謎は謎のまんまでいいよ
茶色の大きな木材で出来た、いわゆる普通のログハウス。大きな木など生えていないこの世界では、普通ではない。
木のテーブルも、木の椅子も。陶磁器のティーカップも、普通ではない。
この女性は、俺たちや、この世界の秘密を知っているのかもしれない。
「どこから話しましょうか……」
彼女は、俺が淹れたハーブティーを飲みながら話を始めた。
気になる。バキを知る女性。早く何者か教えてくれ。見た目は普通の体型の普通の容姿のアラサー日本人だが。
ゆっくりとティーカップを置いて、俺の目を見て口を開く。ごくり……。
「え、このハーブティー美味しくない? どこで手に入れたの?」
拍子抜けだった。なにこれ? ママ会か何かですか?
「ハーブティーはいくらでもあげるから。話を」
「やった。この世界、こういうのが一番欲しいかも。コーヒーとか。あ~、コーヒー飲みた~い。ミルクも入れて。カフェオレだ。カフェオレ飲みた~い」
「そういうのはいいので、あなたの話をね」
イライラしてきた。コーヒーは俺も飲みてえよ。
はー。ハーブティーをすすって落ち着く。
ちなみに、わかるてぃとしょうじあは、席を外してもらっている。
「ああ、私の話ね」
「ええ。よろしくお願いしますよ」
ふー。早く教えてくれ。
「こっちの世界では、白湯ばかり飲んでるわ」
「それはどうでもいいです」
マジでどうでもいい。俺が知りたいのは普段の飲み物じゃねえ。
「そうじゃなくて、この世界に来る前の話とか」
「ああ、はいはい」
早くしてくれ。何者なんだ、あんたは。
「私は未熟児でね、生まれたときは小さくて……」
「そこから!? 何時間かかるんだよ!」
「あはは。いいね。ツッコミだ」
「やらせないでくれよ!?」
なんなんだ、こいつは。
「やあ、ごめんごめん。久しぶりに普通の人と話すから嬉しくて」
「はあ……」
年上の女性にそう言われてはしょうがないが。
「じゃ、あらためて自己紹介をしましょうか」
「はい、お願いします」
ようやく普通の会話か。長かったな。
「私はごく普通のロリコンです」
「はあー!?」
普通じゃなかった。なんだって?
「実はショタコンでもあります」
「知らんよ!?」
何なんだこの人は。あんたの性癖なんてどうでもいいよ。
自己紹介の初回で言う事じゃねえだろ。
「あの、せめて名前が先では?」
「ああ。名前。ランドセルなめ男です」
「ランドセルなめ男!?」
名前もヘンタイだ!
それもあるが……
「え? 待って? 実は男ってことですか? ……あ、元は男的な?」
「なるほど。それもいいね」
「それもいいねって何!?」
なんなんだよ、この人は!?
顔を見る限り、少しも悪びれた様子はない。
「あ、ジョークですか?」
そうだよな。マジなわけないか。
さっきのツッコミが嬉しすぎて、ボケちゃったってことか。そっかそっか。
「マジだよ」
「マジなんだ」
マジな顔で言われた。マジカヨ……
女の子に、なめ男って。
キラキラネームって、ここまで来ていたのか……っていうか、ランドセルって名字は日本に存在するんですかね……
などと思案していると、なめ男さんがハーブティーを一口すすってから「ペンネームは男っぽくしておく方がいいんだ」と。
「へ? ……ペンネーム?」
「うん。漫画家」
「……漫画家なんすか!?」
「言ってなかったっけ」
「言ってないですねえ!?」
よかった、本名がランドセルなめ男の女性はいないんだ……。
そっかそっか。漫画家ね。確かに、女性漫画家の名前が男らしい感じのパターン、聞いたことあるね。なるほどなるほど。
つまり、この人はロリコンでショタコンの漫画家さんか。どこが普通の人なんだよ。
ん?
「だとすると、さっきの二人はどストライクなのでは」
「ああ、わかるてぃとしょうじあ?」
「ええ、わかるてぃとしょうじあ……あれ、名前教えましたっけ」
ん? 名前なんて言ったか? 俺の名前すら教えてない気がしますが。俺が呼んでたからわかったのかな。
「いや、名付けたの私だし」
「なんだ、そういうことか……ってえええええー!?」
何気なく言われましたけど。とんでもないこと言ってるじゃん。
「な、なんで名付けたんですか?」
「なんでと言われても。生みの親だから?」
「お、親だったんですか!?」
だ、だとすると。な、なんちゅーところを見せてしまったんだ。親の居ぬ間に、親の家で、娘さん達と……興奮してきたな。なんていいシチュエーションなんだ。
じゃなくて。
え、産んだ? この人が? 見た目は結構若く見えるが。二児の母?
そもそも、あの二人って年齢離れてなくね?
わかるてぃとしょうじあは似てないし、双子ってこともないぞ。
難しい顔をしている俺に、なめ男さんは手でチョイチョイと否定をアピール。
「ああ、親っていっても、あれだよ? 産んだとかじゃないよ」
「ん? 生みの親……産んでない……?」
さっきから、ずっと謎ばかりだ。
「そう。キャラクターだよ。私の描いた」
「キャラクター……? 描いた……?」
彼女たちは漫画家が、描いた、キャラクターだって……?




