卑怯、反則、敗北。最高。
「ら、ら、楽勝だーっ!」
「「うおおおおお!」」
楽勝じゃねえ。
楽勝なわけがねえ。
シンシャの町でのラスト5連戦の4戦目。
ワカルティーと組んでるとはいえ、相手が4人。
勝った。勝ったけども。
疲れがヤバい。そりゃそう。
「いやーっ、やっぱ強いねー」
「ユウは、やっぱり最強」
「パワフルだった」
……めっちゃ元気じゃん……。こいつら負けた俺より、全然元気なんですけど。
一応、説明しておくけど。
普通のプロレスだったら、タッグマッチってタッチで交代するわけですよ。つまりレスラーがいっぱいいても、リングの中は1VS1なんです。
しかし、俺たちのやるプロレスはそうじゃない。
全員が同時に闘う。
そして、誰かが負けたら終わりじゃない。全員が負けるまでやる。
そんなアホなルールを決めたのは誰かって? 俺だよバカヤロー! 自分で闘うことは想定してなかったの!
「すごかったねー」
すごかったねじゃないのよ、ワカルティー選手。
頬を紅潮させてさ。ただの大ファンじゃないっすか。
確かに俺は応援してくれと言ったよ。応援っていうのはさ、俺が闘ってるときに他の相手を食い止めるとか、俺がダウンさせたところを追加で攻撃するとかなのよ。
「がんばれー」とか「まけるなー」とかじゃないのよ。それじゃ応援団じゃないですか。タッグパートナーの動きじゃないんですよ。
「……まあな」
まあ、今そのアドバイスを言う気にはならない。こんなキラキラした目の女の子に、お前は役立たずだったとは言えない。
それに明日は、ワカルティーも含めた全員と闘うわけだからな……。
1VS5だからね。絶対に負けると思っていたが、今や負ける気はないね。この役立たずのワカルティーが敵に回っただけで、なんの意味もありませんからね。
――と、思っていたんですよ。それで明日の試合。
「ず、ズルいぞお前らー!」
ワカルティーは俺の足に組み付いた。正直、効果は抜群です。こんなもん、まさに足枷ですよ。
もちろん振りほどこうとはしますよ。しかし、あいらんが逆の足に抱きついてるわけよ。あのね、作戦成功すぎ。
こんな戦略が立てられるなら、もっと早くやってくれよ!
そんで、つるやはずっとorzをやっています。踏み台にして飛ぶための。
「ぐほお」
つるやの背中でジャンプした、しまんのミサイルキックが決まる。
「ぐおお」
つるやの背中でジャンプした、ふんにゃのミサイルキックが決まる。
「ぐほお」
つるやの背中でジャンプした、しまんのミサイルキックが決まる。
「ぐおお」
つるやの背中でジャンプした、ふんにゃのミサイルキックが決まる。
もういいって!
エンドレスで両足キック食らってるっだけじゃねーか。
一定のテンポでずっと。ししおどしじゃねーんだから。
ぐおお。
こんなもんプロレスじゃねーっつの! オーディエンスが許さないっての!
「「うおおおおお! いけえええ! わあああああ!」」
なんでだよ。
なんで盛り上がってんだよ。
つまんないでしょ、絶対に。同じ映像の繰り返しだぞ。ゆく年くる年じゃねーんだからよ。
「ついにユウ様が負けるかもしれないというので、手に汗を握っているようですわ」
ああ、そう。俺がピンチなのが珍しいからか。
解説のシンシャ、民の気持ちをわかってる様子。いい解説、いい王女。
「ユウ様、逆転してくださーい」
サンキューな! あんただけはいつも俺の味方だね。
観客が俺の負けを望んでる。いいね、むしろやる気が出てきたよ。
逆転、してやるよ!
「よいしょお!」
「わっ」
俺は、ミサイルキックに来たふんにゃの両足をがっちりホールド。
そのまま強引に持ち上げ、ふんにゃをしまんにぶん投げる。
「うわー!」
これで二人を打破。
つるやはまだorzのままです。
「おいおい、ヤバいぞ」
あいらんが、ビビって手を離してしまった。それは悪手ですね~。
そうなっちゃったら、わかるてぃは剥がせる。
「うわあー!」
ワカルティーを高く持ち上げて、ダウンしてるふんにゃとしまんに向かってポイ。
「ぐふー!」
「ぐっ」
「んがっ」
とりあえず3人はダウンと。
「あれっ?」
つるやはようやく異変に気づいた。orzのまま首をフリフリ。本当は賢い子なんですけどね。
つるやはほっておく。
「ひえーっ」
あいらんはビビって何もできていない。慌てふためくだけ。
「とーう」
「わーっ」
前蹴りで、あいらんをすっ飛ばす。
その間に、つるやを倒しておきます。クッキング教室みたいですね。さんまに塩を振っておいて、その間に大根を擦るみたいなね。
あいらんを吹っ飛ばしておいて、その間につるやに……
「はい、よいしょ」
「ああ……」
「「1,2,3!」」
技もなにも、一切攻撃なんかせず、つるやの両肩を普通に抑えただけで3カウント。つるや一人じゃそんなもんです。
大根を擦るよりも簡単ですねえ。
なお、カウントは観客のみなさんが叫ぶシステム。レフェリーがいませんからね。結構盛り上がるし、いいかもしれん。
負けた選手は、リングから出ていきます。これで全員倒すまでやるんですよ。大変ですねえ。
さて、ワカルティーを倒すか。
ワカルティーをやっつけてしまえば、昨日と同じ状況になるわけですから。もう勝ったも同然です。
正直、余裕かもな~。
「あいらん! おっぱい!」
「おうっ!」
はあ?
おっぱい?
そんな技はない。もちろんね。
あいらんは、走ってやってくるとラリアットではなく――ヒップアタックみたいにおっぱいで攻撃するつもりか?
いや、さすがにダメージないだろ、おっぱいアタックは――と思っていたのだが。
「ほいっ」
「ほあっ!?」
あいらんは、俺の両手を自分の胸に押し付けた。どういうこと?
「どうだっ」
どうだと言われましても。
「んー。ちょっと大きくなったかも」
「マジか!?」
ちょっと喜ぶあいらん。いい感じだよ。もみもみ。
「「おおおおおおおおおおおおおおお」」
小さき人間の、男だけの声が響く。そうかそうか、羨ましいか。
もーみもみっとね。
「いまだ!」
「ふっ!」
しまんとふんにゃの、キックが太ももに当たる!
「いたっ」
さすがに痛い。ノーガードだし。
「ここでこう!」
「ぎゃあー!」
ワカルティーのカンチョウ攻撃! 一番痛えよ! しまった、これはプロレスのルール違反の技だって教えてなかった! 攻撃魔法よりも強烈ゥ!
「はい、揉んでね~」
「もみもみ……はっ!? これ無防備すぎるだろ!」
なんてこった、俺にあいらんのおっぱいを揉ませることで他の3人が攻撃し放題ってことか。
天才か……?
「あんっ……」
え?
まさか、あいらんが感じてる、だと……?
ちょっと前かがみになる俺。
そこに……
「今だっ!」
しまんが俺の股間をキック!
「ぎゃあああああああああああああ!」
痛い! 痛すぎる! これはヒドイ!
本当のプロレスラーでもこんな攻撃は受けてないよ。なぜならプロレスラーは試合中に勃起しないからね!
「とりゃっ」
「んおおおおおおおおおお!」
ワカルティーがカンチョウ! 思わずお尻を引っ込める。すなわち股間は前に出る。
「キーック!」
「んごおおおおおおおおおお!?」
ふんにゃの股間キック! 死ぬ! っていうか反則だろ! レフェリーは不在! ちくしょおおおお!
え? あいらんの胸から手を離せばいいって? あのね、プロレスっていうのはそういうもんじゃないの。技をかけられたら、それは受けるものなの。
ボディスラムされて、相手がトップロープから飛んできたら、それは食らうの。避けないの。
それと一緒で、胸を揉んでくれと言われているのに、手を離すなんてこと、できるわけないだろーっ!
そんなやつはレスラー、いや、男じゃないね!
「あいらん選手、卑怯な技で翻弄しています」
解説のシンシャ王女、卑怯な技と表現されました。確かに卑怯っちゃ卑怯だな。
「おりゃっ」
「いまだっ!」
カンチョウに来た指を、ケツをぎゅっとすることで捕まえた。
ここで蹴りが来るでしょ?
「うおりゃ!」
「ひあっ」
カウンターで蹴りで迎撃。
ふんにゃはすっ転んだ。
いつまでもおっぱいを揉んでいたら勝てない。あいらんの胸部を掴んだまま、持ち上げて……下に叩きつける。パワーボムならぬオッパイボム。
そのまま、あいらんをフォール。
「「1,2,3!!」
あいらんを撃破。
すぐにすっ転んでいる、ふんにゃにボディプレス。
「ぐふー!」
もちろん、そのままフォール。
「「1,2,3!!」
ふんにゃを倒した。これで残りはしまんとワカルティー。
ワカルティーを最後にしちゃうとしらけるか。
「よっし、しまん」
しまんとがっぷりよつで、やりあおうとしたのだが。
ちょっと甘く見ていたようだ。
「ぎゅーっ」
「んな!?」
ワカルティーが、ふんにゃを台にしてジャンプ。俺の顔に抱きついた。何も見えない。子どもらしいミルキーな匂いに包まれる。
「今だ!」
今ですねえ~。膝を蹴られました。
しまんは、キックが上手いんですよ。効きますねえ。
「もっかい!」
ワカルティーが耳元で叫ぶ。うるせー。
逆の足を蹴られ、ガクッと膝をつく。
「はーっ!」
腹に前蹴りを食らったようだ。見えていないので、予期せぬ攻撃はダメージがでかい。顔にワカルティーが覆いかぶさって体重がかかっていることもあり、後ろに倒される。
ワカルティーはそのまま、俺の頭を抱え込んでおり、肩に体重が乗ったまま。一瞬、そのままフォールになってしまう。ブリッジで返さなければ。
「しまんちゃん!」
「わかってる!」
しまんは、ワカルティーに覆いかぶさった。
二人の体重が、俺の頭と肩だけにのしかかる。
「「ワーン!」」
ちゃんとフォールされているようです。
「「ツー!!」」
返さなければ。腰は上がった。腹は上に上がった。
「「スリー!!!」」
肩は上がらなかった。
「「勝ったー!」」
「「勝ったぞー!」」
負けた。俺が、勇者の俺が負けたのだ。
なのに、人間たちが「勝った」と。
悪魔たちが、メスガキたちが勝ったことを、喜んでいる。
こんなに、負けて嬉しいことがあるんだな――。
俺はしばらく、異世界のプロレスのリングの上で、ノックダウンしていた。




