プロローグⅡ
お楽しみくださいm(_ _)m
那津と琴羽は桐妻と別れ、それぞれのクラスへ行った。
―その後朝のことが嘘のように静かに平穏に過ぎていった。
―放課後―
再び朝のように那津を待ち構えている男子たちが校門で塊となっていた。
那津はまた男子と決闘することにさすがに嫌気が指し、
屋上で委員会で忙しく走り回っている琴羽を待つがてら竹刀の素振りをしていた。
那津の家は3代以上に続く剣道の道場をしている。
琴羽と出会ったのも道場だった。
琴羽の家は家元で今のフワフワしている琴羽にも
茶道・華道・武道・能楽・狂言・舞踊・香道・音曲という和という和を
叩き込ませている。
武道には剣道も入っているので当然琴羽は習うことになり、
たまたま近所にあった那津の道場へと通った。
そして今にいたる。
女の子に見える琴羽は事実上男性だ。
学校では女性、それ以外では男性。
琴羽の家は女の子が生まれてほしかった。
しかし性を変えることなど出来ず、琴羽は最初女の子として育った。
琴羽には押し付けにしか思えず、実際そうだった。
しだいに琴羽にとって自分の家は辛い場所でしかなくなった。
琴羽が男性として本来の姿で外に出ているのはせめてもの反抗でもあった。
学校で女性として振る舞っているのは家への感謝の形であった。
那津が素振りに疲れて一休みしているとそこへ歴史の教師、神院 大智が来た。
「おぅ、お疲れ。やっぱりここにいたか。」
「あ、神院先生お疲れ様です。どうしてここだって分かったんですか?」
神院はニヤっと笑うと屋上のカギを那津に見せた。
「...カギが何ですか?」
「お前、大体放課後一人でここで練習してんだろ?」
那津は驚いた。
ここで暇つぶしをしていることを知っているのは琴羽だけだと思っていたがどうして分かったんだろうか。
「いつも委員会がある時や男子たちがずっと校門にいる時に、屋上のカギが少しの間カギ置場のところからなくなるからな。」
神院は苦笑いした。
「そうなると、男子たちに困っている奴といえば、九条しかいないだろ。」
「すごいです!!!!」
那津は神院が本当に先生なんだな...と密かに失礼なことを心の片隅で思ってしまった。
神院はズボンのポケットを漁るとタバコとライターを出した。
「タバコ、生徒の前で吸うんですか...?」
「秘密な。」
「他の先生に怒られますよ。」
「お前が言わなかったら大丈夫だから。」
「若いんですから、そんなものにはまらなくても。」
神院は那津を一瞥すると微笑んだ。
その微笑みはとても美しかったが儚く哀しくも見えた。
那津はその不思議な微笑みに不覚にも見惚れてしまったが、
神院の飄々している態度がいつもと違っていたこと何故か気になってしまった。
「...先生?」
那津はつい呼んでしまった。
それほど神院の態度はいつも違っていた。
神院は、はっと我に戻ると那津の頭をかきまわした。
「わっ?!」
「ほら、そろそろ委員会終わって信塚が来る頃だろ?向かいに行け。」
「先生は?」
「俺はここでもう少しタバコを吸うよ。あ、他の先生たちには言うなよ?」
「分かってます!ほどほどにしてくださいね?」
那津は神院にはぐらかされた気もしないでもないが、
渋々と琴羽のいる委員会の教室へと向かった。
那津は気づかなかった。
後ろで哀しみの瞳をしている神院に。
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