18.ランチde雑貨屋
清志くんの知ってる洋食屋さんに連れて行ってもらい、オススメのハンバーグセットをオーダーする。料理上手な清志くんのオススメだけあって、すごく美味しかった。それに久しぶりの外食も、何も変わらない単調な生活を過ごしてた私には新鮮で良かった。
そんな時間を一緒に過ごすのが清志くんで、改めて友達でいてくれてありがとう、と思った。それでもいつか、清志くんは私ではない誰かと一緒の時間を過ごすようになるんだろうな、と思うと少し寂しくなる。
清志くんに素敵な彼女ができても、私とは友達関係のままでいてくれたら……いいな。
そんな自分勝手な気持ちを持つ自分が嫌だ、と思いながら、雑貨屋さんまでの道を清志くんと歩く。
一人きりで生きてくことを決めたのは私。声が出なくなっても、なんとかやっていけてる。運がいいのかもしれないけれど、それだけでも幸せだと思わないと。
駅を越えるとすぐに雑貨屋さんが見えてくる。雑貨屋さんのドアを開けると、チリンチリンと可愛らしい音がした。
「いらっしゃいませ」
店の奥から聞こえる森林さんの声にホッとする。店内には誰もいなくて、私の後ろにいる清志くんは店内を見回していた。
「あっ、鈴木さんと秋月さん。わざわざ来てくださいまして、ありがとうございます」
柔らかい笑顔の森林さんに、私も笑顔で返す。
「素敵なお店ですね」
「そう言っていただけると嬉しいです。小さい店ですけど、ゆっくり見ていってください」
「はい。」
私と清志くんは、店内に綺麗に並べられてる雑貨達を見てまわる。清志くんが何か手に取って私に見せてくる。
「これ、お前好きそう。」
清志くんは木彫りの熊を掌に載せる。立ち姿の熊は、何かを取ろうとしているようだった。私がその熊を見つめていると、清志くんがスッと取り上げ、レジに持っていった。
「これ、お願いします」
「ありがとうございます。ええと…プレゼント用ですか?」
「はい」
「畏まりました」
森林さんは丁寧にラッピングをしている。
誰にあげるのかな?
そう思っていると、会計を済ませた清志くんがそのリボンの包みを私にくれた。
「お前のコレクションの仲間に入れてやって」
え?私に??
びっくりする私にいたずらな笑みを向ける。
「いらない?」
首を横に振る。
「落とさないように、ちゃんとしまっとけ」
急いでバッグに入れる。
「それじゃあ行くか?」
え?もう?
私がお店を出るのに躊躇していると、清志くんが森林さんに挨拶をして、お店のドアを開けていた。清志くんのあとに続くように私もドアに向かう。
外に出る前に振り返り、森林さんにお辞儀をすると、急いで清志くんのあとを追いかけた。
「俺、そろそろ店に行くけど、静花はどうする?一緒に店来る?部屋に帰ってから出てくる?」
どうしよう。
考えながら、バッグからメモ帳とペンを取り出す。
『部屋に帰る。まだ時間早いし』
「わかった。今日は18時から開けるけど…………静花ならそれよりも早く来てもいいから」
『わかった 後でね。それとコレ ありがと』
「静花が好きそうだったから……ちゃんと飾れよ。じゃあまた後で」
大きく頷くと、清志くんは手を振って駅に向かって行った。清志くんを見送り、日傘を差して駅とは反対に向かって歩く。
マンションに入り部屋に戻ると、エアコンをつけてソファーにゴロンと横になる。寝そべりながらバッグに手を伸ばすと、綺麗にラッピングされた木彫りの熊を取り出して、じっと見つめる。何かを掴もうとする必死な様子が可愛い。思わずにやけてしまう。
人から物を貰うなんて……
私を刺した彼から指輪を貰った以来……
もうその指輪は捨てたから手元には勿論無い。そして、私は昔の私を捨てて、新しい私になった。それなのに…………首の傷が少し痛んだ気がして、少し怖くなる。私の手は自然とハイネックに上手く隠れてる首の傷に触れていた。
傷はとっくに治っているのに…………
まだ私の心は……
これ以上思い出さないようにと身体を起こし、手の中の熊を小さな動物園にそっと置く。ガジュマルも動物達も、新しい仲間を歓迎しているようで、私は嬉しくなる。少し眺めてから再びソファーに横たわると、軽く目を閉じる。
今日…清志くんと一緒にご飯食べて…森林さんのお店に行って…楽しかったなぁ…
一人で生きてくって決めてから…一人でいることに慣れたと思っていたけど…
…誰かと一緒にいるって…いいな…って…思った
…でも………
一人で生きてく
そう決めたのに
ゆらゆらと揺れる
自分が嫌になる
誰も求めない
そう決めたのに
押し込めた気持ちが
徐々に溢れてくる
もう怖いのは嫌
失いたくない
だから決めたのに
求めてしまう
優しくて
楽しくて
暖かくて
心地良い
人の温もり
お願いだから
私の決意を揺らがせないで