絶対死ぬなよ、ぶっ殺すぞ。
「よかった! まだ生きてた!」
「なんですか、失礼な」
「よかった! まだこんな感じだ!」
「あなたは……本当に変わらないですね」
アカネ王女が生きていた。しかもクソ生意気なまま。顔の皺は増えたけれども。
「よかった……よかったなあ」
「なんですか、気持ちの悪い」
「嬉しいなあ……」
いや、シンシャの町から急いで来てさ。
頼むから生きててくれって、それだけ祈りながら走ったんだよ。
「なんですか、この……ぐふっぐふっ」
「だ、大丈夫か!? アカネ!」
し、死ぬな! 死なないでくれ!
「……大丈夫です」
「よかった~」
「本当に気持ちが悪いですね」
罵ってくれ。もっと罵ってくれ。俺はお前が生きていることが嬉しいんだ。よくぞシンシャより長生きしてくれた。
「アカネ……、召喚してくれてありがとな」
「なんですか、お別れの挨拶みたいな。縁起でもない」
「はは、そうだな」
本当に。お別れに来たわけじゃないからな。
「明日、プロレス。見れるよな?」
「……なかなか歩くのが大変なので」
「俺が運ぶから。大事に運ぶから」
見てくれ。頼むから、プロレスを見てくれ。
「悪魔を倒してもらうために召喚したのに、まさか悪魔たちを従えるとは思いませんでした」
「ん? まあな」
いまさら何を。
「この町に、いえ、この国に平和が訪れたのは、勇者様のおかげです」
「……」
なんか、嫌な予感がするな。
感謝なんかしないで、罵ってもらえる?
「人口はあのときから倍以上に増えました」
すごいね?
寿命が短い分、繁殖が早いね?
それって俺のおかげなん?
そんなことよりさ。
「すっかり町も発展して……治安だけでなく、経済的にも、文化的にも……」
死亡フラグじゃね?
これ、死亡フラグなんじゃね?
「明日のプロレスが終わったら私は……」
完全に死亡フラグだ―――ッ!
阻止しろお―――ッ!
「うおおおおい! 言っちゃ駄目! それは言っちゃ駄目!」
「最後くらい話を聞いてくれても……」
最後って言うな―――ッ!
どうすりゃいいんだ、この状況は!?
「もう、思い残すことは……」
目を伏せるな! 何やってんだ!
お別れじゃないって言ってたじゃないか!
「最初にお呼びしたとき、本当に失礼いたしました。最後にお詫びできてよかった」
「言うなって! 待てって! 最後にプロレス見てからにしろって!」
お前からそんな殊勝なセリフ、聞きたくないんだよ!
プロレスで負けた俺を罵ってくれよ!
「あの、別にプロレスにそこまで思い入れは無いです」
「最悪だ!」
どんな悪口でも嬉しい自信があったのに!
興味ねえのだけはやめてくれよ!
俺は国王とか勇者とか無双とか、そういうのはどうでもいいけどレスラーなんだよ!
「もうわかったから、とにかくプロレスを見て欲しいの。最後でいいから」
懇願する俺。
頼むよマジで!
見て! プロレスを! 見て!
「そんなことより、この町をよろしくお願いしますね……」
「そんなことより!?」
いや、立派なお姫様ではあるが!
俺はプロレスを見せたい一心で、駆けつけたんだぞ?
アカネは虚空を見つめた。どうする、もうここでプロレスやる? 強制的に見せる?
「まさか悪魔に統治されることになるなんて……」
感慨深く吐露するアカネ。
そうなんだよな。悪魔が治めることになりましたね。
まあ、悪魔なんて呼び方、もはや誰もしてませんが。アカネ以外ね。
厳密に言うと、俺がこのエール王国を治めることになったんだよね。それぞれの町に悪魔が一人はいるって状態だ。信長の野望みたいにね。
ちなみにシンシャの町には、ふんにゃが。このアカネの町には、つるやが常駐します。内政の数値が高そうな二人だよ。
いや、俺たちの統治スタイルはどうでもいいのよ。
「そんなことよりプロレスをですね」
「そんなことじゃないですよ、町の統治が一番大事なことです」
いや、そうかもしれんけども……。
そもそもプロレスをしてくれと言われたのは、シンシャだもんな。アカネから頼まれたのは悪魔の討伐なんすよ。
だからこそ、プロレスを見て欲しいんじゃないですか。
シンシャの町の人々くらいさあ。子どもの名前にするくらい、悪魔のことを好きになってくれた町の人々みたいにさ。
俺たちのファンになって欲しいんだよ。アカネにも。
「この町にはつるやが常駐するから大丈夫だって。それより今はプロレスを見ることに集中しようぜ」
「つるやさんが治めてくれるなら、安心ですね……」
「おい、目をゆっくり閉じるな!」
「あとは……任せました……がくり」
「安らかに逝く気マンマン!?」
なんで逝き急ぐん!?
あんたらただでさえ寿命短いんだからさあ。
長生きしようとしましょうよ!
「……どうせあなたが勝つんでしょう?」
「え?」
なんか今までと雰囲気が違うな。なになに? なんですか?
「プロレスってあなたが勝つお芝居でしょ?」
「なんだとお――ッ!?」
こいつ、俺たちのプロレスをなんだと思ってんだ―ッ!
俺が勝ってるのは強いからであって、シナリオじゃねえよ!
「このアマ、八百長だと思ってるってのか――ッ!?」
「八百長だなんて言っておりませんが……お芝居でしょ?」
「芝居じゃねえ――ッ!」
あったま来た!
んだコイツよー!?
「だって、ねえ?」
このクソババア……腹立つ顔しやがって……。
「シンシャのとこでは、俺だって負けてるんですけど!?」
「たまには負けないと、面白くないですものね。じゃあ、明日は負けるのかしら」
「はあ!? 勝ちますけど!?」
「明日は勝つんですね。それはよかったですね」
「てめえこら、ぶっ殺すぞ!?」
明日まで生きてて欲しいと思っていましたが、今すぐ殺したいんですけど!?
生でプロレスを見たことが無い奴みたいな意見言いやがって。
「アカネ! お前がマッチメイクしろ!」
「試合の対戦カードを選べるということですか?」
「そうだよ。なんでもいいよ。やってやんよ!」
その代わり、明日まで生きてろよ、バカヤロー。




