休暇 ~その5~
鳥居を潜り、国道へ向けて歩いて行く。
ずいぶん暑くなっている。いきなり汗を掻き出した。森の中では暑さを意識していなかったことに思い至る。
国道を渡り、道に沿って100メートルほど行った先の、敬神会会長の自宅へ向かう。
場所は聞いていたが、田んぼの中に、ひときわ大きな屋敷と、広い敷地にトラックが何台か停めてあるので、すぐにわかった。
門扉はなく、和風の大きな建物の玄関は開いていて、来訪を告げると、東畑本人が奥から現われ、上がるようにと促した。
玄関隣の応接室に通される。
「測量を始められたのですか?」
改めて挨拶を交わすと、会話の糸口にと質問してみる。
「せっつかれてな、例の会計士に。まあ……あんたが登記するときにも必要だけど」
「そうですね」
感謝するべきかと思ったが、言葉にしなかった。
「山も……隣の山と続いているからな。どこまでしていいのか、よく分らんのだが」
だから、なるべく早く役所に調べに行けということだ。
「そういえば……」
と、猪谷という男からもらった名刺を出して、知っているかと東畑に訊いてみる。
「うちにも来たぞ。山の南斜面を買いたいと」
「えっ? 不動産屋なのですか?」
「違う。太陽光パネルを敷きたいのだと」
「……電力会社?」
「でもないのだが……そこらへんはよく分らんが、仲介業者じゃないかな。詳しくは聞かなかった。敬神会には売る権利はないからな」
「そうですね」
と言ってしまって、気分を害さなければ良いがと恐縮してしまう。
「俺も知らんかったんやけど……ここ、日承地区は、高山市の中で、一番晴れの日が多いのだと」
「そうなのですか……」
「おお。特に舟喜山は、南側が開けているので、日照時間が長いそうや。で、太陽光発電には理想的やと、どこで調べてきたか知らんけど、言っとった」
「そうですか…… 」
こんな田舎の小さな山まで調べるのかと、感心してしまう。
「売ってくれって言われたけど、それは、善方の家のもんに言ってくれって、帰したんや。そんで、うろうろしとったんだろな」
「なるほど……。ちなみに、幾らで買うと言われたのですか」
「500万やと」
500万、と口の中で呟いてみる。
「うちの土建も……電気が扱えるんで、儲かるんなら自分でやってみるのもいいかと計算させてみたんや」
「はい」
「そうしたら、最低でも4000万かかることがわかった」
「……それで?」
「出来るわけないやないか。銀行も貸してくれるか分らんし。まあ、売るのが一番いいわな」
「そうですか、500万か……」
今度は口に出してみる。
「なんか……地域振興みたいなことを言っていましたが……」
「あの会社か?」
「はい」
「電気を造って、地域の電力を賄い、余った分を電力会社に買い取ってもらえば、ここら辺にとって得だということやろう」
「なるほど……」
「そんなうまい話かどうか……」
東畑はテーブルの上の冊子を示す。
「パンフがあるから、読んでみるといいわ」
ファンファンイノベーションのパンフがテーブルに載っていたのに、いま気がついた。
それを手に取り、ほくそ笑んでしまいそうになるのを堪える。
帰り際、東畑から社務所の鍵をもらったが、もう一度舟喜山を登るのは辛いので、高山へ戻るためにバスに乗る。
車中でパンフを読んでみる。電力会社と顧客とを結ぶ仲介業者だと記してある。
どのくらいの土地だと、どういう条件で幾らくらいだと、丁寧に説明してある。もちろん他社との比較を載せて。中部地区一番の会社だと謳われている。最後に、任せて良かったという体験談が載せてあった。
休暇 ~その6に続く~




