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 相続 ~その4~

 古いやしろ……舟喜神社ふなきじんじゃ


 10才だった……。


 境内に続く、200段ある石の階段を駆け上っていく。

 数えつつ行くが、最後まで数えたことはない。


 絵馬殿の横に仮宮を拵え、ご神体を遷す。

 境内には篝火が灯され、誰もが立ったままかしずいている。

 俺は父の隣にいた。父も他の人と同じように傅いていた。


 伯父の偉が、白の狩衣に白い烏帽子、顔を覆う白い布を着けた姿で、神殿から降りてくる。

 見てはいけないと注意を受けていたが、頭を下げつつも、上目で少年の俺は一部始終を目撃していた。

 神事が終わり、社務所で直来が行われた。

 俺は父の手伝いをして、お酒などを運んでいた。そのうちに眠ってしまった。


 夜中、ふと目覚めた。社務所の中には、父と伯父が寝ている。

 明かりがないのに部屋の中が明るいことに気がついた。


 寝返りし、窓を見ると、パッパッパッ、と短い間隔で強い光が当たっている。

 何だろうと見ていると、小さな人影が窓の外を横切りだした。


 この時間に人が……? それも子供の様に小さいのが……?


 激しく驚き、それでも目を逸らさなかったが。見ていると、小さな人影は中を伺うように、中央で停まった。

 窓の前まで来たのか、身体のわりに大きな顔を窓に着けたと思った瞬間、人影の両目が開いた。蛇のような大きな瞳がこちらを凝視した。

 俺は恐怖で総毛立ち、布団の中に潜った。化け物を見たのだと、ぶるぶると布団の中で震えていた。

 見てはいけないと言われていた神事を見たために、バチが当たったのだと知り、無性に怖かった。


 それ以来、手伝いに行っていない。


 ……


 神社を継ぐことなどできないが、一度見てこようと、休暇を取ることにした。3日間も。

 仕事の関係上、休日は不定期で、残業も当たり前にしている。3週間連続で働いたこともあるし、夜の9時前に帰宅したことなどない。


 その俺が3日間の休暇を申し出た。

 室長は、呆れたのを通り越し、「あっ、そう」、とだけ呟いた。良いとも悪いとも言わない。そのままデスクの上の書類に目を落とした。


 俺は居心地が悪くなり、頭を下げると、デスクから身を退いた。

 番場が、顎を上げてこちらを見つめていた。蔑みの表情で。

 塚本にいたっては、薄らと笑みさえ浮かべていた。どういう心境なのか、ちょっと計りかねる。

 広いオフィスを横切り、好奇の視線を受けつつ、俺はエレベータホールへ出た。

 ひょっとすると、週明けに来たときには、俺の席は無いかもしれない。


 3日間の休日を申し入れたのには、神社の価値は計れないが、山は売ることができるのでは、という目論見があるからだ。幾らになるのかまったく見当はつかないが……。



   第2章 休暇 その1に続く


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