13 ナミの寝顔
ナミは、ブルに教えられ、仕込みワイン用の紫炎ザクロの実を絞り出した。
絞るのは絞り機を使うとは言え、結構な重労働だ。
樽のほぼ7割になるまで、何度も絞り機に紫炎ザクロの実をセットして絞り出す。
絞り出した後に、攪拌機を使って混ぜ、そのまま樽に蓋をする。
「ご苦労様。一応これで、今日は終わり。後は明日の朝食用の仕込みね。」
ナミはブルからコメを渡された。
研いで、傍のかまどにセットする。
ブルが水加減を確認している。
「不合格。これでは水の量が多すぎる。」
ブルに水の量を少なくするように、指摘された。
ナミはもう一度、鍋を持ち上げて、量を調整し、かまどにセットした。
もう一度ブルが確認する。
「OK、今度は合格よ。今日はこれで終了。あとはレオン様用のワインを持って行ってちょうだい。」
そう言うと、ブルは小さいグラスに5種類のワインを注いだ。
「試飲して、選んで見て。」
ナミは右から順番に、不味いワインをなめてみた。
味は右から左に行くにしたがって、鉄さびの味が濃くなっているようだ。
この間なめさせられた味は、一番左側だ。
ナミは、結局わからず、ブルに降参だと両手を上げた。
ブルが解説してくれる。
レオンの疲れ具合で、決めろと言われた。
左に行くほど疲れが酷いときにいいらしい。
今日は、そんなに疲れていないだろうから、右から二番目くらいか?
そう思って、右から二番目のグラスをとろうとすると、訓練場から戻ってきたレオンが、ナミが持って行こうとしたワインを試飲した。
「もう少し濃い方がいい。」
レオンは左から二つ目のワインを指し示す。
なんでか、大分疲れているようだ。
ブルは頷くと、棚からかなり濃い目のワインを出した。
レオンはそれを受け取ると、ナミを小脇に抱え、寝室に向かった。
『あれ、何で私、レオンの小脇に抱えられて、寝室に向かっているの?』
気がつくと寝室のソファーに放り出されていた。
レオンはその隣に腰を下ろすと、ワインを飲み始める。
なんだか気だるい感じが、妙に色気があって、目が離せない。
『でも、なんでそんなに疲れているんだろう。今日は私の訓練と執務くらいしか、なかったはずなのに。
執務でなにか、大変なことでもあったのかなぁー。聞きたいけど、聞いてもいいのかなぁー。』
ナミが考え事をしていると、レオンが唐突に話し出した。
「ナミ、3日後に、青の国に行く。
ちょうど明日、ブルに備品の買い出しも頼んであるので、ナミも一緒に行って、防寒着を買ってこい。」
「うん、わかった。あのね、レオン。」
「なんだ?」
「あのー。今日何か疲れることでもあったの?」
「なんだ、急に。」
ナミはワインを見る。
「さっきブルさんに、濃いワインは疲れた時に、いいんだって聞いたから。」
レオンは自分が持っているワインを見た。
『確かに試飲した時、いつもより濃いワインのほうが美味しく感じた。
今日のナミとの訓練で、いつも以上に力を使ったためだろう。』
「もしかして、執務でなんか、大変なことでもあった。」
『こいつは、自分が俺を疲れさせたとは、考えないのか。なんだか悔しいから、ナミとの訓練で疲れたとは、言いたくないな。俺はなんでナミ相手にカッコをつけているんだ。』
レオンは少し可笑しくなって、手で髪をかきあげると、
「まあ、そんなところだ。ナミ、いつも通りに先に風呂を使え。俺はもう少しワインを飲んでから、シャワーを浴びる。」
「うん、ありがとう。そうするよ。」
ナミはそう言うと、いそいそと着替えを持つと、浴室に向かった。
程なくすると、浴室から歌が聞こえてくる。
レオンはナミのこの歌を結構気に入っていた。
全く聞いたことがないが、赤の国でよく聞く曲より、心地いい。
いつもナミが浴室に入ってから、流れてくる歌を聞きながら、ワインを飲むのが、最近のレオンの定番になりつつあった。
一方、ナミは、この頃、お風呂に入ると、なんだかうれしくなって、歌うのが癖になっていた。
曲は前世で好きだったものが大半だ。
今世の曲は、前世のクラッシィックのようで、嫌いじゃないが、ちょっと口ずさむには適さない。
なのでクラッシィック以外のポップスやロック、軽いカントリー曲などを歌う。
浴室は狭いので、自然とエコーがかかって、前世のカラオケボックスにいるような気分になれるのもいい。
ナミは一通り歌って、体を洗うと、ご機嫌でお風呂をでた。
寝室に戻ると、レオンがソファーでまだ、ワインを飲んでいた。
「空いたよ、レオン。」
ナミが声をかける。
「ああ、俺も入る。ナミ、先に寝てろ。」
レオンはそう言うと、ワインをテーブルに置くと、浴室に入って行った。
ナミはレオンの飲み終わったグラスとワインを、通路のワゴンに瞬間移動で戻すと、ソファーの上で毛布に包まる。
『うーん、今日は結構動いたから、あっという間に寝ちゃいそう。』
そう思った途端に、ナミはソファーの定位置で寝ていた。
レオンはシャワーを浴びて、真っ裸で寝室に戻る。
見ると、またもやソファーで、毛布に包まれて、熟睡しているナミを見つけた。
布団で寝ろと言ってあるのに、なんでこいつは、毎回毎回ソファーで寝ているんだ。
レオンは、ブチブチ言いながら、ナミをそっと抱き上げると、ベットに運ぶ。
そしてベッドに降ろして、そのまま、抱きかかえて横になった。
レオンが抱いて寝ると、ナミは必ず、自分の胸にすり寄ってくる。
それが、なんだかほほえましくて、たまらない。
レオンはひとしきり、ナミの寝顔を堪能すると、そのままナミを抱きかかえたまま、眠りに落ちた。
翌朝、ナミは、またもやベットで目が覚めた。
美麗なレオンの寝顔が自分の頭の上にあり、目の前には、よく鍛え上げられた、ハダカの胸が・・・。
『えーん。毎朝、これじゃ、神経がもたないよ。』
ナミは真っ赤になりながら、起き上がろうとした。
でもレオンの手が背中にあって、起き上れない。
『レオン、腕離して。レオン。』
「うーん、まだ早い寝ていろ。」
レオンはそう言うと、ナミを抱きかかえて、上に覆い被さって来た。
『うそ!!!レオンの美麗な顔がすぐ真横に・・・。それにハダカだなんて、なんでぇーーー。』
ナミの頭は真っ白になって、それから意識を飛ばして、ある意味、二度寝した。
「ナミ、おい、起きろナミ。」
ナミは耳元で叫ばれた自分の名前に目を開けた。
『あれっ、なんでここに寝てるんだっけ。』
「いい加減起きろ、ナミ。朝食を食べそこなうぞ。」
ナミはレオンに、耳元で怒鳴られ、ハッとした。
『ちょうしょく?』
そう言えば、今朝・・・。
ナミは空腹ではなく、今朝の出来事を思い出し、真っ赤になって、慌てて起き上がると、浴室に駆けこんだ。
思わず冷たい水で、顔を洗う。
お蔭で少し頬の赤みが冷め、目も覚める。
ナミは思いっきり両方の頬を叩くと、着替えて部屋に戻った。
気がつくと、部屋で待っていたレオンに横抱きにされ、食堂に運ばれている。
『あれ???なんで毎回、食事に行くときこうなるの。』
『ナミの歩くのが、遅すぎるからだ。』
レオンはそう言うと、食堂に向かって、スタスタと歩いていく。
食堂に着くと、城の兵士の視線がナミとレオンに集中する。
『なんか目立ってるよ、レオン。』
ナミはレオンに念話でもう目立つからやめてくれと懇願した。
『大丈夫だ、ナミ。最初だけだ、そのうち、みんな慣れる。』
レオンは全く気にしていないようだ。
でも慣れるということは、それが日常的になるということで、それはそれで、いやだーと叫ぶナミだった。




