強盗
長い間空いたので軽くあらすじ。
屋上で昼寝をしていた青年、賢一。すると……。
「親方!空から女の子が!」
「今日からあなたは死神補佐です」
「このカマで死にそうな人を切ってください」
「なんだか頭が……」
というところ。
……そ、そういうことで、どうぞ!
しばらく飛ぶと、もう真夜中だというのに、住宅街が騒がしかった。
「何だ?」
「次はあの人だね」
「あっ、ここ……」
ノムの指す方を見ると、今日(もう昨日か)の朝方に見た銀行強盗の立てこもり事件の現場だった。銀行の回りは警察のパトカーが囲み、銀行に向かってライトが当てられていた。マスコミもたくさんいて、もう真夜中だというのに野次馬までいた。
「朝方よりすごいことになってんな……。あっ!あれはもしかして機動隊とかいうやつか?」
黒い装備に銃を持った人達が表口と裏口にゆっくりと近づいていた。
「中入るよ」
賢一はノムの後について銀行の壁をすり抜けた。
銀行内は緊迫した空気が流れていた。人質になっている人達は、長時間の拘束のためか、グッタリとしている。強盗は一人で、客の女性に銃を突きつけ油断なく辺りに目を光らせていた。
「すげー……。こんな場面、生で見るの初めてだ……」
「そりゃぁ、滅多に遭うことじゃないだろ」
ノムは分厚いリストに目を落とした。
「死因は自殺……か……」
賢一は横を向いてノムを見た。ノムの声のトーンが一つ下がったように感じた。
「どうした?」
ノムはハッとし、首を横に振った。振った拍子にバランスが崩れ、少しよろめく。
「ううん、何でもないよ。……さっ、お仕事、お仕事!」
明らかに話しを逸らしたが、深く突っ込む気もなかったので、前を向く。
賢一は男に近づいた。近くで見ると、男は暑かったのか自棄になったのか覆面を外していた。無精ひげを生やした中年おじさんだった。
男の顔は脂汗で光っており、イライラした様子で人質達と外の様子を交互に見ていた。
「車はまだか!」
男は銃を上に向けて発砲した。人質になっている女性がキャァ!と悲鳴を上げた。
「ビッ……くりしたーっ……」
賢一はバランスを取りながら額に浮いた汗を袖でぬぐった。
男が発砲した先には賢一がいて、銃弾は賢一の顔の横を通り過ぎたのだった。
隣でノムが声を抑えて笑った。
「霊体の僕達には現世のものは触れられないよ。壁だって通り抜けたじゃないか」
「うるせぇ!」
まだ死神になって数時間しか経ってないのに、銃を向けられてシレッとできるか!―と、賢一は内心で文句を言った。
突然、銀行のガラスドアが破られ、何か黒い塊みたいなものが入ってきた。
不意を突かれて全員が固まった一瞬、その黒い塊から煙が噴き出し、あっという間に室内を煙で包んだ。
またガラスが破れる音が響き、今度は機動隊の人達が次々と入ってきた。
「うわっ!何も見えねぇな」
賢一は目を細めたが、煙の中では微かに人の輪郭が分かるだけだった。
その時、人質達が悲鳴を上げ、機動隊が踏み込む足音の中で、パンッと乾いた音が一発聞こえた。
「ほら、賢一。来たよ!」
喧騒に負けないようにノムが叫んだ。見ると、強盗の男の魂がゆっくりと昇ってきていた。
「よしっ!」
賢一は自分を勢いづけ、後ろまでカマを引いた。ノムがカマの届かない程度に離れるのが視界の端からうかがえた。
賢一は今までと同じようにカマを振った。そして、今までと同じようにカマは男の体を通り抜けた。
だが、ここからが違った。
一瞬音が消えた。そして、全てが入って来た。