会いたい人
新しい登場人物がでます。
「――まったく。……それより、賢一に会わせたい人がいるんだ」
そう言ってノムは山の方へ飛んだ。しばらくすると、東の空が明るくなってきた。
もう朝か。と思っていると、ノムが急に声をあげた。
「あそこだよ!」
見ると、山に囲まれた古い神社が見えた。近づくと、階段を掃いている巫女服を着た若い女性がいた。
「あの人は……」
その時、その巫女が賢一達の方を向き、手を振った。
賢一は驚いて立ち止ったが、ノムは手を振り返して近寄っていった。
「おはよう、死神さん!」
「わぁ、椎ちゃん!久しぶり!」
賢一は唖然として二人を交互に見た。すると椎と呼ばれたその巫女は賢一に気が付き、ニコッと笑いかけた。――ものすごい美人だ。
「新しい死神さん?」
賢一は声を出せずに頷いた。
「私は椎。この神社で巫女やってます。あなたの名前は?」
「村越です」
「賢一ね!」
横からノムが言った。椎はまたニッコリ笑って手を差し出した。
「よろしくね、賢一君」
「えっと……」
賢一が戸惑っていると、「大丈夫だよ」と、ノムが声をかけた。
「生命のあるものには触れられるんだ。それに、椎ちゃんも霊力が高いから」
賢一は頷き、少し躊躇しながら椎と握手した。椎がニッコリと笑い、賢一は顔が赤くなるのを感じた。
それを見て、ノムはムスッとした。
「ねぇ、霊力が高いって?」
「ううん。別に、何でもない」
ノムはさりげなく二人の間に入った。椎はそれを見てクスクスと笑った。
「そっ、それより椎ちゃん、最近どう?」
「そうねぇ、最近は……」
椎は腕を組んで考えだした。どうやら流されやすい性格らしい。数秒前まで疑問に思っていたことをすっかり忘れている。
椎が悩んでいる隙に、賢一は椎に聞こえないように声を潜めてノムに話しかけた。
「なぁ、何で話しを逸らしたんだよ」
「椎は空を飛ぶことに憧れてるんだよ。もし自由に空を飛べる方法があると分かれば、あとあと面倒なことになるからね……」
「あっ、そう言えばノム。飛ぶのうまくなった?」
ノムは何事もないように笑って振り返った。
「ん?……まぁ、ちょっとは」
賢一は横を向き、小さく鼻で笑った。よく言うよ。俺の上に落ちてきたくせに……。
ノムは賢一の思っていることが分かったのか、ギロリと睨んで何も言わせなかった。
「……三日前ね、ここら辺を自由自在に飛んでいる死神を見たの。ノムかと思って声をかけたんだけど、そのまま行っちゃった」
椎は頬を膨らませた。そんな姿も可愛らしかった。
「えーっ、三日前はここら辺来てないよー」
「あらそうなの?じゃぁ、別の死神さんかしら」
ノムは眉をひそめて首を振った。
「そんなはずないよ。この地区に死神が入ったなんて報告ないし……それを見たのは一回だけ?」
「いいえ。昨日も見たわよ」
ノムは難しい顔で考え込んだ。
「うーん……。見間違えじゃないの?」
悩んだ末の結論がそれか!と賢一は内心で呆れる。
「違うわ!あれは絶対に死神よ!」
「どうしてそう思うんですか?」
椎はくるりと賢一の方を向いた。
「だってカマを持って空を飛んでいるのは死神だけでしょ?」
ノムは頷いた。
「確かに……。でも、連絡もなしに他の死神が他の地区に入るなんてありえないし」
三人はうんうん唸りながら考えた。普段からあまり考えないタイプの賢一は、あっと言う間に考えることを放棄し、空を見上げた。すると、カラスの群れが頭上を通り過ぎた。
その時、賢一はある可能性に気がついた。
「分かった……」
「え?」
二人は賢一の方を見た。賢一はニヤリとして思いついたことを二人に話した。