勇者と魔王のラストバトル
開いてくださった方ありがとうございます。
夜中のテンションでやりました。
熾烈な戦いだった。何はともあれ熾烈な争いだったのだ。
友人の戦士は「ここは俺に任せて、お前は行け!」と言いながらサキュバスの女将軍の胸に顔を埋めて足止めを買った。巨乳に興味ないから羨ましくない。何の戦いするつもりだよって雰囲気だったけど羨ましくない。
友人の賢者は「別に――倒しても構わんのだろう?」と言いながらスライムの女将軍と抱き合っていた。相手もまんざらそうじゃなかったのがイラッとした。どういう風に倒すつもりだよって雰囲気だったけど羨ましくない。
最後に友人の僧侶は「なぁに。後から追いつくさ」なんていいながらヴァンパイアの女将軍と脱衣麻雀をやってた。三対一で振り込んで負けろ。大負けしろ。
そんな熾烈な戦いを通過して、俺はようやく魔王の前に立てる!
「勝負だ魔王!」
巨大な扉が勝手に開かれ(開いたリビングデットの騎士さんお疲れ様です)中には広大な広間。
壮大な音楽を鳴らすのはゴブリンの合奏団。ちょっと空気を読んで歩いてみたら真っ暗な広間がボッボッボッと言う音と共に灯りが灯り始める。
気になって止まったら灯りが一瞬だけ点いてすぐに消えた。
……一歩進んで二歩下がる。
「引っかかったな!」
「この勇者ずりぃ!」
灯りの役割を果たしていたのはウィスプの少年たちらしく文句言ってきた。これだから魔物は理不尽な。教育のためにも言ってやろう。
「坊主。大人って言うのは卑怯なもんなのさ。俺もさー。親父のエロ本見つけて家族会議に出したら親父なんていったと思う? 『これ俺のじゃねぇ! こいつのだ!』って言いながら俺指して言うんだぜ」
「勇者の父ちゃんずりぃ! 大人って汚ねぇ!」
ウィスプの少年たちに辛い真実を教えてしまったようだ。だが、これも勇者の務めだ仕方ない。
気を取り直して真っ赤な絨毯の上を歩く。そうだ、俺は魔王を倒しにきたんだ。
見ていてくれ、天国の父ちゃん。母ちゃん。二人とも別に死んでないけど。
一歩進む。ウィスプは頑張って火を点ける。ちょっと微笑ましい。
一歩進む。ゴブリンの音楽団が奏でていた荘厳な音楽は何故か激しいロックになっていた。振り向くと指揮者がモヒカンでドラゴンの女将軍がギターを弾いてた。姿が見えないと思ったら楽しそうなことしてやがる。俺も混ぜて欲しい。
進んで、進んで。いい加減面倒になったから走った。五分ぐらい走って到着。
「魔王、貴様の邪悪な振る舞いで涙した人々のためにお前を打つ」
「ククク。よくぞ来た勇者よ……。どうだ、我が軍門に降れば世界の半分をやるぞ?」
圧倒的な威圧感。魔王の全身から迸る魔力は俺の三倍以上。真紅のローブは禍々しく揺れている。
「邪悪な誘いには勧」
「それはちょっと格好つかないからダメ」
「……そんな誘いに乗る勇者ではない!」
「そうか。それは残念だ……。ならば我が腕に抱かれて永遠の眠りにつくが良い!」
ローブをバッと開いたのは、ロリロリな女の子だ。ねじれた角、真紅の瞳。笑う口には牙。背中には悪魔めいた翼。
さっきまで響いていたロックはすでにデスメタル。金切り声が広間に響き渡る。
「思うんだけど我が腕に抱かれてってなんかエロくない?」
「そういうのはダメ。私まだ花も恥らう十四歳だから」
「あ? 十四歳は二十年前からそんな姿してませんー。魔族年齢とか俺知らねーしぃ。普通に数えてもう七十八歳だろうが!」
「魔族年齢じゃ十四歳! 人族はこれだから全くさぁ。それに邪悪な振る舞いで涙したって、私別に何もしてないよ」
乙女心が傷ついたのか(俺としては七十八歳は乙女じゃないけど)魔王がふてくされたような顔で頬を膨らます。
そうか。こいつは、気づいてないのか。今まで涙を流したあの人たちのことを……。
「じゃあ。教えてやるよ。お前がうちの街に来た時にお前が七十八歳だから求婚した奴は皆、警備兵に捕まって豚箱行きだ!」
「私のせいじゃないじゃん! というか自分で言うのもなんだけどこんな姿に求婚とかダメでしょ!」
「一理あるな! でも捕まったのは俺の親父もだ! 完全に冤罪だったけどエロ本を俺のだって言った恨みで放置したぜ!」
「止めてやりなよ! ちっちゃ! 勇者なのに器ちっちゃすぎる!」
言いやがった……! なら、これ以上の言葉は不要だ。決着をつけてやる。散っていった仲間のために。泣いた街の友人たちのために……!
「誰がナニがちっちぇぇだ!」
「被害妄想過ぎるよそれ。いいさ、通算三度目のこの戦い、いい加減決着をつけてやる!」
「今のところ一勝一敗! 勝負!」
それからは長い戦いだった。普通に戦った。真面目に戦った。途中で互いの魔力が切れたから全力の殴り合いだった。
ジャブから入っての右ストレート。それに応じた魔王のクロスカウンター。更にそこから足を止めてのゼロ距離ファイト。
相手は上半身を左右に動かす事でこっちのゼロ距離打撃を避けて打ち込むが身長差からこっちに大きなダメージは与えられない。こっちはその隙を縫っての拳を振りかぶるが相手の小ささ故に威力が完全には出せない。
途中から音楽がデスメタルから賛美歌になってた上に周囲に足止めをしていた友人たちが女将軍と共に応援に来て賭けてた。
およそ五時間に及ぶ死闘。その末は。
「いい加減、俺の嫁になれやコラァァァアアア!」
「婿に来いって言ってるでしょォ!」
両者会心の右ストレートによるダブルノックアウトという形で幕を閉じた。
そして二十年後。
「そして、コイツの父ちゃんを黄金の左で倒して見事にこいつを嫁に取ったのさ」
「お父様すごい! 大魔王のお爺ちゃんを左で倒したの!?」
「嘘嘘。最後そいつ「いや、本当。本気で愛してるんで、娘さん。下さい。あ、金はないっす。あ、はい。仕事します。はい。え? いや、もう本当、はい。はい」って土下座して私を嫁にしたからね」
「真実を言うなよ俺のハニー。決着つけっか?」
「私は嘘を言いたくないのダーリン。いいわよ表に出なさい、今のところ私が二回負けてるのが気にくわなかったのよ」
「いいぜ、テメェが俺に勝てるって思ってんなら。あ、俺の愛しい娘よ。もしも怪しいおじちゃんがきたら燃やしてやりなさい?」
言って、今日こそあの日の決着をつけるために表へ出る。
さぁ始めようか。元勇者と元魔王の通算何度目かわからない最後の戦いを。
読んでくださった方ありがとうございます。
最初はうわ幼女つよいってタイトルでそういう感じの終わりにしようと思ったんですけど勢いですね。