カラス
正体不明の影とは?
「賢一!いた!いた!見つけたよ!」
賢一は森の木々を避けながらはしゃぐノムの方へ飛んでいった。ノムは場所を開けてそれを見せた。
「賢一の推理通りだったね」
「別に、推理って程じゃないよ。ただの思いつき」
「その思いつきがすごいんじゃないか」
賢一は輝くような笑顔をしているノムから目を逸らした。
「別に、すごくない……。普通だ、普通」
ノムは賢一の顔を覗き込んだ。
「あれ?もしかして照れてる?」
賢一はドキッとしてノムの額にデコピンをした。
「いたっ!」
「早く行くぞ!椎さん、真実知りたくてうずうずしてるんじゃないか?」
そう言って賢一は神社の方に向かって飛んだ。ノムはそれを抱え、後ろでぶつくさ言いながらついてきた。
椎は階段の一番上でそわそわしていた。
賢一達の姿を見つけると、大きく手を振って二人を迎えた。
「どうだった?」
ノムは椎に腕の中のものを見せた。
「賢一が言った通り、椎ちゃんが見たのは、体に針が刺さったカラスだったよ」
椎はノムからカラスを受け取った。
「……人間に触れられても騒がないなんて……。すごい弱ってる。早く病院に連れて行かないと」
賢一は首を捻った。
「何でだ?カラスだし、別にいいだろ?」
ノムと椎は真剣な表情で賢一を見た。
「賢一……。本気で言ってるの?」
賢一は頷いた。ノムと椎は全く同じ顔をしたので、賢一は噴き出しそうになったが、そんな雰囲気ではないと思ったので懸命に堪えた。
「何がおかしいのよ」
どうやら笑いが顔に出たらしい。賢一は慌てて顔を引き締めた。
「……あなた、自分の体に針が刺さったらどう思う?」
「そりゃぁ、痛いだろ」
「そうよ、痛いのよ。それは人間だけの感情じゃないわ。他の動物だってそう思うのよ。言葉が話せないからって、人間と全く違うなんてことは無いんだからね!」
椎の非難するような強い眼差しにたじろぎ、賢一はその眼差しから背を向け達ラッとノムを見ると、椎とは違い賢一を憐れむように見ている―。
何だよ。何で俺がこんな非難されたり憐れんだりされなきゃならねぇんだよ。
「……んなこと、俺が知るか!」
賢一はそう吐き捨て、空に昇っていった。後ろから「賢一!」と呼ぶノムの声が聞こえたが、それを無視して飛んだ。
「ごめんね椎ちゃん。じゃぁ、またね。―待ってよ賢一!」
フラフラと賢一を追うノムを見ながら、椎は少し後悔した顔になった。
「……ちょっと、詰めすぎたかしら……」
椎はしばらく空を見つめていたが、やがてカラスを刺激しないように境内を戻っていった。
その時、森からカラスの群れが飛び立ち、椎の頭上を通り過ぎた―。




