プロローグⅠ
想武伝参考
―時空の狭間に落ちた時、道が繋がる―
―大切なものを守りたければ、強くあれ―
「おはよ!ナっちゃん。今日も可愛いねえ。」
「ちょっとコン!急に抱きついてこないでって言ってるじゃん!」
いつものように笑いあう日々が一瞬で壊れてしまうなど、
あの時誰も思わなかった。
平成**年4月〇日
竹刀を持っている少女、九条 那津は
(一応)親友の信塚 琴羽と、ひらひら花弁が散る桜の並木道を歩いていた。
「それにしても、ナっちゃん災難だねえ。というより人災?ナっちゃんに一目惚れしたサンタのおかげで毎日大変だね。」
那津と琴羽は高校の始業式のことを思い出した。
―始業式―
「では、各教師から一言。」
校長の教師の紹介でサンタの紹介が始まった。
「こちらは体育教師の山本 龍輝教諭です。山本先生、生徒たちに一言。」
山本先生は校長からマイクを受け取ると静かに言った。
「俺は入学式である乙女に一目惚れした。その乙女の名は九条 那津だ。九条と付き合いたければ俺と九条と決闘し勝ってから告白しろ、以上。」
その山本先生の挨拶により入学式は騒然となったが、その後の那津の日常とは比べものにならなかった。
というもの、実際那津は客観的に見ても可愛い。
腰まで伸びた茶色の髪のポニーテール。クリクリの黒い瞳。スラッと長く細い体。
そして明るく優しく芯の強い性格。
しかも成績優秀。女子を困らせていた男子を竹刀で成敗するという強さ。
何を取っても完璧な那津に周りの男子が恋に落ちるのは時間の問題だった。
それ故に律儀な男子は正面切って那津と決闘したが結果は男子の惨敗だった。
「ナっちゃんが全国剣道大会で3連勝中とは知らずに決闘とは、すごいよね。しかも懲りずに再び決闘してきた男子はあっぱれだわ。」
「気持ちは嬉しいけどね。」
琴羽は倒され悔し涙を流した男子を思い出し、少し可哀想と同情した。
那津にとって男子が決闘を申し込んでくる事は人災でしかなくなった。
最初は笑顔で受けていたが、最近では休み時間にまで男子が来るようになり屋上で隠れるようになった。
サンタの気持ちも嬉しかったんだよ?」
那津は疲れたように溜息を洩らした。
「まあ、あんな愛情表現されると『一途な男ってステキッ!』ってなるけど、サンタの場合はストーカー...ではなく、ただの人災だよね。」
「ストーカーも人災も一緒でしょ。」
那津は苦笑いした。
学校の校門まで行くと男子の人だかりがあり、那津と琴羽が近づくとその塊は雄叫びをあげて二人へと向かった。
「九条さん!俺と決闘を!」
「いや、僕と!」
「俺だ!」
那津はゲンナリと竹刀を構えた。
琴羽は、「はははは」と頬を引きつらせた。
那津は心を決め、男子の塊の中へと走って行った。
―数分後―
「はあ、疲れた。」
那津は大勢の男子を全員倒し一息ついた。
琴羽は那津が倒した男子たちに向かって、「ご愁傷様です。」と憐れんでいた。
そこへ端整な顔をした男子が二人のもとへ来た。
「いつもお疲れ。はい、お茶。」
「桐妻会長!!」
彼はこの高校の生徒会長、桐妻 泉矢。
3年生で女子から絶大の支持を得ている。
そして、そこの男子の塊よりすごく優しく、人思いで、
疲れている那津に差し入れのお茶をくれた。そんな心配りができる人だ。
ふと、琴羽が校舎の窓を見ると女子たちが怒りの眼で那津を見ていた。
琴羽は我知らず冷や汗をかいた。
「那津... そろそろ。」
那津は校舎の女子に気づき、軽く泉矢に挨拶するとそそくさと学校に入った。
この原作は3部で終わり、
想武伝の4話に移ります!
ご了承くださいm(_ _)m