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くつをはこう、ぼうけんに出よう!

作者: 中村遠
掲載日:2026/05/05

 えいたは買いものから帰るなり、おかしを食べると、すぐにまた家をとびだしました。買ってもらったばかりのくつを、友だちのしゅんくんに見せようと思ったのです。


「ねぇえいた、しゅんくんちよりも、もっとよいところへ行かない?」


 走っていると、右足のくつが声をかけてきました。えいたは、びっくりして立ち止まりました。

「どこへ行きたいか、いってごらん」


 こんどは左足のくつがいいました。りょう足とも、どうぶつみたいに目がふたつあって、ぱちくりと、まばたきをしました。


「ほんとうに?」


「うん、どこへでも行けるよ」


 えいたはしんじられませんでした。けれど、どこへでも、といわれると、むねがはずみました。


「じゃあ雲の上につれてってよ」


「いいとも。えいたの好きなように、とんでみて」


 いわれたとおり、えいたはジャンプしました。つぎのしゅんかん、


「あっ!」


 と、声が出ました。たちまちけしきがかわり、広い雲の上に立っていました。

 水たまりみたいに、雲のうすくなっているところから、えいたのすむまちが見下ろせました。おもちゃのようなまちをながめていると、えいたはもっととおくに行きたくなりました。


「月に行きたい」


「わかった。思ったとおりに、とんでごらん」


 えいたは、えいやっ、と雲をけりました。

 月のじめんはでこぼこしていました。えいたは、上手くちゃく地できず、ころびました。そのはずみで、ぽーんっ、とかたほうのくつがぬげてしまいました。

 そこへ、どこからか、はい色のうさぎがあらわれました。


「このくつはきみのかい? かっちょいいナ」


 うさぎはうしろ足で立っていて、えいたと同じくらいのしんちょうでした。うしろ足の先だけが白く、まるでくつをはいているみたいだと、えいたは思いました。

 うさぎは、顔がくっつきそうなほどに、しげしげとくつをながめると、気に入ったのでしょうか、それをはいてにげだしたのです。

 くつを失くせば、お父さんやお母さんにしかられるばかりか、なにより家に帰れません。


「くつをかえせ!」


「へへ、おれをつかまえられたら、かえしてやる」


 えいたはひっしでおいかけましたが、うさぎの足にはかないませんでした。

 えいたは、とっさにひらめきました。くるりとむきをかえました。

 月はボールみたいな形をしていますから、はんたいの方へ走ればうさぎと会えるとかんがえたのです。

 すぐに、うさぎはむこうがわからやって来ました。


「ああッ!」


 えいたに気づくなり、うさぎは目をまるくしました。けれども、きゅうには止まれません。


「つかまえた!」


 と、えいたはうさぎにとびつきました。


「これでかえれるぞ」


 ぶじにくつをとりもどし、えいたは地球に帰ろうと思いました。すると、


「もういっちゃうの? ひとりはいやだナ」


 とたんに、うさぎはしょんぼりとしました。

 はなしを聞けば、うさぎはずっとひとりぼっちだったらしいのです。

 いよいようさぎは泣きはじめました。

 えいたはきのどくに思って、帰れなくなりました。どうしたものか、なやんでいると、くつたちがいいました。


「それならいっしょに地球にいこうよ」


 えいたはさんせいしました。うさぎは、うれしそうにとびはねました。


「よぅし」


 えいたは、うさぎとがっちりとかたをくみました。そして、


「いち、にの……さんっ!」


 と、ふたりでおおきくジャンプをして、月をとびだしたのです。

 つぎに気がついたときには、えいたはちいさなうさぎをだいて、公園のすなばにねころがっていました。


「やった! 地球にもどってきたぞ」


 と、よろこんだのですが……

 くつを見るとすっかりぼろぼろで、おまけに、つまさきにあながあいています。元にもどったようで、うんともすんともいいません。


「月まで行ってぼろぼろになった、っていったら、お母さん信じてくれるかなぁ」


 うつむくと、うさぎと目があいました。そのまなざしにはげまされて、えいたは、家へとあるきだしました。

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