卒業課題提出済
寒ぃ体育館に大量に並べられたパイプ椅子に座り、それぞれの想いを胸に抱きつつ、理事長の話を聞く一同。
「…だりぃ」
「感傷も何もあったもんじゃねぇ発言だなオイ」
「いやいやいや、送られる身としてでもこう…話がつまらないとなぁ……大体お前、この理事長の言葉聞いて、泣けるか?」
「泣けるわけねぇだろ」
「これで泣いてる奴の気がしれねぇなぁ」
「まったくだ」
「……君らホントに卒業生?」
右隣りから呆れたように級長が小声で話し掛けてきた。
「残念ながら今日無事に卒業する生徒ですが。なー? ソーマ?」
「なー、イオー」
左隣りに座ってるソーマに同意を求めれば、ノリ良く返してくれた。
……無表情だけど。うん、こりゃソーマ寝るな。
「まぁ無事卒業出来るのは嬉しい事だけど、せめて最後だけは話聞いてあげなよ」
「うぃー」
「………」
「あ、ソーマ寝た」
「言ってるそばからですか」
「だってソーマだし」
「……うん、良く分かるよ」
でも次は式歌だから起こしてやらねぇとな。
というかその前に理事長の話終わったら起立だから。一人だけ座ってるとか恥ずかしい状態になるよ。
「…ソーマ、先に歌うの何だっけ」
「………仰げば尊し? ……うぁ、ねむ…」
「式歌終われば終わりだから頑張れよ。……つか俺、結局歌覚えきれなかったわ」
「一番だけ歌っとけ」
「一番も危うい」
「じゃあ口パク」
「了解」
「……前の方に拡大して貼ってある歌詞があるから、それ見て歌いなよ」
またしても級長に呆れ返ったように言われてしまった。
とりあえず言われた通りに前の方を見ると、でっかい紙が貼られてた。
「……あぁ、昨日だか級長が図書室で、なんかわたわたしながら拡大コピーしてたヤツか」
「………何で伊織君が知ってるの」
「んだよ、俺が図書室いちゃあ悪いか」
「俺とイチャイチャしてたンだよ、イオは」
「………相馬君はまだ寝てたりするの」
「起きてるっつーの」
「…………もしかしてあの物音」
「「俺らだけど」」
「…イチャつくなら帰ってからやってよ」
「だって図書室あったけぇし」
「もしかして級長、あの物音にびびってわたわたしてたんか?」
「……だって先生が誰もいないって言ってたのに」
「うーわー…級長かーわーいーいー」
「小動物ー」
「ほっとい『起立』
明らか周りより遅れて起立した俺ら3人。
舞台に居る理事長の視線が超いたーい。
「「あーやっと終わったー」」
「………もう僕、君たちになんて言えばいいんだろう」
「「おめでとう?」」
「……君たちはもう一年くらい高校生やった方がいいと思う」
後輩達の拍手に見送られ、体育館の外に出て早々とりあえず欠伸。
そんな俺を視界に入れてしまった級長は、呆れ顔で首を横に振った。
あ、ソーマも欠伸してる。
「つかソーマお前、式歌ん時アレ鼻歌だっただろ」
「フフーン・フフーン、フ・フーンフンフンー」
「……僕が用意した拡大歌詞は見なかったの?」
「俺目ぇ悪ぃから、折角級長がわたわたしながら拡大コピーしてくれたアレ、よく見えなかったンだよ」
「もうそのネタぶり返さないでくれる?」
「級長ってば心せまーい」
「そんなんだから彼女出来ねぇンだよ」
「ほっといてくれるっ!?」
顔を真っ赤にしながら騒ぐ級長を、ソーマと笑いながら宥めつつ教室に戻る。
いつも遅刻ギリギリになりながらかけ上がった4階までの階段(そもそもなんで1学年上がるごとに階も上がるんだよ、フツー逆だろ、若い1年の方が4階だろ)を上がるのも、最後なんだなァと柄にもなく感傷的になってみたり。
「そういえばイオ、いつも遅刻ギリギリだったよな。「この教室が4階にあるのが悪い!」とか言って」
「おーい人の事言えますかー? ソーマもいつも俺の後ろをかけ上がってただろぉー?」
「お前って良いケツしてるよな」
「俺のケツ目当てか」
「…お願いだから発言に気をつけて、二人とも」
どうやら俺達には、感傷的なんて言葉は似合わないらしい。
◇◇◇◇
教室に戻ると、3年間お世話になった担任が号泣しながら最後のHRを始めた。
そして最後に一人ずつ担任の前に呼ばれて卒業証書を貰い、何故か手を握り締められた。
おいおいセンセー、俺の前の奴は片手で握手だったのに何故に俺は両手でがっしり?相変わらず号泣だし。
「……っ、伊織、本当にお前はバカでどうしようもない奴で、本当は卒業なんてさせたくないんだがな…っ!」
「センセーったらそんなに俺の事好きなのー?」
「センセー、イオは俺のだからやらねェよ?」
「相馬! 言っとくがお前も本当は留年しても良かったんだぞ! …ほんっとにお前ら二人はこの3年間先生をストレスでハゲさせる勢いで迷惑かけやがって…っ! 大体なんだあの卒業課題! 二人してふざけたこと書きやがって! 職員室に居た先生達に爆笑されたんだぞ!」
「「つーかもともとハゲてたじゃん、センセー」」
「い、伊織君も相馬君もその辺にしといてあげて…」
顔を真っ赤にしながら(ついでに泣きながら)怒る担任は、この3年間よく見た光景で(そして級長が俺達を止めて、クラスメイト達は爆笑だ)
最後の最後までいつも通りで終わることに、俺もソーマも一緒になって笑う。
HRが終わり、教室内はみんなそれぞれ別れを告げてる中、俺はソーマと昼は何食って帰るかと相談しながら鞄を掴み、騒がしい教室を出ようとした。
「イオ何食いてぇ?」
「俺金無ぇんだよなー…。ソーマが奢ってくれるなら、どっかファミレスとか」
「…しょうがねぇな」
「ソーマ君ったら太っ腹!」
「伊織君っ相馬君!」
廊下に出たところで、教室から慌てて級長が飛び出してきた。
「おう級長、今日もお疲れ!」
「良いのか? 級長、アイツらと写真撮ってる途中じゃなかったのか?」
「うわっモテモテじゃん級長、男に!」
「ほっといてくれるっ!? あ、…いや、というか…」
半分泣きそうな顔の級長に、俺達は顔を見合わせて小さく噴き出すと、二人同時に級長の頭をわしわしと撫で回す。
「え、えっ」
「じゃあな級長」
「またな!」
笑いながらそう言ってやれば、泣きそうだった級長もいつも俺達に向けていたあの苦笑を浮かべてくれた。
「うん……またね」
え、俺達の卒業課題?
そんなの有意義な青春を送ったかどうかを提出してやればイイ!
原稿用紙にたった一言。
『トモダチとコイビト出来ました!』ってな。