12 魔法障壁
ナミは鳥の声で、目が覚めた。
『うーん、温かくて気持ちいい。でもなんだかゴツゴツして固い。かたい???』
ナミは慌てて、ベットから飛び起きようとして、レオンの腕に邪魔された。
『うるさいぞ、ナミ。トイレなら静かに行け。』
念話でレオンはそう言うと、腕を外してくれた。
ナミは、レオンの布団が肌蹴ないように、そろそろとベットから降りる。
ここで、最初の日みたいに、ガバッと起きれば、朝から心臓に良くない、レオンの全裸を見ることになる。
でもなんで、毎回、ソファーで丸まって寝てたはずなのに、朝起きると、レオンに抱きかかえられているんだろう。
もしかして夢遊病?
いやいやそんな。
ナミがベット脇で、そんな事を考えていると、目が覚めたレオンが、突然、全裸でベットから起き出した。
『のわっ、げっ、なんで、は・・・はだ・・・か。』
ナミは真っ赤になって、目をそらせずに、またもや凝視してしまった。
前世のアポロンもかくやという色っぽいヌードだ。
『男なのに美しいって、なんなんだぁーーーーーーーーー。』
浴室のドアに入る前に、レオンから念話が届いた。
『そんなに俺はきれいか?』
『げっ、漏れてた!!!』
朝の浴室から笑い声が響いてくる。
『うっ、くやしい。』
だいぶ力がコントロール出来るようになったナミだが、驚いたり、感情の起伏が、激しくなると、おもわず、思考がダダ漏れてしまう。
冷静沈着
冷静沈着
ミワは毎朝、ベット脇で唱えるのが、日課になりつつある。
そうこうしているうちに、レオンがシャワーを浴びて、部屋に戻ってきた。
ナミが一緒にいるので、一応浴室からズボンをはいて、出てきてくれる。
だが上半身は裸だ。
胸にかけたタオルが、妙に色っぽい。
「ナミ!」
ボケっとしていたら、レオンに呼びかけられた。
ナミは、慌てて、瞬間移動で、ワインとグラスをテーブルに出した。
レオンはそれを手に取ると、ゆっくり味わいながら飲む。
『うっ、なんであんなに様になるのよ。なんだか不公平さを感じてしまう。』
ぐるーーーきゅるるるるーーーーーーーーーーー。
ナミのお腹がなった。
レオンは溜息をつくと、上着を羽織、ナミを小脇に抱えて、食堂に向かった。
『レオン、自分で・・。』
『遅いから駄目だ。』
結局、降ろしてもらえず、ナミは昨日までとは打って変わって、吸血鬼の兵士でごったがえす食堂に運ばれた。
みんなの目線がレオンと、その小脇に抱えられているナミに向く。
『うっ、なんか視線が痛い。』
「ナミ、夕方から仕込みをするから、今日からその手伝いね。」
ブルがニッコリ笑って、ナミに宣言した。
「このフライパンに負けない腕前に、私が鍛えてあげるから、任せて。」
ブルがやる気満々に、力こぶを作って見せた。
『天国のかあさん、ナミは違う意味で、涙でいっぱいです。』
ナミは、苦笑いして、ブルが運んで来た朝食に、かぶりついた。
朝食後、ナミはレオンと剣の稽古をしていた。
剣など、前世で剣道をやって以来だ。
今世では、初めて手にする。
まだ、ナミの剣は修理中の為、こどもが練習用に使う、小さいサイズの模擬刀で、稽古することになった。
レオンからは、とりあえず実力が知りたいので、好きなように、斬りかかれと言われた。
かなり侮られているようだ。
これは、何がなんでも、一本とらなければ、気がすまない。
だが、さすが、歴戦の将軍だけあって、なかなか斬りかかる隙がない。
何か手を打たないと、時間だけが過ぎていくだけだ。
ナミはとりあえず、ジリジリと間合いを詰めた。
レオンは逆に、後先考えずに攻めてくるだろうと思っていたのに、以外に、慎重なナミに、内心びっくりしていた。
剣の構えも、今まで見たことがない変な構えなのに、不思議と隙がない。
二人は相対峙したまま、どちらからも動かない状態が、しばらく続いた。
周りの兵士も訓練を止めて、そんな二人を見つめている。
このまま硬直状態かと思っていたところに、何か外部から、連絡が入ったらしく、執事のクロウがレオンを呼びに来た。
レオンの意識が、一瞬、ナミからそれた。
ナミはその一瞬を逃さず、すかさず、レオンに一撃を放った。
『やった。』
ガーン パッキーン
何か異常に固いものに阻まれて、逆に剣が折れた。
『へっ、なんで?』
「魔法障壁だ。」
いつのまにか、傍に来ていたグレイが、説明してくれる。
「魔法障壁、なにそれ。」
そんなチートなものがあるなんて、聞いてない。
「魔法で作った透明な壁だ。」
グレイが説明しているうちに、話が終わったのか、レオンはグレイに剣を渡すと、
「用事が出来た。後はグレイに教われ、ナミ。」
レオンはそう言うと、執事のクロウを従えて、城に戻って行った。
「くやしい。これじゃ、なんだか、私が負けた見たいじゃない。」
グレイが折れた剣を拾うと、兵士を呼びつけて、新しい子供用の模擬刀を、取りに行かせた。
「その剣を見る限り、勝ったとは言えないと思うが。」
「うっ。」
確かに、剣が折れているのは、ナミの方なので、勝ったとはいえない。
でも、それもこれも、あの魔法障壁なるもののせいだ。
「ねえ、グレイ。あの魔法障壁って、どうやれば出来るの。」
この時、ナミの名前呼びに、城の兵士たちは動揺していた。
『今の見たか、あのグレイ様が名前を呼び捨てにされて、何も言ってないぞ。だれだあの小さい娘、なにものだ。』
グレイはナミの質問に、真面目に答えた。
「透明な見えない壁を想像するだけだ。」
なんとも的確な答えだ。
たしかに見た目は、透明な見えない壁だ。
ナミは透明な見えない壁を思い浮かべた。
グレイが魔力を感じで、こちらに振り向く。
振り向きざま、その壁を拳で殴った。
壁はその途端、粉々に砕け散った。
「強度不足だ。」
確かに、弱かったようだ。
今度は先程とは違い、透明なダイヤモンドのような壁を思い描いた。
グレイが先程と同じように、壁を殴る。
流石に、今度は割れない。
「ナミ、動いて見ろ。」
ナミは動こうとしたが、壁が重くて動けない。
「魔法障壁は、固くて薄いのが最低条件だ。自分で攻撃をしながら、逆に相手からの攻撃を防御するものだからな。」
兵士の一人が、子供用の模擬刀を持って来てくれた。
グレイはナミにそれを渡すと、
「それで、俺に一撃を加えてみろ。」
ナミは言われたように、力いっぱいグレイに向け、模擬刀を振り下ろす。
ガーン パッキーン
さっきと同じように、剣が折れた。
「ナミ、魔法障壁を張れ。」
グレイの声に、ナミは慌てて、障壁を創造し、自分の前方に張った。
今度はなるべく薄くて、硬いものを想像する。
硬度はダイヤモンドで、薄さはプラスチックだ。
これなら、軽くて強度も十分なはず。
グレイの剣が障壁に弾かれた。
でもグレイの剣は砕けない。
『なんで???』
「力任せに、剣を振るうばかりが、攻撃じゃない。剣が砕ければ、次の攻撃も出来ない。よく考えてから力加減をしろ。それと相手が障壁を張っているか、そうじゃないかも一瞬で判断する。それが戦場での、生死の分かれ目だ。」
グレイがそう言いながら、今度はナミの後ろに飛んだ。
ナミは慌てて、後ろに同じように障壁を張る。
グレイの剣が弾かれた。
「ここまで。初めてにしては、上出来だ、ナミ。」
ナミは荒い息を付きながら、障壁を解除した。
「ありがとうございました。」
前世の癖で、グレイに礼をする。
グレイは一瞬目を瞠ってから、にこりとすると、一息入れたら、今度は防御をしながらの、攻撃を練習する。
なにげに、次の訓練内容を告げると、グレイは他の兵士を鍛えに向かった。
見物していた兵士が慄いている。
『どんだけ、体力あるんだ、グレイって。』
ある意味ナミも驚いていた。
ナミは喉の渇きを覚えて、水を捜した。
それらしいものがない。
その時、城の侍女たちが、兵士に何かを渡していた。
水筒のようだ。
ナミもそれをもらいに近づくが、さりげなく無視される。
どうやらナミには、渡したくないようだ。
ナミは溜息を付いて、食堂に向かった。
ブルがお昼の準備に、奔走していた。
なにか多量に樽に果物を絞っている。
「ブルさん。」
ナミはブルに話しかけた。
「どうしたの?まだお昼は先でしょ。」
「あのー、喉乾いちゃって。」
「あれ、さっき侍女たちが飲み物持っていったけど、会わなかった?」
「えっと、会ったんだけど。そのー、もらえなくて。」
「もらえない?」
「なんかよくわからないけど、何飲みたいの?」
「そのお水が欲しいんですけど。」
「ただのみず?」
「はい、ただのみずです。できれば冷たいのが欲しいです。」
「へー、ハイブリットって、変なものばかり、欲しがるのね。」
ブルは感心すると、冷蔵庫から氷を取り出した。
水筒を出すと、それに氷を入れて、ナミに渡してくれる。
「そこの蛇口をひねると水が出るから、それに入れればいいわ。」
ナミは教えられた通り、蛇口をひねって、水筒に水を入れる。
たっぷり入れると、水筒の冷えた水をごくごくと飲んだ。
『ウーン。おいしい。』
「氷は冷蔵庫にまだあるから、明日は朝食後、水筒に入れて、持って行けばいいわ。今日は少し熱いし、好きなだけ氷を入れて持っていきなさい。」
「ありがとうございます、ブルさん。」
ブルは前世で言う、ブルドックそっくりの愛嬌ある笑いを振りまくと、先程の作業に戻っていった。
ナミはもう一杯飲んでから、教えられた通り、氷を足して、水を入れると、それを持って訓練場に戻った。
「遅いぞ、ナミ。何をしていた。」
レオンが剣を持って、待っていた。
「あれ、執務はもういいの、レオン。」
グレイに引き続き、名前呼びを許している将軍を見て、城の兵士は驚嘆していた。
『あの娘、ほんとうに何者だ。もしかして、将軍の隠し子かなんかか?』
兵士たちが、周りで喚いている。
「用事はもう済んだ。さっきグレイに聞いた。今度は防御と攻撃の訓練だな。」
「うん。」
「ではまずは、防御だ。」
「ちょっ、ちょっと待って。」
ナミは水筒を自分が丸裸にした木の所に置くと、子供用の模擬刀を持って、レオンに所に向かった。
「ではいくぞ。」
レオンが、ナミの障壁に向かって、剣を振り下ろした。
グレイの時と同じで、剣は砕けない。
「ナミ、今度は、俺に攻撃してみろ。」
ナミはレオンに向かって、剣を振り下ろした。
今度はさっきグレイに教わった通り、レオンの周りの魔法障壁を見た。
薄い幕のような魔法のエネルギーを感じる。
ナミは剣を力だけでなく、自分のエネルギーも込めて、その障壁に打ち下ろした。
パリーン
軽い音と共に、魔法障壁が砕けた。
『やったぁー。今度は剣が砕けなかった。』
レオンは思わず、驚愕していた。
『俺の魔法障壁を砕いたのか。なんて小娘だ。それも何もまだ教えてないのに、剣に自分のエネルギーを纏わせている。まったく、この小娘は規格外だ。』
レオンはニヤリと笑うと、今度は、自分も剣にエネルギーを纏わせて、ナミの魔法障壁に打ち下ろした。
ナミの魔法障壁が砕け散った。
パリーン
『えっ、そんなぁー。くやしーい。』
『お互い様だ。』
レオンが念話で答えた。
二人はそれを皮切りに、防御をしては、お互いの剣で、その壁を交互に叩き割る。
グレイは二人の訓練を城の兵士とは、違う目線で眺めていた。
特に、ナミの成長の速さにだ。
今までグレイでも、レオンのあれほどの強度のある壁を、叩き割るのは、並大抵のエネルギーでは出来なかった。
それをナミはいとも簡単にやってのけている。
そればかりではない。
さきほどグレイと訓練して、初めて、魔法障壁を作ったばかりなのに、レオンに叩き割られるたびに、その強度がだんだん増している。
レオンも同じように、強度を増しているようだが、経験値で言えば、レオンは歴戦の戦士で、ナミは本当のど素人だ。
有り余ったエネルギーがなければ、こうはいくまい。
末恐ろしい限りだ。
グレイが見ていると、だんだんナミも、疲れてきたようだ。
最後は、レオンが作り出した、魔法障壁をナミが破れず、レオンが勝利した。
「くやしーい。」
ナミが地団駄踏んで、悔しがっている。
レオンは逆に偉そうに、ナミに指導していた。
でもグレイが見た所、レオンも、今の魔法障壁の強度が、ギリギリいっぱいのようだ。
たぶん今日の夕方は、魔法障壁の訓練で、レオンに呼び出されるだろう。
グレイは二人の訓練風景を見て、溜息をついた。
二人は、昼食を済ませ、同じ訓練を繰り返した後、夕食に向かった。
夕食後、ナミは、ブルにみっちり料理を仕込まれていた。
主に朝の仕込みと、料理のコツについてだ。
グレイの予測通り、レオンに訓練場に連れ出され、魔法障壁の訓練に、さんざん付き合わされた。
『どう思う、グレイ。』
『俺に言わせれば、驚異的の一言です。』
『確かにな。他の兵士では、ナミの訓練に付き合えると思うか?』
『あのエネルギー量では無理でしょうね。下手に訓練につきあえば、大けがします。本人に手加減ができるようなら、大丈夫でしょうが、まだそこまで出来るとは思えません。』
『確かに。当分、俺かグレイが交代で青の国への出発まで、訓練する。いいな。』
『畏まりました。』
しばらく、二人は打ち合った後、訓練場を後にした。




