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余命半年の花嫁

掲載日:2026/04/27

式場は白かった。

花も、ドレスも、光も、すべてが祝福の色をしていた。


誓いの言葉の前で、花嫁はマイクを握った。


「実は……私、余命半年なんです」


ざわめきが、静かに広がった。

誰かが息を呑み、誰かが泣き始めた。


「今日こうして結婚できたのは、奇跡みたいなもので……」


声は震えていた。うまくできていた。


新郎は固まったまま、何も言えなかった。

司会者は一瞬止まったが、すぐに「感動的なお話ですね」と言った。


拍手が起きた。涙の拍手だった。


式はそのまま続き、写真が撮られ、言葉が交わされ、

「強く生きてください」とか「支えます」とか、たくさんの約束が空中に浮いた。


夜には、それらは全部、SNSに上がった。

「#余命半年の花嫁」「#愛は奇跡」


数字は伸びた。すごい勢いで。


数日後、医者が否定した。


「そんな診断はしていません」


さらに数日後、花嫁の過去の投稿が掘り返された。

似たような嘘。似たような話。


あっという間だった。


コメント欄は、泣き顔から、怒りの顔に変わった。

「裏切り」「最低」「死を使うな」


花嫁はしばらく弁明したが、すぐにやめた。

新郎は何も言わなかった。


街で、誰かが言った。


「半年後、どうなるんだろうな」


その言葉は、妙に残った。


半年が過ぎた。


誰も、もうその話をしていなかった。

新しい話題はいくらでもあった。


その日、花嫁は消えた。


帰り道、ふっといなくなった。

防犯カメラには、途中までしか映っていない。


一人の男が、前から歩いてきて、少しだけ会話をして、

そのまま並んで歩いていく。


それきりだった。


男は見つからなかった。

顔も、名前も、出てこなかった。


ただ、昔のコメント欄に、一つだけ残っていた。


「半年後、楽しみにしてる」


誰もそれに触れなかった。


新郎は、そのあと、急にいなくなった。

探したら、寺にいた。


剃髪して、黙って座っていた。


「どうして」


と誰かが聞いた。


新郎は、しばらく考えてから言った。


「全部、嘘みたいだったから」


それだけだった。


山の中のことは、誰も知らない。


ただ、季節が一つ巡るたびに、

山の中から、小さな叫び声がする、と言う人がいる。


それは、嬉しいような悲しいような女性の声だった。だが、微かなものである。風かもしれないし、違うかもしれない。

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