1 始業式3
そんな根はいい奴だからこそ断らなければならない。俺が部活に戻ることなんて無いんだから、希望を持たせないように。
「悪いな、俺はやっぱり行かないよ。」
「な、なんで…」
「なんでもなにも……俺は部活は辞めたんだ。」
「で、でも…まだ……」
更にモゴモゴと何か言おうとする一条の機先を制す。
「もう退部届けも出した、だからお前らとはもう何の関係もないし関わる必要もない。それに…」
もう人数は足りてるんだろ?
そう言おうと思ったがそれは言ってはならないことの様な気がして口を閉じた。
二人の間に何か気まずい沈黙の間が流れる。
一条の様子を伺うと何やら俯いて手を握りしめてプルプル震えている。顔なんてもう真っ赤だ。
そうして何かを決心したのか顔を上げ口を開いた。
「関係無いなんてないだろ!!!」
……うおお、いきなり怒鳴ってきた。相も変わらず怒りの沸点が分からんやつだ。ある地点までは全く怒る気配が無いのだがその域を超えるといきなり予告なく怒ってくる。温度のベクトルはまるで違うが過冷却みたいだ。
全く……出会った頃から何も変わらないなこいつは……
そう思いながらも思わず頬を少し緩めてしまう。
しかし、その次に発してきたセリフは俺のそんな気持ちもとことん凍らせてしまう物だった。
「お前が部活辞めたのってあの試合の……秋大会の一回戦が原因なんだろ?あの試合は確かに残念だった…」
でも!と叫んで言葉を繋ぐ。
「お前のせいだけじゃない。あの時は皆あんなことお前に言っちゃったけどお前のせいじゃないんだ、あれは俺ら全員の責任なんだ!だから……」
もはや限界だった。
「もう止めろ!」
そう叫ぶと驚いた様に喋るのを止める一条。普段温厚な俺が怒りに任せて叫んだ事など見たことが無かったからだろう。
俺はもう一度 もう…止めてくれ…… と呟くと意を決っして一条の目を見た。
「あの時は俺が悪かったんだよ!お前らのせいなんかじゃない!もういいだろ。俺はもうあれに興味はないしやる気もない!もうほっといてくれ!」
激情を思い切り叫んだからかハアハアと肩で呼吸してしまう。まったく……らしくもない…
それでも尚一条の目を見つめ続ける。
一条がこれを聞いて浮かべる表情はどんな表情なのだろうか…怒るのだろうか…それとも憐れむのだろうか…
そうしてこの時一条が浮かべた表情はいかにも形容しがたいものだった。
なんというのだろう。言うなれば圧倒的な哀しみをベースにしてスパイスに憐れみと苦悩を加えた感じ……だろうか。
そんな表情を見せられてしまえば俺はもう黙るしかない。
少ししてそのままの表情で一条が口を開いた。
「分かった。お前がそういうなら俺はもう関わるのを止めよう。…でも…ならなんでお前はそんな退屈そうに生きてるんだよ…なんであの頃みたいに生き生きしてないんだよ…」
「……………」
数秒の沈黙。
「ごめん嘘ついた。やっぱり分からない。俺はお前に関わるのを止めない。絶体にお前を諦めない!」
“友達だからな”
言葉にはしなかったがそう言われている気がした。
まったく…憎めない奴だよお前は…
そんな時だった。
ガツッ!っと鈍い音がして一瞬意識が飛んだ。