、それをまるっと無視すると、普通にナミに聞いてきた。
ジミーはメリーちゃんから発せられた”下着”の単語に、頬を赤らめている。
最初は、気にしていたナミだったが、ジミーの存在自体を、まるっと忘れているメリーに、馬鹿らしくなって、ナミも気を使うことを止めた。
「えっとね。飛行はすぐに憶えたんで、混血児村に洋服を取りに行こうと思ってたんだ。けど、なんやかんやと、けっこう忙しくて、気がつくと、毎日数枚の下着を洗っては干しで、けっこう大変で。今回は、いい機会だから、足りない洋服を、こっちで買って帰ろうと思って。」
「なるほどね。で、予算は、ナミちゃん。」
「えっと、ここに来る前に、レオンからあらかじめ、お金を渡されたから、結構お金持ちだよ。」
『実は、なにを考えているのか、レオンから最初は、金貨を30枚も渡されそうになったのだ。それを、私は大慌てで、銀貨3枚に変えてもらった。レオンには、なんで銀貨なんだと言われたが、逆に私にして見れば、なんで金貨30枚も必要なのか理解できない。
レオンに言わせると、女は普通、買い物に、最低金貨30枚は必要だろう、と言われた日には、どんなやつとこいつは、付き合っているんだと、思わず目を疑ってしまった。
結局、最終的に、必要になれば、必ずレオンに申告するからと言うことで、なんとか宥め、銀貨にしてもらった。どんだけ浪費家と思われているんだ、私は。いや、違うか。今までレオンが、付き合った女が悪いのか。』
ナミは考えごとをしていたせいか、道を間違えそうになり、メリーに注意された。
「ナミちゃん、道、こっちだよ。」
「ありがと、メリーちゃん。」
二人は、高級ランジェリーショップに向かった。
ジミーが店前に着くと、さすがに外で待機していると言った。
「なんで寒いから、中で待ってれば?」
メリーは、変なことを気にして、ジミーを店内に誘っている。
ジミーがナミに、捨てられそうな子犬の目で訴えた。
『ナミ、助けてくれ!!!』
ナミは溜息をつくと、
「メリーちゃん、ジミーがいない方が、ゆっくり、選べるから行こう。」
ナミの誘いに、メリーはあっさり頷くと、躊躇なくジミーを置いて中に入る。
さっきの熱心さは何だったんだと、一瞬ナミは考えた。
が、こういう時のメリーの心境は、絶対にナミには、理解できないので、早々と考えることを放棄して、さっさと店内に入る。
店内には、かわいいヒラヒラしたレースの下着が、いっぱい並んでいた。
メリーも思わず魅入っている。
「本当はナミちゃんのものを、一緒に選ぼうと思ってたんだけど、なんだか私も、ほしくなって、きちゃった。」
「わかる。わかる。じゃ、別れて選ぼうよ。最後の会計の時に、見せ合うっていうのは、どう?」
ナミの提案に、メリーも嬉しそうに頷くと、二人は別れて、買い物を始めた。
ナミはいいと思うものを、サッサと選ぶと、カゴに入れていく。
見ると、メリーは、逆に、じっくり手に取って、悩んでいるようだ。
ナミはメリーをよそに、自分のものを早々と決めると、ちょうどいいやと、ブルのお土産用に、下着を選んだ。
『ブルの趣味は、ヒラヒラしたレースいっぱいのものだ。この間いった赤の国では、あまり見かけなかった。ここはまさにブルさんの好み、ど真ん中だろう。』
ナミは店内で一番フリルいっぱいの可愛いものを選ぶと、会計に向かう。
ちょうど、メリーも選び終わったようで、ナミの買い物カゴを覗く。
「あれ、ナミちゃん、これすっごく、かわいいね。」
「そうでしょ、ブルさんのお土産用に買ったの。」
メリーは、にっこりすると、きらっと瞳を輝かせた。
「そうか、なら私も、それに追加していい。」
メリーちゃんは、ブルのお土産用に選んだ、上下の上に羽織る、薄いレースのランジェリーを、持って来た。
「これを組み合わせると、こうなるんだ。」
メリーちゃんが、ブラとパンティの上に、薄いレースをマッチさせると、なんとも妖艶で、色気漂う1セットとなった。
『ウーン、なんだか違う意味合いが、強いものになった気がするけど、イヤなら、着なければいいんだし、お土産は、他にも買うから、大丈夫でしょう。』
ナミはそう考えて、ブルのお土産用は、メリーと代金を折半すると別梱包してもらう。
そして、お互いに自分のものを買って、店を出た。
ちなみに、お店を出る時、ナミの持っている大量の買い物袋を見て、メリーは、自分が買った下着の入った買い物袋を、渋るジミーに、有無を言わせず、待たせると、すぐに、袋を半分持ってくれた。
本当は魔法を使えば、そんな必要がないのだが、メリーの心遣いに、ナミは甘えることにした。
ジミーが、後ろからメリーちゃんが買った、下着の入った買い物袋を、両手いっぱいに、持ちながら、真っ赤な顔でついて来る。
帰り道に、二人はさっき買った、下着の好みを披露しあった。
「いっつも思うけど、ナミちゃんって、下着はシンプルなものが好きだよね。」
「それを言うなら、メリーちゃんは、ブルさんと一緒で、ヒラヒラ系が好きなんじゃない。」
「うん、確かにそうかも。レースいっぱいとかが、結構好きかな。」
さらに、前で、二人がそんな会話をするものだから、ジミーの顔は、さらに赤くなった。
かわいそうに、ナミがチラッ見すると、二人の会話に、ジミーが真っ赤になって、俯いてついてくる。
存在自体、無視されているジミーのそんな様子を、メリーはまったく気づいていなかった。
ナミは、ジミーのそんな無視られっぷりに、なんだか哀れさを感じてしまった。
『早く勇気を出して、告白しないと、メリーちゃんモテるから、誰かにさらわれちゃうよ。』
ナミはそんな事を思ったが、メリーに違う話題を振られ、そのうちナミも、ジミーの存在を忘れてしまった。




