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雪待月  作者: 藤泉都理
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結界を張った術師の末裔




 夢だろうと結論づけた。

 恐らく。袖振り合うも他生の縁、というやつだ。

 もしかしたら、前世に深い縁があって無意識下で気になっていたのかもしれない。

 そう、納得して、あとは夢から覚めるまでは恐怖展開さえ来なければいいなと思いながら、記憶喪失の男性に話しかけようとした時だった。

 声が、聞こえたのだ。

 座敷牢から。

 背筋が凍りつくような、声。

 恐怖を纏わせる。

 それは、あまりに美しかったが故に。


 衣が畳の上で擦れる音が聞こえたかと思えば、徐に音が大きくなっていく。

 心は座敷牢へと引っ張られるが、反して身体は後ずさろうとしたが叶わなかった。

 記憶喪失の男性が背後に聳え立っているばかりか、両腕を掴まれて微動だにできなかったのだ。

 否、金縛りにあっていたので、どちらにしても動く事は叶わなかったのだ。


 ふふ。

 笑い声が耳介をなぞり、外耳道、管、神経を通り過ぎていく。

 意識できるほどに細やかで美しい振動を湛え乍ら。

 己の身体が管楽器にでもなったようだった。

 永劫に振動が回り続けるような心地だった。

 外に出ては内に戻り、内に戻っては外へと出て行く。


「そなた。この座敷牢に結界を張っては去って行った術師の………末裔、か。ふふふ。なんともまあ」


 認識されてはいる。

 けれど、些末な存在として。

 強く意識を注いでいるのは、後ろ。記憶喪失の男性だ。

 仮面をしていても、その声で、わかる。

 恋しくて、恋しくて、堪らないと、訴えている。

 

 木の格子の隙間から手を伸ばしたいだろうに。

 木の格子などふっ飛ばして抱きしめたいだろうに。

 仮面も緩やかに纏わりつく大繩も払いのけてこの村から飛び出したいだろうに。


「ふふ。憐憫の情か、はては、罪悪感が突かれでもしたか」


 泣いておる。

 仮面の男性に言われて初めて、頬に伝う温かい雫を認識した。











(2023.11.10)




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