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哀しみに屈するな。怒りに抗うな。

「ふーっ」


 朝。

 家から出て、体を伸ばす。

 鳥の鳴き声を聞きながら、白い雲を見やる。

 ため息って、幸せなときにも出るんだね……。

 昨晩はよかったな……。


「こういうとき、コーヒーがあるといいと思うよな」


 この世界、コーヒーがありません。

 ミントティーっていうの? ジャスミンティーみたいな? そっち系を作ってもらって飲みます。

 

「お、あいらん。お茶を……」

「!?」


 逃げ出した。

 どうした、あいらん。


「おはよー!」

「お、ゆきう」


 黒髪お団子ヘアーが、手をぶんぶんさせながら家から出てきた。


「おはよう。なんかあいらんが変なんだが」

「いや、変なのはおにーさんなんですよ」

「は?」


 俺が変だと? 自覚がありすぎる。今更言うことか?


「今までだったら、みんなでしてたでしょ」

「ん? はいはい。まあね」


 みんなでね。仲良くね。むふふ。


「昨日は、ねえ?」


 そうだね。昨日はみんなではしてないね。理由があるよ。


「まあ、ほら。つるやは初めてだったし」


 初めてでそういう多人数プレイというのもね?


「いや、初めてのところを見せるのおかしいよ?」


 非難するゆきうだが。

 そう。見せるというプレイをしたんですよ。これはよかったです。

 俺はつるやちゃんと。そして3人はそれを見るというね。興奮しましたよ。俺がっていうより、やっぱ恥ずかしがってるのがいい。

 

「で、めちゃくちゃ可愛がってたじゃん? 会ったばかりのつるやちゃんを」

「そうね。可愛かったねえ~」

「むう……」

「あれっ!? まさかゆきう!? ヤキモチ!?」

 

 赤くしたほっぺた膨らませて。こりゃヤキモチですねえ~。


「いや、まさかじゃないよっ! みんな焼いてるよお」

「ええっ!? しまんも?」


 思った以上の効果が!?

 見られることで恥ずかしくさせるためだったのに。見てる方はヤキモチを!?


「しまんなんて一番怒ってるよ」

「そうなの!?」


 見た目はいつもと同じだったと思うんすけど?


「え? あいらんもそれでアレってこと?」


 俺の顔も見れないってことなん!?


「アレはね。ちょっとズルいね」

「ズルい?」

「アレはほら。自分がまさかヤキモチ焼くなんて思ってないから、それを認めるのも恥ずかしくてどうしたらいいかわかんないんだよ」


 ほう……。

 そういうことだったのか。

 それであんな態度に……。


「かわいすぎるだろ、あいらーん!」

「叫んじゃったよ。でも、おにーさんが叫んじゃうのわかる。ズルいもん」


 いや~。


「じゃあ、やっぱ良かったんじゃん。昨晩の」


 ワイ軍師、 未曾有の戦略成功。赤壁の戦いを超える戦果ですよ。


「うーん。みんな仲良くしてた方がいいんじゃないの? しまん、怒ってるよ?」

 

 ふむ。まあ、しまんを怒らせるのは怖い気もするが……。


「怒らせたら、慰めればいいじゃない」

「おお~」


 パチパチパチパチ。ゆきうが盛り上がって拍手。

 何か思いついたのか、頭にぴこーんと「!」を出したあと、人差し指で頭にツノを作った。


「怒ったぞ~。慰めろ~」

「おお~。そんな満面の笑顔で怒ってる人始めてみたぞ~」

「ぷんぷんだぞ~」

「大変だあ~。こりゃ慰めなきゃ~」


 とりあえず頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。


「んふ~。もっと撫でないと許さないぞ~」


 ええ~?

 なにこの絵に書いたような、あざとさ~?

 ちょっと可愛すぎやしないか~?


「もっと頭を撫でるぞ~」

「ぎゅっとしろ~」

「ぎゅっとするぞ~」

「カワイイって言え~」

「カワイイぞー!」

「好きって言え~」

「好きだぞー!」

「まだ怒ってるぞ~」

「もっと慰めるぞぉ~」

「いい加減にしろ」

「「うわあ!?」」


 突如現れたのは、しまん!?


「いつの間に?」

「ずっと見てた」


 うわー。

 言葉から漏れ出る怒気。佇んでるだけで変わっていく空気。

 本当に怒ってる人ってこれじゃん。ゆきうが怒ってないことはわかってたけど、しまんはマジで怒ってるじゃん。

 やべー。どうすりゃいいんだ。


「……」


 うーわ。腕くんで、人差し指をピコピコさせてんじゃん。これぞ不機嫌。

 こりゃ困ったな……。


「……」


 ジロッと睨まれる。

 こっわー。

 いや、これは確かに愚策だったかもしんない。

 しまんは怒らせちゃ駄目だったのかもしんない。

 どうすりゃいいんだ……。


「……怒ってるけど?」

「……わ、わかってます」

「……は?」

「……え?」

「……はよ」

「え? はよ?」

「……慰め」

「えっ?」

「怒ってるんだから、慰めろー!」

「えーっ!?」


 慰めて欲しかったってことー!?

 羨ましくて怒ってたのー!? それにしちゃガチで怒りすぎちゃいねーか?

 おそるおそる頭を撫でる。


「ふん……もっと」


 ええ~?

 なにこの絵に書いたような、ツンデレ~?

 一番かわいいのは、しまんなの~!?

 撫でて、ハグして、カワイイって言って、好きって言う。あと我慢できなくてキスもする。


「ふ、ふん。ま、いいけど」


 んも~!

 やっぱ作戦大成功だったんじゃないの~。

 世の中、平穏など不要。

 怒らせて、慰める。これ。

 喧嘩するほど仲が良い。このことわざの真意がこれ。


「あー! むー!」

「はいはい。しまんにだけキスしたから怒ってるんだね。んー、ちゅっ」

「えへ~」


 可愛さがスパイラルしてるじゃん。

 いいことだらけじゃん。みんな、女の子は嫉妬させて怒らせていこう?


「ふー。お腹すいた」

「ああ」


 ゆきうは腹ペコだってさ。確かにな。

 いつもなら、そろそろあいらんが朝食を用意してくれるんだが……


「あ」


 そこには、草むらに体育座りでしょんぼりしているあいらんが居た。怒るとか拗ねるとかじゃなく、寂しそうだった。

 

「うわあ」

「……いったげて」


 ゆきうもしまんも、最優先で対応しろと言ってくれた。

 うん、女の子ってのは怒ってる方がいいね。しょんぼりされちゃうと。困っちゃいます。

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