1 始業式4
目を開けると最初に飛び込んで来たのは蛍光灯と天井だった。どうやら今俺は教室の床に仰向けに倒れていてその景色を見ているらしい。
なんで俺いきなり倒れたんだっけ。そんなことを考える。
多少記憶が飛んでいるようなので詳しい状況を思い返してみよう。
えーっと、まず呼んでもないのに俺のところに一条が来ただろ?そうして俺が「もうお前らとは関係無いよ」とか言ったら口論になって…そうだ、その後に一条が「アイ ドント ギブアップ」とか言ったんだ。ってことは俺が倒れているのは一条のせいなのか?殴られてぶっ飛ばされたとか………
と、そこまで思考したとき胸の奥から沸々と怒りが沸いてきた。いろいろと間違っているような気もしたがそんなことはどうでもよかった。
いくら俺を部活に戻したいからってこれはやりすぎだ。一言、いやもう百言ぐらい文句を言ってやらねばならない。
そう決心した俺はまだ痛みの残る頭を無理矢理動かしていきなり立ち上がった。
「おい一条、お前のこと見損なったぞ!いくら自分の思い通りにいかないからって人として暴力なんてどうなんだ!お前みたいな奴がいるからこの世から体罰が……え?」
そこまで叫んだ時に気付く。一条の姿が見えない。
罪の意識に駆られて自首でもしたのだろうか…それなら言うことなしなのだが…
「って、うおっ!」
足元に倒れている一条がいた。何やらずっと額の部分を押さえてさっきまでの俺と同じように仰向けに倒れている。しかし、症状は俺に比べてかなり重そうで、体はプルプルと震えていて目尻には涙まで浮かんでいる。打たれ弱い奴だ。
一条の額を押さえて悶えている様子を見るにどうやらさっきのショックは俺の額と一条の額がぶつかって起きた結果らしい。
まさかいくら真っ直ぐしか進めない熱血野郎だといっても自分で頭をぶつけてきて自分の方がダメージを受ける奴だとは思いたくないので俺達の頭を衝突させた犯人は別にいるということになる。別にいると言うことにする。
頭の神経全てを感じることができるようによく集中すると人の手に捕まれた感触が少し残っている。なので別に犯人がいるのは間違いないだろう。
話を途中で打ち切ってくれたのは有り難いが、それはそれとしてせめてその犯人さんに恨みの視線や言葉の一つも贈ってやろうとしよう。地味に凄い痛かったんだあれ。
すると自分の後ろに人の気配がしたので振り返りながら文句を言う。
「何すんだよ。やるならこいつだけにしろよ。」
そして未だに倒れている一条を指差した。
一条は珍しく同意見らしく頭を少し上げてうんうんと頷いている(前半の“何すんだよ”の部分だけではあるが)
振り返ったその先にいたのは女子だった。
学校指定の若干水色がかった制服のブレザーに膝上二十センチはあるのではないかと予想される黒と白のチェックのミニスカート。腰までは確実にあるであろう艶々と黒く輝く綺麗な黒髪。すっきりとした眉毛にかかるその髪の奥に確かな光を持った力強く、しかしどこか慈悲深げな黒い眼。それらが一体となってもはや神々しい関わるのも畏れ多いと思わせるまさに勝者の風格、王のごとき雰囲気を持っている。俺とはまるで正反対の人間であることは疑いようもない。その姿を見るだけでつい跪きたくなる。
遊城王華
それが彼女の名前だった。