その日、間違いなく僕たちがサイキョーだった。
「おい、またぐなよコラ」
俺は神聖なプロレスを邪魔しようとするオスガキに忠告する。
「またぐなよ」
「またぐって何だよ。ロープをってこと? くぐるだろ普通」
「またぐなよコラ」
「くぐるって」
「おいコラ、たこコラ! またぐなって言っただろーがコラ!」
「だからまたいでないって。くぐったって」
「このヤロー!」
俺はダッシュでリングに。
あいらんとしまんはリングから下ろす。
あったま来た。神聖なリングに上がりやがって。
こいつは俺が倒す。
「おい、ここに上がったってことはわかってんだろうな」
「いや、よくわかんねーけど……」
「このやろーが」
「なんで服を脱ぐんだ?」
「こいよコラ!」
「え? 攻撃しろってこと? なんで? 上半身裸で胸を張るってどういうこと? 防御力ゼロじゃん」
「こいよコラ!」
「わざわざ膝をついて、攻撃しやすく……なんだコイツ……」
ビビってやがんな。
「おい、みんな。この悪魔ビビってるぜぇ~!?」
俺がマイクパフォーマンスさながら、そう言い放つと「ウワアー」っという今までで一番の歓声が。
き、気持ちいい~。
「は? ビビってねえし、は? バカかと思っただけだ」
ガキですねえ~。ほんとガキ。俺から見たらただの小6のガキ。散髪してないから髪が長くて雑に縛ってるだけの男子。ちょっと日焼けしてる夏休みのロン毛のガキ。
「じゃあ~かかってこいよ。あ? ほんとはビビってんだろ?」
そう煽ってやると、トサカにきたようです。御しやすいねえ。
「このウドの大木が―!」
ほう。意外と言うじゃん。
普段ならブチギレるところだが、プロレスだとこういうこと言うのいいよ。
「おらぁ!」
シーン。
胸を蹴られたのに、音がならない。バシ―ッという音がしてほしいものです。
「きかねえなあ」
普通は威勢を張るセリフなんだが、ほんとに効いていない。
「もっと蹴ってこいよ」
「この、馬鹿にしやがってー!」
馬鹿にしている。
「くそがっ!」
「ぐえっ」
キックが喉に当たった。さすがに喉は痛い。
ちッ。
「やってくれたなこのクソボケ野郎ー!」
「ひいっ!? 蹴ってこいと言って蹴ったらキレた」
そういうもんなんだよ!
「このやろう」
俺は相手の首をひっつかみ、左脇に抱える。
右手でズボンを乱暴に持ったら、腰を少し落として思いっきり持ち上げる。
ブレーンバスターと呼ばれる技である。
一度相手を真上に高々と掲げる。
「う、うわー! うわー!」
ビビり散らかすクソガキ悪魔。
「「おおおおおおおお」」
最高潮に盛り上がる人間たち。
快感だぜ。
「おらああああああ!」
後ろに倒れる。
クソガキはダーンと背中を打ち付ける。
「ぐほっ」
このリングは硬くない。だから背中はそこまで痛くないと思うが。
息ができなくなるからね。「ぐほっ」っとはなるね。
ま、反撃できなさそうですし、続けて攻撃しちゃおうか。
俺はガキの足を持ってくるりとうつ伏せに変えると、背中にどすんとケツを下ろす。そのまま、両足を持ってぐっと背中を反らす。いわゆるボストンクラブ、逆エビ固めという技だね。
「ああああああああああ!」
背骨の痛みに耐えかねて絶叫する悪魔。
ギブアップされちゃ困るので、すぐに解除。
くるっと方向を転換させ、今度はガキの腕を脚に乗せ、顎を持って背中にを反らす。これはキャメルクラッチという。背中も痛いが、首と喉にもダメージ。
「ぐぐぐぐ」
効いてる効いてる。
これでギブアップもつまらんので、やっぱり解除。
「もう終わりか、このクソガキが」
挑発と思わせておいて、休憩時間を与えてやる俺。
だって、めっちゃ盛り上がってるんだもの。あいらんとしまんじゃ出来ない技も俺ならできるのだもの。
「くっそ、このやろ」
適当に腕をぶん回してくるガキ。足りないね。
「おら、もっと来いよ」
両手を上に向けてカモーンのポーズ。いわゆるщ(゜д゜щ)。
「ちくしょう!」
顔面にグーパンチ。
かっちーん。
「てめえ、反則とはいい度胸だな」
「反則!? しらねーよ、そんなもん」
「はーん。さすが悪魔ってわけだ」
「いや、ルールがあるとか知らな……」
俺はガキの頭を髪をつかんで下げさせると、膝で頭を挟む。腰を掴んで引っ張ると、軽々と逆さ吊りになるガキ。
「うわうわうわ」
ビビってるねえー。
ここで、膝を地面に落とす。パイルドライバーですね。ここで後頭部をリングに叩きつけるほうが痛いんですが、あえてやりません。なのでほぼノーダメージ。
それでも大技感があるので、盛り上がる観客。
おそらく恐怖の開放だけで、ぐてんと倒れ込むガキンチョ。
「いいぞー!」
「いけー!」
あいらんとしまんの声援。
ゆきうとつるやは、握りこぶしを作って見守ってくれている。
よし、そろそろ決めるか。
髪をつかんで立たせてから、後ろに回り込んで相手の左腕を俺の肩に。そのまま左脚と腰を持って、へそで投げるイメージ。肩と首をリングに叩きつける、バックドロップだ!
ブリッジしたような格好のまま、相手の肩をリングに付けてホールド!
でも、カウントを数えるべき俺が選手になっている。
こいつは誤算だ、どうしたものか。
「「ワーン!」」
会場にいる人間。あいらんとしまん、それにゆきうとつるや。さらに魔法で大きな声になっているシンシャ王女も。
「「ツー!」」
ここにいるみんなが。大きな声で、カウントを数えてくれている。
小さな人間も、悪魔も、みんなが俺を応援してくれている。
「「スリー!!」」
やばい、ちょっと感動してんだけど。
乱入してきてくれてありがとうな、クソガキ。
ホールドを解除して、勝ち名乗りをあげる。
「勝ったぞー!」
「「うおおおおおおおお!!!」」
「ゆ、う、しゃ!」
「「ゆ、う、しゃ!」」
「「ゆ、う、しゃ!」」
鳴り止まぬ勇者コール。
戦後間もない昭和の時代に、街頭テレビのプロレスで、大きな外国人レスラー相手に戦ったプロレスラーのように。
俺は異世界で英雄となった。




