プロローグ/1.いつもの日常
初投稿です。
ゆるゆると連載予定。
のんびり最後までお付き合いいただけましたら幸いです。
どうぞ宜しくお願い致します。
【プロローグ】
真夏の空は
青く澄んでいて
神々しい太陽が
全てを照らしている
光が強ければ強い程
できる影は色濃く
光と影の境界線は
はっきりとした輪郭を描く
まるでそれは
過去の私と
現在の私のようで
同じモノなのに
違うモノのように
真逆の生き物に変わる
真っ黒な影のように
ひっそりと生息し
誰にも気付かれず
こっそりと生きていく
そう生きること
そう決めたから
【1.いつもの日常】
目覚まし時計が鳴る前に目が覚める。
いつものように手を伸ばし、アラームのスイッチをオフにする。目覚まし時計の隣に並んで置いてあるエアコンのリモコンを手に取り、『運転』のボタンをエアコンに向けて押した。
少し怠さの残る身体をゆっくりと起こし、ベッドから抜け出す。遮光カーテンの隙間から僅かに零れる光に溜め息を吐き、仕方なくカーテンを開けると、強い紫外線が待ってましたとばかりに、部屋の中へ入り込んだ。
徐にバスルームに向かい、衣服を全て脱ぎ去り、全身にべたべたとまとわりついている不快な寝汗を洗い流すべく、シャワーのレバーを上げ、適温になるのを待つ。絶え間なく降り注がれる細かい水滴の粒を頭から浴びながら、まだ寝ぼけてる意識をゆっくりと正常に戻していく。
バスルームから出ると、洗ったばかりのふかふかのバスタオルを手に取る。身体の水滴を拭き取り、水分を含んだバスタオルをそのまま纏い、脱衣所を後にした。
ベッドルームに戻り、クローゼットを開け、中の収納ケースから下着を取り出し身に着けてから、鏡の前に座る。頭に巻いていたタオルを外し、軽くタオルドライしてから、ドライヤーで髪を乾かす。昨夜のうちにクローゼットから出していた、暗いグレーのノースリーブワンピースを纏い、再び鏡の前に座り、軽くメイクをする。メイクを終え、最終チェックをしてからエアコンのスイッチを切った。
ベッドルームからリビングに移動すると、デスクの上に置いた資料の束を鞄にしまう。キッチンに行き、昨夜のうちに作っておいたおにぎりを食べながらお弁当を布で包み、ステンレスボトルには冷蔵庫で冷たく冷やされた麦茶を入れて、蓋をしっかりと閉じる。お弁当とボトルが丁度良く納まるベージュ色のトートバッグに入れて、再びリビングに戻る。デスクの上に乗せた鞄と薄手のシャツを手に取り、玄関へ向かう。
玄関にある鏡の前で全身をチェックしてから、下駄箱の上に置いてある鍵と、傘立てに立てた日傘を取り、ドアを開け、玄関を出るとしっかり鍵をかけてから、エレベーターホールへ向かう。
逆三角形の書かれたボタンを押し、少し待つ。数秒後に閉じられたドアが静かに開く。エレベーター内に誰もいない事を確認し、急いで乗り込み、急いでドアを閉める。誰も乗り込んでこない事を祈りながら、目的の階に到着するのをジッと待つ。エレベーターが止まり、静かにドアが開く。玄関ホールを抜け、マンションの自動ドアが開き、外に出るのと同時に日傘を差す。
今日からまた、長い一週間が始まる。
いつもと同じ時間、同じ電車、同じ駅、同じ道のりを歩き、会社に到着する。
「おはよう。」
ドアを開けると、同僚が声をかけてくる。私は笑顔で会釈をする。タイムカードを押してから自分の席に着く。PCの電源を立ち上げ、鞄から資料を取り出し、必要な箇所をチェックしながら起動を待つ。
起動すると、すぐさまキーボードに手を置き、打ち込みを始めた。カタカタとキーボードを叩く音が静かな社内に僅かに聞こえる。出勤時間が過ぎると、社内が急に騒がしくなり活気づく。
「鈴木さん、これ、お願いしてもいい?」
同僚に声をかけられ、私は笑顔で頷きながら書類を受け取る。
「ちょっと急ぎだから、今日中に宜しく!」
そう言うと急いで打ち合わせに向かう。すぐに自分の仕事を終わらせ、頼まれた書類に目を通し、再びPCの画面に向かい、データを作り、数字を打ち込む。その後も、他の同僚達から書類を渡され、ひたすらに処理をする。仕事に没頭していると、あっと言う間に昼休みの時間になった。
同僚達はすぐに仕事を切り上げ、「今日はどこのランチ行く?」と楽しそうに会社を出て行く。賑やかさが落ち着くと、私もキリの良いところで仕事を中断し、デスクの上を簡単に片付けて、トートバッグからお弁当とボトルを取り出す。特に代わり映えのしないお弁当をつつきながら冷たい麦茶を飲み、ネットニュースを見ながら時間を潰す。
さっきまで騒がしかった社内は、私と同じお弁当組のおじさん数人しか残っていなくて、静かで良いなぁ~……と思う。そんなのんびりした昼休みを過ごし、再び社内が賑やかになり始めると、お弁当を片付け、仕事に戻った。
頼まれた仕事を終わらせる度に、社内メールに添付できる物は添付して送り、手渡ししなくてはいけない物はメールで順次伝えた。同僚達は、それぞれの仕事の合間にデータを取りに来たり、受け取り確認のメールを送ってくる。そして、最後の完了メールを送り、ふぅ~と一息吐く。
時計を見ると、丁度良く退社の時間になっていて、仕事の有無を訪ねようと上司の席に向かう。
「今日はもう大丈夫だから、上がっていいよ。お疲れさん。」
上司に軽くお辞儀をしてから自分の席に戻り、帰る準備をする。PCの電源を落としてからタイムカードを押し、会社を後にした。
月曜日はいつも、週末に終わらせられなかった同僚達の仕事が、午前中のうちに私のところに回ってくる。それを私は退社時間までに終わらせる。余程の事がない限り、残業をする事はない。
駅に向かい改札を通ると、タイミングよくホームに入ってきた電車に乗り込む。電車は少し混んでいたが、朝のラッシュに比べるとまだ我慢できる範囲だった。最寄り駅に着くと、改札を抜けて、まっすぐマンションへと向かう。途中、小さな雑貨屋さんの前で不意に足を止める。
その雑貨屋さんは、1年程前に出来た比較的新しいお店で、小さいながらも私好みの雑貨が並んでいて、見ているだけでも心が弾んだ。
――今日は……どうしよう……
少し迷いながらも雑貨屋さんの扉を開ける。扉の上の方からチリンチリンと可愛い音がした。
中に入ると、ふわりと樹の香が鼻先を掠める。どこか懐かしいような……そんな感じがして、思わず笑みが零れた。
濃い茶色の木の壁
ところどころ黒く見える木目
アンティーク調のテーブル
その上に綺麗に並べられた雑貨達
ほとんどが一点物で
どれも手作りのように
一つ一つが暖かくて
優しい感じがした
――やっぱりここのお店……好き……
きれいに並べられてる雑貨達を眺めていると、お店の奥から微かに声が聞こえる。声のする方向に顔を向けると、お店の人が荷物を抱えて出てきた。お店の人は私の顔を見ると、優しい笑顔で挨拶をしてくれる。
「いらっしゃいませ。ゆっくり見ていってくださいね。」
私は軽い会釈をすると、お言葉に甘えて店内をゆっくりと見て回る。今度の給料日に何を買おうかなぁ~……とウロウロしていると、フッと目に付く物があった。ソレを手に取る。
――今度はこれにしよう
そう決めてソレを元の位置に戻し、お店の人に再び軽く会釈をしてから雑貨屋さんを後にする。真っ直ぐマンションに帰り、薄暗い部屋の電気をつける。
いつもと変わらない時間の使い方で、今日という一日を終わらせた。
まだ始まったばかりです。
ゆるゆるお付き合いくださいませ。