1 始業式5
遊城は俺達の目の前に立っていた。
そしてその薄い桜色の唇からはっきりとした声で言葉を紡ぐ。
「何すんだよ、じゃ無いわ。その薄ら寒い展開止めて貰える?」
「「は?」」
俺と一条の声が見事に揃ってしまう。言っている意味が分からなかったのだ。
「自分達でやってて気づいていないの?そうとう頭が悪いわね。貴方達がやってるのってまんま学園スポーツ漫画のテンプレートそのままじゃない。もはやコントにしか見えないわ。」
「いや、コントじゃねえよ!!」
思わず突っ込んでしまったが叫び終わってから遊城の浮かべている表情を見てぐっ、と口を閉じる。
口元を少し浮かせて微笑っぽい表情と雰囲気を醸し出してはいるがよく見ると目がヤバい。
完全に目になんの感情も浮かんでいない。これは何故だか分からないが絶対に怒ってらっしゃる。だがなぜ関係の無い彼女がここまで深刻なレベルの怒りを発しているのかが分からないので問う。
「あのー、もしかして怒ってらっしゃいます?そうだとしたら一体何故なのでしょうか?」
表情を変えずに遊城が答える。
「別に怒っているわけではないわ。ただちょーっと二人しておふざけが過ぎているんじゃないかな。正直に言って迷惑。」
いや怒ってんだろ明らかに!質問の内容に答えろや!
そんな気持ちが渦巻いたので何故していたかも分からない敬語は止めにする。
「そりゃそうだったかもしれないけど殴って吹っ飛ばすのは無いだろ。少しぐらい謝罪があってもいいと思うんだけど。」
「ごめんなさい?」
「完全に棒読みじゃねえか。そして何故疑問系!」
「心がこもってないから。」
「でしょうねぇ。」
もうなんか疲れてきた。精神的に。そのため何だか口調もおざなりになる。そもそも俺はこの女が苦手なんだ、それも凄く。なぜなら………
そうこうしている内にやっとダメージが少しは回復したのか一条が床につけていた尻をあげてゆっくりと立ち上がった。
そうして遊城の跪いて従いたくなるような雰囲気にも何の感情も映し出していない黒い眼差しも気にせずに反論する。
「お前さっき迷惑って言ったけど俺達が誰に一体迷惑掛けてるって言うんだよ。ちなみにもう放課後だから次の授業の迷惑なんてのは無しだぜ。」
自信たっぷりに宣言する一条。どうやら本気で自分達に否はないと思っているらしいな、マジかこいつ。
そんな一条を見下し蔑むように視線を向けてから遊城は はぁぁぁとため息をつく。
「まだ分からないの?もういいわ。周りを見てみなさい、誰に迷惑を掛けているかわかるから。」
その言葉を聞いた一条はしぶしぶと教室をゆっくりと見渡した。
たっぷり10秒は見ていただろうか。
そうしていきなり何かに気づいたようにはっ!という顔をした。そのあと居心地悪そうにそわそわしだす。
いったい何があるのだろう。その正体を探るために俺も教室を見てゆく。
黒板、蛍光灯等に問題はなさそうだ。机の配置等でも。なら、一体何があるというのだろう。何もかもが二学期までの教室と同じだ。生徒でいない奴も見た感じ………あっ。
その時に何を感じるにも人一倍遅くて鈍い俺は自分を取り巻いている環境がどんなものか悟った。
そう………俺達はクラス全体から好奇の眼差しで見つめられていたのだ。