11 瞬間移動
ナミは、瞬間移動の練習をさらに進めた。
同じように、洋服を着たままの自分を思い描いてから、体を浮かせ、目前の壁をイメージする。
シュツ
その後に、実際に瞬間移動する。
今度は、下着+ズボンを穿いていた。
少しずつ、前進している。
ナミは反対側に、積み重なっている洋服を着るために、歩いて行こうとしてハッとした。
ここはもう一度、瞬間移動すれば、わざわざ取りに行かなくても、済むはず。
ナミは、洋服を着たままの自分を想像し、体を浮かせ、目の前に、瞬間移動した。
思いがけないことがおこった。
なんと今度は、脱げてしまったはずの洋服を、しっかり着ていたのだ。
『えっと、どういうこと? なんで着てなかったのに、着てるの?えっと・・・???・・・。』
ナミの頭は疑問符でいっぱいになった。
「もうやだ、疲れた。休憩しよう。」
ナミは瞬間移動の訓練を止めると、体を浮かせて、フラフラとソファーに移動する。
ちょうどそこへ、執務が一段落したレオンが、ケーキを持って、部屋に入って来た。
「すごいじゃないか、ナミ。飛行訓練が、上手くいっているようだな。」
「えっ、飛行訓練?」
『あっ、そうか。飛行って体を浮かせて、早く飛ぶだけか。
じゃ、知らないうちに、出来てたってこと。
このまま、浮く高さを変えて、もっと早く動けば、もしかして、飛行するのと、変わらない。』
ナミはソファーに座ると、レオンにお礼を言って、素早く、テーブルに置かれたケーキを、口に入れた。
口の中で、さっくりとした生地の食感と甘ーいクリームがとけて、ものすごくおいしい。
「しあわせ。」
「安上がりなことだ。」
レオンは、棚に移動して、ワインをとろうとした。
ぼやぁーと、その姿を見ていたナミは、無意識にワインがテーブルにのっている姿を、イメージしてしまう。
途端に、レオンの目の前で、いきなり棚からワインが消えた。
レオンが驚いて振り向くと、テーブル上にワインがある。
「ナミ!」
「あっ、ごめん、レオン。」
勝手に、瞬間移動を使って、怒られると覚悟したナミが、首を竦める。
レオンは、棚からグラスをとると、ナミがケーキを食べている隣に腰を下ろした。
「どうせ移動させるなら、グラスも移動させろ。」
「えっ。」
怒られると思っていたのに、意外なことを言われ、びっくりする。
思わず、レオンをまじまじと、見てしまった。
「俺の前なら、瞬間移動を使ってもかまわん。だが、他の吸血鬼の前では、するなよ。」
レオンは、そう言うと、グラスにワインを注ぐと、飲みほした。
「わかった。」
ナミは素直に頷いた。
「ナミ。飛行訓練も、力の制御も順調だから、明日から剣の稽古も追加する。」
「あっ、剣って言えば、とうさんの剣!」
ナミはこの時、やっと自分がとうさんの剣も、かあさんのフライパンも、どこかに置き去りにしたのに、気がついた。
「剣なら、今、武器屋が研ぎ直してる。ちなみに、あれは名剣だそうだ。」
「えっ、あの剣って、そんなに、すごいものなの?」
「そうらしい。なので武器屋のダルマ曰く、ナミの剣の腕がまともになるまで、渡さんとのことだ。」
「そんなぁーー。」
「まあ、せいぜい精進するんだな。」
「じゃ、フライパンは、まさか!!!」
「ああ、フライパンか。あれならブルが、修理して今、食堂で使ってるそうだ。
こっちもナミの料理の腕が上がらないうちは、返さんといってたな。」
『なんで、そうなるの!!!』
「ナミも明日から忙しくなるな。剣の修行と料理の練習と。」
レオンは意地悪く笑うと、グラスを置き、立ち上がる。
「レオン?」
「まだ執務が残っているので行くが、もう少し、素早く飛行出来るようにしろ、ナミ。」
レオンはそれだけ言うと、部屋を出て行った。
「うっ、なんかドツボに、はまっていく。」
ナミは、仕方なしに、瞬間移動と飛行訓練を、夕食の時間まで、交互に練習した。
ぐうぅーーーーーーーーーきゅるるるるーーーーーーーーーーー。
「ふぅ。」
なんとか飛行訓練は、意識を変えただけで、だいぶ良くなった。
瞬間移動は、下着は100%着て、移動できるが、洋服までとなると、三回に一回しか成功しない。
ちなみに、さっき偶然できた物質の瞬間移動は、一度見たことがあるものなら、100%思った所に移動出来る。
物質の瞬間移動は、完璧だ。
今回は小物ばかりだっだが、次回はどのくらい、大きな物まで、瞬間移動出来るか、どこかで試してみたい。
今度レオンに相談してみよう。
ナミは、ここまで考えると、空腹に逆らえず、食堂に移動した。
練習のために、通路を飛行して、食堂まで行く。
途中、曲がり角で、レオンに出くわした。
「おわっ。」
レオンは、咄嗟に避けてくれた。
結構な速度で、飛行していたので、衝突していたら、かなり危なかった。
「ナミ。」
レオンの声が低く響く。
『やばい、かなり怒ってる。』
「えっとぉ。」
ナミは、なにか言い訳をしようとしたが、こういう時に限って、なかなか言葉が浮かんでこない。
レオンは息を吐くと、浮いているナミの腰を捉えて、小脇に抱え、食堂まで歩きはじめる。
もちろん小言つきだ。
「ナミ、飛行は完璧だから、もう城の中で飛行訓練はするな。わかったな。」
ナミは、首を縦に振った。
『了解。』
『よろしい。』
『じゃ、もう降ろして。』
「歩くと、お前は遅いから駄目だ。」
レオンにダメ出しされ、ナミは食堂に、そのまま運ばれる。
なんだか、食堂に行くときの通常移動が、これになりつつある。
これはいかん。
なんとかせねば。
だが、なんとかなるのかなぁーー。
「ナミちゃん。」
さきに食堂で、食事を始めていたメリーが、声をかけてくれた。
「メリーちゃん。」
レオンがやっと、降ろしてくれたので、ナミはメリーの隣に座った。
レオンは、グレイの前に腰を下ろす。
すかさず、執事のクロウが流れるような動作で、ワインをレオンの前に差し出した。
さすが、執事。
タイミングが絶妙だ。
レオンは何も言わずに、グラスのワインを飲む。
ナミの前には、ブルがおいしそうな豪華料理と、メリーの前にもあるイチゴジュースを、持って来てくれた。
「今日がナミちゃんと食べる、最後の料理になりそうだから、さっき頼んだの。」
「えっ?」
「明日、人狼国の人たちが着くから、お昼には、一緒に青の国に行くね。」
メリーの顔が、いくらか涙ぐんでいる。
「そういえば、ナミちゃん、飛行訓練は順調?」
「うん。だいぶ上手になったから、明日にでも遊びに行けるよ。」
調子の良いナミの言い分に、レオンが意を唱えた。
「ナミ、青の国と赤の国が、どれくらい離れているのか、知っているのか?」
レオンの質問にナミは呻いた。
「うっ」
レオンは溜息を付くと、詳細に距離を説明する。
「この間行った、混血村の約3倍の距離だ。それと追加するが、これから冬に入る。
ここより北にあるから、かなり寒い。行くなら防寒の準備をしてから行け、ナミ。」
「えっ、じゃ、行ってもいいの?」
レオンの以外な申し出に、ナミはニコニコしながら、再度確認した。
「ちょうど、一週間後に、青の国で異種族会議が開かれる予定だから、ナミも一緒にいけばいい。」
「それじゃ。」
二人は手を取り合って、喜んだ。
「「じゃ、一週間後ね。」」
二人はそれからイチゴジュースで乾杯した。
チュンチュンチュンチュン
チュンチュンチュンチュン
「今日も晴れ渡ったいい天気だ。」
翌朝早く、青の国の兵士とこの城の兵士が、一緒に混血村からレオンの城に戻ってきた。
「「「「「将軍、遅くなりました。」」」」」
両国それぞれの隊長と副隊長がレオンに混血村での生き残り数と、今の現状を報告する。
混血村で生き残った人数は、ナミたちが行った時の10人のままで、現在そのものたちは、兵士に見送られ、それぞれの種族の国で保護されているそうだ。
結局首都でもない村なので、人もいなくなり、廃村決定となった。
「「そんな。」」
ナミとメリーは二人ともショックで棒立ちとなった。
考えてみれば当たり前だが、やはり平和に暮らすためには、そのための力が必要だ。
二人は改めて、頷き合った。
「「近い将来、混血村に戻って、必ず村を復興しよう。」」
メリーとナミは腕を組んで誓い合う。
その後メリーは、報告が終わって、青の国に戻る兵士と一緒に出発した。
ナミは一行の姿が見えなくなっても、しばらく、そこに佇んでいた。
『メリーちゃん、必ず村を復興しようね。』




