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仮面の男性
夢の中だからできる。
自信満々に言っては、座敷牢に触れようとした。
できなかった。
記憶喪失の男性に腕を掴まれて動けなかった。
「ふふ。動く事すら叶わぬというのに」
「………いや。あなたがこの人に手を離してと言えば、離してくれるんじゃないですか?」
「言わぬな」
「………お願いします」
「言わぬ」
「こんなに頭を下げているのに」
「どこがだ?」
「心の中では立ったまま頭を地面につけています」
「首を落とされるのが所望か?さても。本気で願っておるのなら、叶えてやれるが?」
「結構です。多分、落とされてもくっつけられるでしょうけど。そんな感覚味わいたくないので」
「叶える力がある。と豪語するならば、自らでどうにかせよ。わらわは何もせぬ」
「………わかりました」
「ではそやつと村の事を頼んだぞ」
仮面の男性が踵を返して、座敷牢の奥へと戻ろうとした時だった。
聞こえたのだ。
仮面の男性の足を止める声が。
(2023.11.10)