ノム
「あっ、やっぱりここにいた!」
「うわっ!……何だ、実か」
驚いて飛び起きたが、誰が来たのか見てハーッと溜息をついた。
屋上のさらに上が賢一の昼寝ポイントである。そして、賢一の昼寝の邪魔をするのが、牧原実。癪だが幼なじみだ。
「何だとは何よ。心配して見に来てあげてるのに」
何を心配する必要があるんだか……。と言う言葉を飲み込み、頭の後ろで腕を組んで寝そべった。
「昼寝の邪魔だ。どっか行け―そう言えば、お前どうやってドア開けたんだよ」
屋上に行くドアには鍵がかかっている。学校職員に頼まなければ誰も屋上に来ることができない。
賢一はちょっとした手を使っているので、普段は先生や生徒に邪魔されずに寝られるのだ。
実は得意そうに笑った。
「ちょっとした手を使ってるのよ。それより――」
その時、授業が始まるチャイムが鳴った。
「いけない!じゃぁねケンちゃん。たまには授業出なよ!」
「ケンちゃんって呼ぶんじゃねぇ!」
実は後ろ手に手を振り、軽やかに階段を下りていた。
賢一はイライラしながらまた寝そべり、目を閉じた――。
誰かの叫び声がする―だんだん近づいてきた―。目を開けてみると、空がオレンジ色だった。
もう夕方か……と思っていると、空にポツンと白い点が見えた。その点がだんだん大きくなってきた。そして、それが人だと分かった時、逃げる間もなくその人が賢一の上に落ちた。
「あ――――っ!地面に落ちた――――!消えちゃうよ――――――!」
「……おい……」
「イヤだ――――っ!消えるのはイヤだ――――!」
「おい‼」
賢一が叫ぶと、泣き声がピタリと止んだ。
「……あれ?消えてない……。どうして?」
「早くどけ‼」
その人は賢一に気づき、「わっ!」と声を上げて飛び退いた。
賢一はムクリと起きあがって頭をさすった。
「まったく、何で上から落ちて……来た……」
視線が、だんだんと上にあがっていった。
「いやぁ、君のおかげで消えずにすんだよ。ありがとね」
――天使だ……。と思った。真っ白な服に白い髪。愛くるしい顔。羽は無かったが、宙に浮く姿はまるで天使だった。
「あ……あんた、いったい……」
「おや?君、僕が見えるの?」
賢一が頷くと、女のくせに僕と言ったそいつは、感嘆の声をあげた。
「へー。珍しいね。君、霊力強いんだ」
別に強いつもりはない。と言おうとしたが、そいつは賢一が口をきく前に話しだした。
「あっ、僕の名前はノム。死神協会から来た死神です」




