32.一通の手紙
揺れ揺れ静花ちゃん
あの日をきっかけに、私の決意は揺らぎ始めた。
清志くんの腕に包まれて眠っていたあの日。
次の日には……森林さんと躰を重ねてしまった。
自分が決めたことなのに、ゆらゆらと揺らぐ自分が嫌になる。
清志くんの腕の中はとても暖かかった。
森林さんの肌も…とても暖かかった。
清志くんは唯一、過去の私も今の私も知っている友達で、一番頼れる存在。
森林さんは今の私しか知らない。私の声のことを知って、それでも私を好きだと言ってくれた。
2人の間で揺れる私はどうしていいのかわからずに、2人から逃げてしまった。
仕事のある平日は、今まで通勤路として使っていた道を大きく遠回りして会社に行く。
金曜日は、仕事が終わると実家に帰り、そのまま実家で過ごした。
月曜日は実家から直接会社に向かう。
そんな毎日を過ごすようになった。
何度も清志くんからメールが来たけど、私は返さなかった。「甘えてもいいんじゃない?」と、私の中の私が何度も誘惑してくるが、それでも私は返さなかった。
森林さんは私の連絡先を知らないから、まず連絡が来ることはない。連絡先の交換をしていなくて良かった、とホッとしていた。
それから半年が経った頃、実家に一通の手紙が送られてきた。私宛だったので、母親は躊躇しながらも渡してくれた。差出人を見ると、どこかの病院からだった。
しっかりと閉じられた封を開けると、中から丁寧な文字で書かれた便箋が出てきた。そこに書かれていた内容に、私の心がざわざわし始める。
『はじめまして。私は須賀高史さんを担当していたものです。突然のお手紙、失礼致します。須賀さんが亡くなられた為、今までお預かりしていました物を鈴木さんにお渡ししようと思い、このようにご連絡させていただきました。鈴木さんのお時間の都合がつく時で構いませんので、一度、当病院までお越し下さいませ。』
私は手紙を見つめながら、ただ立ち尽くしていた。
「静花…どうしたの?」
母親が心配そうな顔で私に聞いてくる。すぐに私は母親に笑顔を向ける。
『大丈夫。なんでもない』
「そう?それならいいんだけど……」
『部屋に戻るね』
「ご飯は?」
『後で食べる』
「…そう……じゃあ、お父さんと先に食べちゃうね」
私は頷いて、そのまま部屋に戻る。自分の部屋のベッドに身体を預けると、もう一度、その手紙を読み直す。
高史が…死んだ……
なんで?
高史は…何を預けていたの?
今更?
高史は………
いくつもの疑問が浮かぶも答えは出ない。真相を知る為に、行ってみようと思った。差出先の住所を見る。ここなら実家から行くほうが近い。
明日はちょうど日曜日で仕事も休みだから………
『都合のつく時』って手紙には書いてあるし……………
私は部屋から出て、リビングいる両親のところに行く。ダイニングテーブルで夕食を取る2人に加わり、私も食事をする。
『明日、出かけてくる。そしてそのままマンションに帰るね』
「そう、わかったわ」
「どこに行くんだ?」
『ちょっとね』
「気をつけろよ」
父親は心配そうにしているが、私は笑顔で頷く。
食事が終わると、自分の部屋に一度戻って着替えを取る。バスルームに行き、ゆっくりと湯船に浸かる。ちょうど良い湯加減に、私はのんびりとした気持ちになった。
明日…私の中で何かが変わるだろう…
それは…良いことなのか悪いことなのか…わからない
でも………動けないままの私を動かしてくれるような気がして
…怖いけれど…もう高史はいないから…大丈夫…
ザバッと湯船から出る。髪と身体を洗い、再び湯船に入る。心地良い湯温に私の身体を預ける。程よく身体が温まったところで湯船から出る。
明日は早起きしなきゃ
そう思いながら、バスルームを後にする。柔らかいバスタオルで水滴を拭き取り、パジャマを着てから自分の部屋へ戻った。
部屋に入ると、真っ直ぐ自分のマンションへ帰れるように荷物を纏めてから、ベッドに潜り込む。目覚ましを7時に合わせると、すぐに目を閉じて、早々に眠りについた。
揺れ揺れから
まさかの元彼の訃報
なかなかの怒涛っぷり




