0 事の始まり
「ハッ ハッ ハッ ハッ」
そんな息切れの音がハッキリと規則正しく、自分の耳にまで届いてしまう程大きく聞こえる。
もうどれぐらい走っただろう、まだ五分も経っていないはずだがそんなことを考えてしまう。さっきから全力疾走を続けているためもう息も絶え絶えだ。
それでも止まらずに走る。
「くそっ、あいつ等はどこ行ったんだよ……」
なかなか見付けることの出来ない焦りからかそんなことをつい呟やいてしまう。
走っていると、ガッと何かが足にぶつかったような感覚がした。そしてその一瞬後……急激な痛みがやって来た。
「イッテエエエエエ!!」
そんなことを叫んでも痛みは何も変わらないのに反射的にそんな言葉を発っする。
そして痛みを堪えることが出来ずに足を抱えてその場でうずくまった。どうやら何かに足を強くぶつけてしまったらしい。
何にぶつかってしまったのか確認したい気持ちに駈られるがそんなことをしている暇は生憎持ち合わせていないしもう外も暗い。
更にはここは大通りではなく裏路地、つまりは電灯と家の明かりもないのだ。そんな中で確認出来るはずもない。今は立ち上がって振り返らずに進む時だ、そう考え足を若干引きずりながらどうにか立ち上がる。
どうやらまだ走れるようだ。再び走るのを再開する。
そのまま走っていると細い十字路に差し掛かった。左右の人影を確認するがどうやら誰もいないようだ。チッ と軽く舌打ちをして十字路の左の道に走り出した。
今俺はいつもの如くチンピラやら不良やらから絡まれて逃げているのではない。むしろその逆だ。
ある二人を追いかけている。
何故?と聞かれると明確な答えを返すことは出来ない。俺にもよく分かっていないからだ。俺が知っている言葉で無理やり表現するならば
“なんか面白そうだから” であろうか。
そう、言うなれば俺は今このつまらない“日常”ではなく新たな“非日常”を追っているのだ!
………と表現するならば格好いいかも知れないが俺はもうその二人を完全に見失っている。そしてその二人が行ったであろうルートを何となく進んでいるだけなのでもう“追っている”といることにはならないのだろう……
もはや“諦め悪くもがいている”と表現した方が明らかに正しい。だがまあいい。
「諦めの悪さと無駄な足掻きは俺の専売特許だぜ!」
そんな気取ったセリフを叫んだ。
もういくつ目であろうか、新たな分岐点に差し掛かる。さて…どちらに行こうか。そう立ち止まって考えた時、百メートル先ぐらいであるだろうか、その地点で ボシュッ という何処か気の抜ける音がして光が強く瞬いた。
閃光である。それほど強い光だった。近くで見る人はしばらく視覚が使えなくなるのではないだろうか。
あの二人の仕業だろうか……まあ、間違いなくそうたろうな……そんな事を思う。
その方向に向かって走り出す。意外と俺と二人の距離は近かったようでもうすぐ最後の曲がり角に到達する。だがこの曲がり角は行き止まりだったような気がするのだが……
曲がり角に着いた。そっと壁に張り付き、俺は顔を覗かせて様子を伺おうとして少しだけ顔を出して覗いてみる。俺の目に飛び込んで来た光景は俺の到底予想だにしない物だった。
そして……思う。
何で俺こんなことしてるんだっけ。