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出発前の一分間

作者: rubixcube

ノンフィクションです。

 私の目の前にある一通の白い封筒。あて先は私。送り主はとある留学支援機関。おそるおそる鋏で丁寧に上の部分を切り取って、中の紙を抜き取った。キッチリと三つ折にされたその手紙、一度目を閉じて深呼吸。大丈夫。私はやれるだけの事はやった。


「やったよママ!私、私受かった!」

 一人自分の部屋でガッツポーズを取った後、色々後押ししてくれたママの所まで走った。キッチンで洗い物をしていたママは、水を止めて此方を振り向いた。

「ホントに!」

「うん。アメリカ合衆国だって!」

 二ヶ月前の事、私はテストを受けていた。留学生の選抜テスト。英語の試験は勿論の事、面接などを通して留学生に値するかどうかのテストだった。英語圏へ高校生を派遣するプロジェクトを支援するその機関は、私を留学生としてアメリカへ行くことを選んだ。

「やったじゃない。そうだ、パパにも連絡しなくちゃ。一番心配してたの、パパなんだから。」

 携帯を取り出してメールを打ち始めるママ。考えてみれば、留学に行くことを考えたきっかけはママにある。ママも昔留学生で、オーストラリアへ行った経験がある。小さい頃から遠い外国の見聞録を聞いていた私は、そんな場所に夢を抱いていた。だから、高校生になった今、留学したいと切に願っていたのだ。中学生になってからの英語の勉強は人一倍頑張った。成績はまぁまぁだけど、それなりに自身はある。

「あ、パパから返信よ。“おめでとう。今日はお祝いにケーキを買っていくよ。”だって。良かったじゃない。」

「気が早いって。」

 まだまだやらなくちゃいけない事はたくさんある。ビザを取得したり、書類だって書かなくちゃいけない。確か、予防注射も必要だったかな?私注射苦手なんだよね…。でもまだ出発まで半年ある。それまでに色々頑張らなくちゃ!

 時間が経つに連れて、合格の興奮が段々収まってくる。すると、新しい懸案事項が過ってくるのだった。“友達と一緒に卒業できない”事に。これは全ての留学生が懸念する事ではない。外国の学校で単位を取って、それを日本の学校での進級に利用する。そうすれば普通に三年間で高校を卒業できる。だけど、私の五教科の成績は英語を除いてほぼ全滅。再来年帰ってきてそのまま大学の入学試験を受ければ浪人間違いなし。留学をバックアップしてくれる先生からは、“休学していく方が無難”と言われている。私が頭がよければなぁ…。


「えぇ、知ってる人もいると思うが、橋本はこの夏休みからアメリカへ一年間の留学へ行く事になった。本人は休学を希望しているため、夏休み以降同じ教室で学ぶ事はないだろう。クラスから仲間がいなくなるのは大変だが、これも一つの運命だと思って欲しい。橋本、何かクラスの皆に言いたいことはあるか?」

「え?あ、じゃぁ一言だけ。皆さん、お世話になりました。ちょっと遣り残した事もあるのですが、アメリカでも頑張ってきます。帰ってきた後もよろしくお願いします。」

 夏休みを直前に迎えた終業式後のホームルーム。先生がクラスの皆に私の留学を伝えた。中のいい友達には既に伝えてある。出発直前の日にお別れ会を開いてくれるって。

 一つだけ、遣り残した事があったかな…。座りながら考え込む。隣の組のある男子。私が絶賛両思い中の彼。両重いっていうのは、友達伝で彼も私を好きだって知ってるから。留学がなかったら思い切って告白してたと思う。でも、しなかった。ううん、できなかった。一年間も無理だよ…。

 学校から帰ろうとバス停まで向う。今までと変わらない接し方をしてくれる友達が嬉しかった。

「橋本!」

 後ろから男子の声がした。振り向くとそこには…

「けい…、じゃない。朱雀…。」

 後ろから来たのは同じクラスの男子。それとなく呼ばれて連れて行かれる。友達は“先に行ってるね”とバス停へ向った。


「橋本、俺、知らなかったんだ。お前がアメリカ行ってしまうなんて…」

「だから何よ。」

 彼は私の元カレ。中学時代に告白されて付き合っていた。だけど、たった数ヶ月で向こうから振られた。“一度距離を置きたい”って言われた。彼が愛してくれるからそれに答えようと必死だったのに、振られた。それからは会話はするけど、少し恨みを持った接し方をしていた。

「あのさ。俺ともう一度付き合ってくれ。あの時は俺が悪かった。一年でも二年でも待ってやる。だからさ…」

「ゴメン。」

 朱雀の気持ちには答えられない。私にはもう寄りを戻すと言う考えは、無い。

「そう、か…。あの時の俺が選択間違ってたな。悪い。留学頑張れよ。」

「うん。それとね…。私が留学に行こうって完全に決意したのは、朱雀と分かれたからなんだ。朱雀が今の私を作ってるって言っても過言じゃないんだ。」

「ますます俺が悪者みたいだな。じゃぁな。また来年会おうぜ。気が変わったらラブレターでも何でも寄越せ。すべて受け取ってやるから。」

「調子に乗るな!…じゃぁな。バスが来ちゃうし。」

 走ってバス停まで向った。今更何よ。だけど…、朱雀の勇気には感服する。私なんて、勇気が無くて告白できない私とは大違い。


 とうとう出発の日が来た。既に家から遠くまで離れた国際空港で、家族とさよならしていた。出国カウンターで荷物を預けて、金属探知機のゲートをくぐれば、日本とは一年のお別れ。さぁ、頑張らなくちゃ。同じくアメリカへ行く友達と、わくわくしながらラインに並ぶ。

「は、橋本!」

「え?」

「ここだ!」

 人ごみの中で手を挙げている男子が一人だけいた。倉元、君…。なんでここに…。

「へぇ、麗奈も隅に置けないわね。先に搭乗ゲートで待ってるから。」

 私の分の手荷物をもって、友達は行ってしまう。

「よかったぜ、間に合って。大学のオープンキャンパスで近くに来たからさ。良かったらコレ。きっとアメリカじゃ手に入らないと思って。」

 差し出してきたのは煎餅だった。まぁ、確かに外国じゃ手に入りにくいかもしれないけど…。でも、嬉しかった。

「頑張れよ。」

「うん。わざわざありがとう。」

「あ、あのさ…。」

「う、うん…。」

「やっぱり何でもないや。俺も大学いかなくちゃ。じゃあな。」

 もしかしたら告白してもらえるかもって思ってた。やっぱり無理か…。私もやっぱり勇気が出なかった。私の馬鹿…。


「勇気ねぇな。俺…」

 空港の屋上、展望デッキに登って次々と空へ飛んでいく航空機を眺めていた。このどれかにアイツの乗るのがあるはず。右手に握った十字架のネックレス。とうとう渡せなかった。次に会えたら、絶対に…。

留学って本当に楽しいです。かけがえの無い時間を過ごす事ができます。えっと、ほとんど実際に会ったことなんですが、最後の空港のシーンは…フィクション?かな。

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