35.初めての欠勤
コンディションの悪い時は休むべきと思う派です
目覚まし時計の音で目が覚める。
瞼が重くてなかなか開けられなかったけれど、なんとか無理矢理目を開けた。それでもいつもより視界が狭くて、鏡を見なくても目が腫れているのがわかった。メイクも落とさないまま眠ってしまったから、肌の状態も最悪だろう。
この顔で仕事に行くのは…嫌だなぁ……
部屋着のままリビングに行き、鞄の中のスマホを取り出す。連絡先リストから上司の連絡先を探し、欠勤を希望するメールを送る。
『おはようございます。朝早くに突然すみません。体調が悪く、会社を休ませて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?』
すぐに返信があり、その内容に心が痛んだ。
『大丈夫ですか?鈴木さんはいつも頑張ってくれていますから、その疲れが溜まったのかもしれませんね。今日は仕事のことを気にせず、ゆっくり休んで下さい。明日の朝、また連絡を下さい。』
会社を休む事は今まで一度もなかった。父親の知り合いの会社で、ましてや声を出せない障害を持っている私を受け入れて雇ってもらっている立場もあって、会社を休んで迷惑をかける事はしたくなかったから、常に健康管理は万全にしていた。
それが今回、初めて嘘を吐いて会社を休んでしまった。それなのに、快く了承してくれた上司には、感謝と罪悪感で複雑な気持ちでいっぱいになる。
『ご迷惑をおかけしてすみません。明日また、連絡致します。』
送信ボタンを押して、ふぅ…と息を吐く。
とりあえず今日は一日、ゆっくりと過ごす事ができる。エアコンのスイッチを入れてからバスルームに行き、シャワーを浴びる。メイクをしたままの気持ち悪い感触や、昨日の出来事を全て洗い流すように、念入りに全身を洗った。
最後に、頭からシャワーを浴びる。そして……もう泣く事がないように……全てをリセットするように……残りの涙を流しきる。その涙は、シャワーの水滴と一緒に私の身体を伝い、バスルームの排水溝に吸い込まれていく。
私はそれを見つめながら深く息を吐き出し、再び目を瞑る。耳から聞こえるのは、シャワーの小さな穴から細かい水滴が吐き出される音、身体に細かな水滴が当たる音、それらの水滴が跳ねて壁や床にぶつかる音。それらの音に包まれながら、頭に浮かぶ数々の想いも一緒に流れていくのを願う。
しばらくの間、滝行のようにシャワーに打たれ続けていた。
バスルームから出ると、ふかふかのバスタオルで身体の水滴を拭い、頭に巻きつける。そのままベッドルームに向かい、クローゼットから下着と部屋着を取り出し、身に着ける。鏡の前に座ると、いつものように化粧水を手に取り、肌に潤いを与える。与えた水分が逃げないように、乳液を優しく馴染ませる。最後にクリームをつけると、頭にタオルを巻いたまま、キッチンに向かった。
空のケトルを取ると、浄水器を通った水を入れてコンロに掛ける。カチッと音を立てて火を点けてお湯を沸かす。お湯が沸くまでの間、ティーポットに茶葉を入れて、セットのティーカップも一緒に用意した。視線をずらすと、調理台の上には昨夜用意したお弁当が寂しそうにしている。お弁当箱を手に取り、蓋を外してからレンジに入れて温める。レンジから温める何かが起きてる音を聞きながら、頭のタオルを外して、ガシガシと髪の毛の水分を拭う。
レンジが軽快な機械音で温め終わった事を知らせてくれた。髪を拭く手を止めて、タオルを首にかける。レンジの扉を開けて、お弁当箱を取り出す。備え付けの引き出しから箸を取り出し、リビングに持って行く。ダイニングテーブルの上に置くと、タイミング良くお湯が沸く音がした。
キッチンに戻り、コンロの火を止めると、茶葉に強く湯が当たるように、高い位置からティーポットに注ぐ。適量を注いでから、ティーカップにもお湯を注ぐ。2分待ってからティーカップのお湯を捨て、温まったカップに少しの紅茶を注いで味見する。
うん、美味しい
これ以上濃く出ないようにティーポットの中の茶葉を捨てると、ティーカップと一緒にリビングに持っていく。ダイニングテーブルの上のお弁当箱の脇に置くと、ティーカップに注ぐ。一口飲んでから、お弁当に箸をつけ始めた。
自分の部屋でお弁当を食べるなんて…なんだか虚しいなぁ…と思いながらも、せっかく母親の作ってくれたものを粗末にすることはしたくないから、しっかり完食する。箸を置き、少し温くなった紅茶をクイッと飲み、ふぅ~と一息吐く。
窓の方に目を向けると、カーテンの隙間から強い日差しが漏れていて、良い天気なのがわかる。いつもはすぐに開けるカーテンを、今日は開けないで過ごしたい。
自分の中をぐるぐると渦巻いている
色んな思いが落ち着くまで
このままでいたい
ゆったりと流れる時間を、紅茶と一緒に過ごす。ポットの中の紅茶がなくなるまで、私は私と会話を始めた。
色んな感情ごちゃ混ぜ状態ですからね
自分との対話
大事です




