事故
「あっ、賢一。次はあの人だよ」
ノムが指した方には、一人の女性が歩いていた。
「……死因は事故死。あぁ、バイクの運転手も死んじゃうね」
ノムが言った途端、女性の後ろからバイクがやって来た。きっとあれだろう。
「あのバイクの人だね」
ノムが呟いた。見ていると、バイクがだんだん女性に近づいていき、バイクのハンドルが何かにとられたように揺れ、コントロールを失ったバイクはそのまま女性の方へ行き、女性が振り返った途端―。
けたたましい音とともにバイクが電柱にぶつかり爆発した。バイクの運転手も女性も、二・三メートル先に倒れていた。
「賢一、仕事だよ」
ノムが賢一の背中を軽く押した。賢一は事故現場まで飛んだ。
「地面に着いちゃダメだよ!」
後ろからノムが叫ぶのを聞きながら、賢一はまずバイクの運転手の方に近づいた。
ヘルメットは衝撃で歪み、血が地面に流れ出していた。そして、ゆっくりと魂が体から離れ出した。
賢一は前と同様、後ろまでカマを引き、力を入れて振った。
――まただ。何かが頭の中に入って来た。頭を押さえると、後ろからノムが叫んだ。
「賢一、次!」
顔をあげると、女性の魂も昇ってきていた。
賢一は飛んだ勢いのままその女性を切った。
「また……」
ふらっとよろめき、地面に足がつきそうになった。だが、地面まであと数センチという所でグイっと上に引き上げられ、一気に空高くまで来た。
「もう、気をつけてよ!もう少しで消える所だったよ!」
「あぁ」
賢一は自分で跳び、ノムはそれを見て手を離した。
「ちょっと。助けてあげたんだから、『ごめん』とか『ありがとう』とかない訳?」
「あぁ」
その返事に、ノムはムスッとした。
賢一はノムを見た。
「なぁ……」
「もういいよ!……さっ、次行くよ。時間ないんだから!」
ノムは何故かプンスカと腹をたてて飛んでいった。賢一は訳が分からないまま溜息をつき、その後をのろのろと追った。